第62話 鉄屑の墓場と、暴走する「清掃員」
地下迷宮は、巨大な廃棄物処理プラントのような場所だった。
錆びついたパイプ、放置されたコンベアベルト。
そして、そこら中に散らばる「失敗作」の残骸。
「……酷いな」
カエル博士が呟く。
「ここは研究所ではない。……墓場だ」
その時、通路の床板が轟音と共に吹き飛んだ。
下から這い出してきたのは、掃除機と多脚戦車を悪魔合体させたような、歪な殺戮マシンだった。
レンズが赤く光り、俺たちをロックオンする。
『……汚物……発見……。焼却……シマス……』
「来るぞ! 散開!」
ガルドが叫ぶと同時に、マシンのアームから超高熱のプラズマ火炎が放射された。
ゴオォォォォッ!!
通路が一瞬で灼熱地獄と化す。
スペックが展開したシールドが、熱波に耐えきれずバチバチと悲鳴を上げる。
「シールド出力低下! 持ちません!」
「くそっ、俺の聖銀弾も弾かれる!」
ルナが撃ち込むが、マシンの装甲は厚すぎる。
マシンが突進してくる。
その巨大な鋏が、逃げ遅れたガルドに迫る。
「ガルド!」
カトレアが割って入る。
ガギィィン!!
大剣で鋏を受け止めるが、圧倒的なパワーに押され、カトレアのブーツが床を削る。
「ぐぬぬ……! 重い……!」
「カトレア、退け! 腕が千切れるぞ!」
マシンはさらに、背中のハッチを開き、小型の自爆ドローンを大量に射出した。
無数の爆弾虫が、俺たちに向かって飛び込んでくる。
「うわぁぁ! 虫だらけだ!」
アランがアサルトライフルを乱射するが、数が多すぎる。
ドーン! ドーン!
至近距離での爆発。
爆風で吹き飛ばされたルナが壁に激突し、ぐったりと崩れ落ちる。
「ルナ!」
パンドラが駆け寄るが、そこにマシンの火炎放射が迫る。
絶体絶命。
「……ええい、私の美学に反するが仕方ない!」
クローネ博士が叫び、カエルの口から小さなカプセルを吐き出した。
それは、かつて開発した「強酸性スライム」の濃縮液だ。
ビチャッ!
スライムがマシンの関節部に命中する。
ジュワワワワ……!
酸が金属を溶かし、マシンの動きが一瞬止まる。
「今だ! コアを狙え!」
カトレアが渾身の力で剣を振り抜く。
ズドンッ!
溶けた装甲の隙間から剣が突き刺さり、動力炉を破壊した。
マシンは痙攣し、黒煙を上げて沈黙する。
「はぁ……はぁ……」
全員ボロボロだ。
だが、ここはまだ入口に過ぎない。
奥へ進むにつれ、敵はより凶悪に、よりグロテスクになっていった。
壁から湧き出るナノマシンの霧。
触れるだけで肉を腐らせる毒ガス。
俺たちは傷つき、何度も死にかけながら、泥を這うようにして最深部を目指した。
そして、ようやく辿り着いた制御室。
そこには、培養液に浸かった巨大な脳髄――最後の番人が待っていた。
『……誰ダ……? 私ヲ……壊シニ来タノカ……?』
脳髄から放たれたサイキックウェーブが、俺たちの脳を直接揺さぶる。
キィィィィン!!
激痛。鼻血が止まらない。
立っていることさえやっとだ。
「……同業者か」
クローネ博士だけが、平然と前に出た。
「安心しろ、先輩。……貴様の失敗は、私が引き継ぐ。システム、強制シャットダウン!」
博士が舌でコンソールを叩く。
激しい電撃が博士の体を焼くが、彼は止まらない。
カエルの皮膚が焦げ、煙が上がる。
「博士!」
「構うな! ……これが私の贖罪だ!」
ターンッ!
最後のキーが押されると、脳髄は断末魔と共に崩れ落ちた。
システム停止。
『マスターキー』の保管庫が開く。
「急げ! 自壊が始まるぞ!」
崩落する天井。迫り来る瓦礫の雨。
俺たちは負傷したルナと博士を抱え、崩れゆく迷宮を全速力で駆け抜けた。
背後で爆発音が轟く。
間一髪、地上へのエレベーターに飛び乗る。
脱出成功。
だが、手に入れた「黒い箱」の重みは、俺たちの想像以上に重かった。




