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第61話 理想郷は、少しカビ臭い


 リングワールドの港に降り立った俺たちを待っていたのは、驚くほど静かで、そして無機質な都市だった。

 建物は全て白一色。行き交う人々(古代人の末裔)も同じ白い服を着て、表情もなく歩いている。

 まるで病院の待合室のようだ。


「……なんか、息苦しいな」

 ガルドが襟元を緩める。

 彼の派手な海賊ファッションが、ここではひどく浮いている。


「ようこそ、遠き来訪者よ」

 出迎えたのは、先ほどの老人――この星の長老『ゼノン』だった。

 彼は俺たちを議事堂へと案内した。


「単刀直入に言おう。……ヴォイド・イーターを倒す『マスターキー』は、確かにここにある」

 ゼノンは言った。

「だが、渡すわけにはいかん」


「なぜです!?」

 アランが詰め寄る。

「俺たちの銀河は今も食われているんです! それがあれば助かるかもしれないのに!」


「無駄だからだ」

 ゼノンは冷たく言い放った。

「ヴォイドは、宇宙の『自浄作用』だ。増えすぎた文明を刈り取り、リセットするためのシステム。……それに抗うことこそが、混乱を招く」


「はぁ? 何言ってんの?」

 ルナが口を挟む。

「自分たちが作った掃除機にビビって引きこもってるだけっしょ? ダサ」


「無礼な!」

 側近たちが色めき立つ。


「……静まれ」

 ゼノンが制する。

「我々はここで、ヴォイドに見つからないよう、息を潜めて生きてきた。……感情を捨て、欲望を捨て、ただ種を存続させることだけに注力してきたのだ」


 なるほど。

 彼らの白い服も、無表情も、全ては「ヴォイドのエサ(感情や文明のノイズ)」にならないための防衛策だったのだ。

 生き延びるために、生きることを止めた人々。


「……それは『生きてる』って言わないわ」

 パンドラが前に出た。

「貴方たちは、ただ死んでないだけよ。……私のマスターを見てみなさい」


 彼女はアランを指差した。


「彼は毎日胃薬を飲んで、残業して、愚痴を言って……それでも、誰かのために必死に生きてる。……貴方たちの綺麗な都市より、彼の散らかったデスクの方が、よっぽど『生き生き』してるわ!」


「……パンドラ」

 アランは少し照れくさそうに頭をかいた。


「……ふん。野蛮な種族の感情論か」

 ゼノンは興味なさそうに吐き捨てた。

「だが、キーの保管庫を開けるには、『資格』が必要だ。……我々の祖先が遺した試練を突破できるなら、好きにするがいい」


「試練?」


「ああ。地下深くに封印された『オリジンの迷宮』だ。……そこには、かつて暴走した実験体たちが徘徊している。生きて帰れた者はいない」


 つまり、実力で奪ってみろということか。

 望むところだ。


「行きましょう、アラン総裁」

 スペック副長がフェイザー銃の点検を始める。

「論理的に説得できない相手には、物理的な結果を示すしかありません」


「ああ。……行ってやるさ」

 アランは腹を括った。

「俺たちはゴミ溜めから来たんだ。……綺麗なだけの理想郷より、泥臭い迷宮の方がお似合いだろ?」


 俺たちは、始祖の星の地下、禁断の迷宮へと足を踏み入れた。

 そこで待っていたのは、ヴォイド・イーターの「原型プロトタイプ」となった、グロテスクで悲しい失敗作たちだっ

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