第60話 科学忍法・分身主砲と、約束の地
アーク・ノヴァの主砲『ハイブリッド・キャノン』に、ルナの魔力とスペックの演算データが注ぎ込まれる。
狙うは、ケルベロスの再生した三つの首。
同時に撃ち抜かなければ、奴は無限に蘇る。
「術式構築、完了! ……いつでもいけるっす!」
ルナがスマホを掲げる。画面には『分身の術.exe』が起動している。
「ホログラム投射装置、出力最大。……実体化率40%。一撃なら持ちます」
スペックが冷静に調整する。
ケルベロスが咆哮し、三方向から同時に襲いかかってくる。
その牙が艦橋に届く寸前。
「今だ! 撃てぇぇぇ!!」
アランがトリガーを叩き込んだ。
ズドンッ!!
放たれたのは一発の光弾。
だが、それが空中で三つに分裂した。
いや、分裂ではない。空間そのものが歪み、三つの「本物」が存在するかのように複製されたのだ。
科学忍法・トリプルバスター!
ドォォォォォォン!!
三つの光弾が、ケルベロスの三つの首を同時に貫いた。
絶叫する間もなく、三つの頭部は光に包まれて消滅。
エネルギー供給を断たれた巨体は、黒い霧となって霧散し、虚空へと溶けていった。
「……やった!」
ガルドがガッツポーズをする。
艦内は歓声に包まれた。
「ふぅ……。MP空っぽっす……」
ルナがその場にへたり込む。
「お疲れ。……限定スイーツ、特盛で用意してやるよ」
アランは彼女の肩を叩いた。
ケルベロスを撃破したアーク・ノヴァは、ついに暗黒領域の深部、「嵐の目」のような静寂空間へと到達した。
そこで俺たちが目にしたのは、息を呑むような光景だった。
真っ暗な宇宙に、ポツンと浮かぶ、青く輝く美しい惑星。
周囲には、古代のリングワールドのような巨大構造物が回転し、惑星を守っている。
「あれが……『始祖の星』……」
パンドラが窓に張り付く。
彼女の瞳から涙がこぼれた。
記憶の中にある故郷と、同じ輝きだったからだ。
だが、俺たちが感動していると、リングワールドから通信が入った。
言語翻訳機が作動する。
『……警告。未確認船団。直ちに停止せよ。……貴公らは何者か? ヴォイドの尖兵か?』
厳めしい声。
モニターに映し出されたのは、パンドラと同じ銀髪を持つ、しかしもっと年老いた男の姿だった。
古代文明の生き残り。
彼らは、ヴォイド・イーターから逃げ延び、ここで隠れ住んでいたのだ。
「我々は敵ではありません!」
アランがマイクを取る。
「リサイクル・ユニオン総裁、アラン・スミシーです。……ヴォイドを倒す方法を求めて、ここまで来ました」
『……ヴォイドを倒すだと? 傲慢な。……我々でさえ逃げることしかできなかったものを』
老人は鼻で笑った。
だが、アランの横に立つパンドラの姿を見て、彼の表情が一変した。
『その娘……まさか、「オリジナル」の系譜か?』
「……私はパンドラ。貴方たちが捨てた、失敗作の末裔よ」
パンドラが毅然と言い放つ。
老人は目を見開き、やがて震える声で言った。
『……門を開けろ。……客人を迎え入れる』
リングワールドのゲートが開く。
俺たちはついに、ヴォイド・イーターの謎を解く鍵、そして古代文明の真実が眠る「約束の地」へと足を踏み入れた。
だが、そこで待っていたのは、歓迎だけではなかった。
長い年月が生んだ「歪み」と、新たな試練が俺たちを待ち受けていた。




