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第57話 遠征準備は「断捨離」から

 『始祖の星』探索ミッション。

 それは、リサイクル・ユニオン始まって以来の、最大規模の遠征計画だった。

 銀河の外、補給も救援も望めない暗黒領域への旅。


 本社ビルのドックでは、遠征用旗艦『アーク・ノヴァ(新星の箱舟)』の建造が急ピッチで進められていた。

 旧ネメシス要塞のパーツと、連邦のワープ技術を融合させた、全長10キロメートルの超巨大母艦だ。


「でかいな……。これなら何でも積めそうだ」

 ガルドが船体を見上げて口笛を吹く。


「いいえ、ガルドさん。……スペースは有限です」

 リズが厳しい顔でリストをチェックしている。

「食料、弾薬、修理資材……。片道切符になる可能性もあるので、最低でも3年分の備蓄が必要です。娯楽施設やジムは却下ですぅ」


「マジかよ! 筋トレできねぇのか!」


 アランもまた、執務室で頭を抱えていた。

 遠征メンバーの選抜だ。

 全員を連れて行くわけにはいかない。本拠地の防衛も重要だからだ。


「……カトレア、お前は残れ」


「なっ!? なぜですか主よ! 私が一番の戦力です!」

 カトレアが机を叩いて抗議する。


「だからこそだ。……俺たちがいない間、この銀河を守れるのはお前しかいない」

 アランは真剣な眼差しで言った。

「ミレーヌやケーク艦長とも連携して、留守を頼む。……これは『左遷』じゃない。『栄転』だ」


 カトレアは唇を噛み締め、やがて深く頭を下げた。

「……御意。この命に代えても、主の帰る場所を守り抜きます」


 アランは一つ荷物を降ろした気分だったが、すぐに次の問題がやってきた。

 パンドラだ。

 彼女は自分の部屋で、大量のぬいぐるみやアイドル衣装をトランクに詰め込もうとしていた。


「これと、これと……あと限定フィギュアも!」


「おい、修学旅行じゃないんだぞ」

 アランが呆れる。


「だって! 向こうでライブするかもしれないでしょ!?」

 パンドラが膨れる。

「それに……マスターが寂しくなった時、癒やしてあげるグッズも必要なのよ」


「俺は大丈夫だ。……それより、お前の『記憶』はどうだ?」


 アランは尋ねた。

 石板とのリンク以降、パンドラは時折、頭痛を訴えるようになっていた。古代の記憶が蘇りつつあるのだ。


「……平気よ」

 パンドラは少し寂しげに笑った。

「ただ、少し怖いだけ。……始祖の星に行けば、私の『本当の役割』を知ることになる。それが、マスターを傷つけるものだったら……」


「その時は、俺が全力でリサイクル(修正)してやるよ」

 アランは彼女の頭を撫でた。

「どんな過去があろうと、今のお前は俺たちのアイドルだ。……自信を持て」


 パンドラは涙ぐみ、トランクからぬいぐるみを一つだけ取り出して抱きしめた。

 「……これだけでいい。あとは全部置いていく」


 数日後。

 アーク・ノヴァは、見送る人々(カトレアやミレーヌたち)の歓声を受けながら、銀河の外縁部へと出航した。

 未知なる暗黒領域。

 そこには、ヴォイド・イーターの巣窟だけでなく、物理法則さえ歪むような「深淵」が広がっていた。


(続く)

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