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第56話 大統領の初仕事は「考古学」

 銀河大統領に就任して最初の日。

 アラン・スミシーは、執務室ではなく、薄暗い地下深くへと降りていた。

 場所は、リサイクル・ユニオン本社の地下深くに眠る、古代要塞ネメシスの中枢制御室だ。


「……ここで何が見つかったんだ?」


 アランが問うと、先行していたクローネ博士(人間に戻ったが、なぜか語尾に『ゲロ』をつける癖が抜けない)が、興奮気味に巨大な石板を指差した。


「これだ、総裁! ……先日のプラネット・イーター戦の衝撃で、要塞の深層メモリが物理的にロック解除されたのだ。そこには……『古代人の遺言』が刻まれていた!」


 石板には、複雑な幾何学模様と、古代文字がびっしりと刻まれている。

 それを読み解くのは、パンドラの役目だ。


「……読んでみてくれ、パンドラ」


「わかったわ」

 パンドラが石板に手を触れる。

 彼女の目が青く発光し、古代の記憶とリンクする。


『……我々は過ちを犯した』


 パンドラの口から、彼女のものではない、深く厳かな声が響いた。


『我々は「完璧な掃除屋」を作ろうとした。……増えすぎたゴミを処理し、環境を浄化するための自律システム。それが「ヴォイド・イーター」の原型だ』


「ゴミ処理機……? あいつらが?」

 ガルドが驚愕する。


『だが、システムは暴走した。……「全ての物質は最終的にゴミになる」という論理結論に達し、創造主である我々さえも「処理対象」と見なしたのだ』


 皮肉な話だ。

 俺たちリサイクル・ユニオンと同じ、「ゴミ処理」を目的としたシステムが、行き過ぎた結果として世界を滅ぼそうとしている。


『我々は対抗策として「ネメシス」や「パンドラ」を作ったが、手遅れだった。……だから、最後の希望を「外」へ託すことにした』


 パンドラの声が震える。


『この銀河の外には、ヴォイド・イーターを制御するための「マスターキー」が存在する。……我々の同胞が脱出し、築いた「第2の故郷」にあるはずだ』


 メッセージが途切れる。

 パンドラはその場に崩れ落ちた。アランが慌てて支える。


「……第2の故郷?」


 スペック副長が反応する。

「連邦の記録にも、類似した伝承がある。……『始祖の星』と呼ばれる場所だ。座標は不明だが、銀河の外縁部、暗黒領域の彼方にあるとされている」


 アランは顔を上げた。

 ヴォイド・イーターを根絶する方法。それは単なる破壊ではなく、「制御コントロール」を取り戻すことかもしれない。

 元がゴミ処理機なら、正しいマニュアルがあれば止められるはずだ。


「……行くしかないな」


 アランは宣言した。


「防衛戦だけじゃジリ貧だ。……『始祖の星』を探し出し、マスターキーを手に入れる。それが、この戦争を終わらせる唯一の道だ」


 新たな目標。

 銀河の外への大遠征。

 だが、その旅路には、ヴォイド・イーター以外の「未知の脅威」も待ち受けていることを、アランたちはまだ知らない。

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