第55話 銀河サミットと、私の席がない
アランが3日間の爆睡から目覚めると、世界は少しだけ変わっていた。
プラネット・イーター撃破のニュースは銀河中を駆け巡り、『リサイクル・ユニオン』の名声は頂点に達していたのだ。
本社ビルの大会議室。
今日は、銀河中の国家代表や種族の長が集まる「第1回・銀河防衛戦略会議」が開催されていた。
「……えー、本日の議題は『対ヴォイド・イーター共同戦線の恒久化』および『戦時物資の配給計画』についてです」
議長席に座らされたアランは、緊張で胃薬を握りしめていた。
目の前には、鳥人族の王、機械生命体の代表、そして商業連合のミレーヌ理事などがズラリと並んでいる。
彼らは皆、ヴォイド・イーターの脅威を目の当たりにし、ユニオンの傘下に入ることを求めて集まってきたのだ。
「アラン総裁! 我が国にも『フェイザー・ライブ・システム』の供与をお願いします! 次の襲撃に備えたい!」
「いや、まずは避難民への食料支援が先だ! 我が星系は限界だ!」
「ユニオンへの加盟を申請したい! 審査はまだか!」
矢継ぎ早に飛んでくる要望。
戦争は終わっていない。むしろ、これからが長期戦の本番だという認識が、会場全体をピリピリとさせていた。
アランは助けを求めてリズを見たが、彼女はさらに大量の書類に埋もれて死んだ目をしている。
「……だめだ、処理能力を超えている」
その時、会議室の扉が開き、意外な人物が入ってきた。
連邦艦隊のケーク艦長だ。
彼は軍服ではなく、ラフなスーツを着ていた。
「やあ、アラン。……困っているようだね」
「ケーク艦長? なぜここに?」
「我々連邦艦隊も、正式にこの銀河への定住を決めたよ。……そこでだ、君に提案がある」
ケークはアランの隣に立ち、マイクを取った。
「諸君! リサイクル・ユニオンは、もはや一企業ではない! ……この銀河を守る『盾』であり、物流を支える『血管』だ! ならば、その運営も銀河全体で支えるべきではないか?」
会場がざわめく。
「我々連邦は、行政システムのノウハウを提供する。商業連合は資金を、各惑星は人材を出せ! ……アラン総裁一人に全ての負担を押し付けるのは、非効率的だ!」
スペック副長が横から補足する。
「計算上、現在の業務量はアラン総裁の許容量を400%超過しています。……過労死リスク、極めて大」
「おお……確かに」
「我々も甘えすぎていたか……」
参加者たちが納得し始める。
アランは感動で震えた。
(こいつら……俺の残業を減らすために……!)
こうして、リサイクル・ユニオンは、単なる組織から「銀河連邦政府(仮)」へと進化することになった。
各国の代表が役割分担し、アランの負担を減らす……はずだった。
「では、新体制の初代・銀河大統領を選出します。……満場一致で、アラン・スミシー氏!」
「は?」
拍手喝采。
アランは呆然とした。
CEOから大統領へ。肩書きが豪華になっただけで、責任はさらに重くなった気がする。
「……逃げたい」
アランが呟くと、背中に張り付いたパンドラがクスクスと笑った。
「諦めなさい、マスター。……貴方はもう、この銀河の『象徴』なんだから」
パンドラは、復活してから少し大人びた表情を見せるようになっていた。
彼女自身もまた、精神世界での対話を経て、ただの兵器から「心を持つ存在」へと成長していたのだ。
「それに、大統領になったら給料も上がるんでしょ? ……ハンバーグ、毎日食べられるわね」
「……そこかよ」
アランは苦笑し、覚悟を決めて立ち上がった。
新たな時代の幕開け。
だが、平和なサミットの裏で、銀河の外縁部から、またしても不吉な報告が届こうとしていた。
ヴォイド・イーターの創造主。
古代文明を滅ぼした「真の敵」の影が、揺らめき始めていた。
(続く)




