第52話 砕け散る星、継がれる意思
プラネット・イーターの巨大な顎から、空間をねじ切るような重力砲が放たれた。
その標的は、避難民でごった返すワープゲート。
だが、その射線上に、アラン座乗の旗艦『ネオ・アーク』が割り込んだ。
「全エネルギーをシールドへ! フェイザー出力、最大!」
アランが叫ぶ。
「歌うわよ! ……聴きなさい、私の魂の叫びを!」
パンドラが両手を広げる。
♪キィィィィィィィン!!
ネオ・アークの周囲に展開された「フェイザー・ライブ・シールド」が、虹色に輝きながら振動する。
直後、重力波が直撃した。
ズガガガガガガッ!!
激しい衝撃。
重力と位相波が衝突し、空間そのものが悲鳴を上げる。
艦内のモニターが次々と砕け散り、火花が舞う。
「ぐぅぅぅぅっ!」
アランは椅子にしがみつきながら耐えた。
背中のパンドラが苦悶の声を漏らす。彼女の精神エネルギーが、シールドの維持に削られていくのだ。
「シールド残存率、急速低下! 50%……30%……!」
リズが悲鳴を上げる。
「まだだ! まだ耐えろ!」
アランは歯を食いしばった。
視界の端で、民間船団が次々とワープゲートへ飛び込んでいくのが見える。
あと少し。あと数千隻。
一方、後方の技術開発艦では、サレクとクローネ博士が必死の作業を続けていた。
「共振周波数の調整、最終段階! ……だが、対象の質量が大きすぎて、計算が追いつかん!」
博士が叫ぶ。
「論理的な解決策があります」
サレクが静かに言った。
「私の脳を、演算コアに直結します。……並列処理を行えば、計算速度は10倍になる」
「馬鹿者! そんなことをすれば、貴様の脳が焼き切れるぞ!」
「構いません。……総裁が命を懸けて時間を稼いでいるのです。私が『残業』を惜しむ理由はありません」
サレクは躊躇なくケーブルを自身の首筋に接続した。
彼の目が白く発光し、モニター上の数値が爆発的な速度で確定していく。
『……解析完了。共振波動砲、発射シークエンスへ移行』
サレクの口から、機械的な声が漏れる。鼻から血が流れているが、彼は止まらない。
「……よくやった、若造! あとは任せろ!」
博士が発射トリガーに手をかける。
その頃、ネオ・アークは限界を迎えていた。
「シールド消滅! 直撃来ます!」
バギィィン!!
重力波が船体を直撃し、装甲をねじ切る。
右舷大破。ブリッジの窓に亀裂が走る。
「パンドラ!」
アランが背中を庇う。パンドラはぐったりとして動かない。エネルギーを使い果たしたのだ。
もうダメか。
そう思った瞬間。
ズドォォォォォォォン!!
後方から放たれた一条の光が、プラネット・イーターの纏う「惑星の殻」を貫いた。
共振波動砲だ。
ゴゴゴゴゴ……!
惑星ジュピタスの核が、特定の振動を受けて暴走を始める。
プラネット・イーターの動きが止まった。
『ギ……ギャアアアアア!?』
怪物が悲鳴を上げる。
自らが鎧としていた惑星が、内側から崩壊し、自分自身を押し潰し始めたのだ。
「今だ! 全艦、退避ぃぃぃ!」
ネオ・アークは、最後の力を振り絞ってスラスターを噴射し、爆心地から離脱する。
その背後で、巨大なガス惑星が大爆発を起こした。
カッ――!!
宇宙に第二の太陽が生まれたかのような閃光。
プラネット・イーターは、その爆炎の中に飲み込まれ、惑星と共に塵となった。
***
静寂が戻った宇宙。
傷ついたネオ・アークのブリッジで、アランは息を吹き返した。
「……勝った、のか?」
「はい、CEO……。敵生体反応、消滅しました」
リズが涙ぐみながら報告する。
「民間船団も、全船無事に脱出しました……!」
「そうか……よかった」
アランは脱力し、椅子に沈み込んだ。
だが、代償は大きかった。
一つの惑星が消え、多くの艦が傷つき、サレクは昏睡状態に陥った。
そして、アランの背中のパンドラもまた、ピクリとも動かない。
「……パンドラ?」
アランが呼びかけるが、返事はない。
彼女の体は冷たく、透き通るように薄くなっていた。
「嘘だろ……。おい、起きろよ。……限定スイーツ、買ってやるから」
アランの声が、静まり返ったブリッジに虚しく響いた。
勝利の歓声はなく、ただ静かな喪失感だけが、星々の海に漂っていた。
(続く)
プラネット・イーターの巨大な顎から、空間をねじ切るような重力砲が放たれた。
その標的は、避難民でごった返すワープゲート。
だが、その射線上に、アラン座乗の旗艦『ネオ・アーク』が割り込んだ。
「全エネルギーをシールドへ! フェイザー出力、最大!」
アランが叫ぶ。
「歌うわよ! ……聴きなさい、私の魂の叫びを!」
パンドラが両手を広げる。
♪キィィィィィィィン!!
ネオ・アークの周囲に展開された「フェイザー・ライブ・シールド」が、虹色に輝きながら振動する。
直後、重力波が直撃した。
ズガガガガガガッ!!
激しい衝撃。
重力と位相波が衝突し、空間そのものが悲鳴を上げる。
艦内のモニターが次々と砕け散り、火花が舞う。
「ぐぅぅぅぅっ!」
アランは椅子にしがみつきながら耐えた。
背中のパンドラが苦悶の声を漏らす。彼女の精神エネルギーが、シールドの維持に削られていくのだ。
「シールド残存率、急速低下! 50%……30%……!」
リズが悲鳴を上げる。
「まだだ! まだ耐えろ!」
アランは歯を食いしばった。
視界の端で、民間船団が次々とワープゲートへ飛び込んでいくのが見える。
あと少し。あと数千隻。
一方、後方の技術開発艦では、サレクとクローネ博士が必死の作業を続けていた。
「共振周波数の調整、最終段階! ……だが、対象の質量が大きすぎて、計算が追いつかん!」
博士が叫ぶ。
「論理的な解決策があります」
サレクが静かに言った。
「私の脳を、演算コアに直結します。……並列処理を行えば、計算速度は10倍になる」
「馬鹿者! そんなことをすれば、貴様の脳が焼き切れるぞ!」
「構いません。……総裁が命を懸けて時間を稼いでいるのです。私が『残業』を惜しむ理由はありません」
サレクは躊躇なくケーブルを自身の首筋に接続した。
彼の目が白く発光し、モニター上の数値が爆発的な速度で確定していく。
『……解析完了。共振波動砲、発射シークエンスへ移行』
サレクの口から、機械的な声が漏れる。鼻から血が流れているが、彼は止まらない。
「……よくやった、若造! あとは任せろ!」
博士が発射トリガーに手をかける。
その頃、ネオ・アークは限界を迎えていた。
「シールド消滅! 直撃来ます!」
バギィィン!!
重力波が船体を直撃し、装甲をねじ切る。
右舷大破。ブリッジの窓に亀裂が走る。
「パンドラ!」
アランが背中を庇う。パンドラはぐったりとして動かない。エネルギーを使い果たしたのだ。
もうダメか。
そう思った瞬間。
ズドォォォォォォォン!!
後方から放たれた一条の光が、プラネット・イーターの纏う「惑星の殻」を貫いた。
共振波動砲だ。
ゴゴゴゴゴ……!
惑星ジュピタスの核が、特定の振動を受けて暴走を始める。
プラネット・イーターの動きが止まった。
『ギ……ギャアアアアア!?』
怪物が悲鳴を上げる。
自らが鎧としていた惑星が、内側から崩壊し、自分自身を押し潰し始めたのだ。
「今だ! 全艦、退避ぃぃぃ!」
ネオ・アークは、最後の力を振り絞ってスラスターを噴射し、爆心地から離脱する。
その背後で、巨大なガス惑星が大爆発を起こした。
カッ――!!
宇宙に第二の太陽が生まれたかのような閃光。
プラネット・イーターは、その爆炎の中に飲み込まれ、惑星と共に塵となった。
***
静寂が戻った宇宙。
傷ついたネオ・アークのブリッジで、アランは息を吹き返した。
「……勝った、のか?」
「はい、CEO……。敵生体反応、消滅しました」
リズが涙ぐみながら報告する。
「民間船団も、全船無事に脱出しました……!」
「そうか……よかった」
アランは脱力し、椅子に沈み込んだ。
だが、代償は大きかった。
一つの惑星が消え、多くの艦が傷つき、サレクは昏睡状態に陥った。
そして、アランの背中のパンドラもまた、ピクリとも動かない。
「……パンドラ?」
アランが呼びかけるが、返事はない。
彼女の体は冷たく、透き通るように薄くなっていた。
「嘘だろ……。おい、起きろよ。……限定スイーツ、買ってやるから」
アランの声が、静まり返ったブリッジに虚しく響いた。
勝利の歓声はなく、ただ静かな喪失感だけが、星々の海に漂っていた。
(続く)




