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第50話 星を食う者、星を砕く者

 第6セクター、ガス惑星『ジュピタス』。

 かつては美しい縞模様を持つ巨大惑星だったその星は今、断末魔の悲鳴を上げていた。


 リサイクル・ユニオン本部の巨大スクリーン。

 そこに映し出された映像は、現実感を欠くほどの悪夢だった。


 惑星の表面が波打ち、内側から無数の亀裂が走る。

 その裂け目から、銀色の巨大な触手が何本も突き出し、宇宙空間へと伸びていく。

 そして、惑星自体が卵の殻のように割れ、中から本体が姿を現した。


 全長3000キロメートル。

 月よりも巨大なヴォイド・イーター。

 コードネーム『プラネット・イーター』。


 奴は、割れた惑星の外殻を体に纏い、その重力エネルギーを推進力に変えて移動を開始した。

 進路上の小惑星が、奴の重力圏に触れただけで粉々に砕け散り、吸収されていく。


「……デカすぎる」

 ガルドが呻くように言った。

「あんなの、どうやって倒すんだよ。……艦隊で包囲しても、蟻が象に噛みつくようなもんだぞ」


 司令室は沈黙に包まれた。

 誰も言葉を発せない。

 パンドラでさえ、顔面蒼白で震えている。

「……あいつの質量、測定不能よ。精神波も強すぎて、近づくだけで脳が焼かれるわ」


 アランは冷や汗を拭い、サレクを見た。

「サレク。……例の『共振破壊作戦』、準備はできているか?」


「理論上は可能です」

 サレクがモニターを操作する。

「ですが、リスクがあります。……奴を破壊するには、奴が纏っている『惑星のコア』ごと共振させる必要があります。つまり……」


「惑星ジュピタスを、完全に消滅させることになる、か」


 アランは唇を噛んだ。

 ジュピタスは無人のガス惑星だが、その周辺には衛星コロニーがあり、数百万人の住民が暮らしている。

 避難は始まっているが、全員を逃がす時間があるかどうか。


「避難状況は!?」

 アランが叫ぶ。


「現在60%です!」

 リズが悲鳴に近い声で報告する。

「輸送船が足りません! それに、プラネット・イーターの重力干渉で、ワープゲートが不安定になっています!」


 間に合わない。

 このまま作戦を決行すれば、避難民ごと惑星を吹き飛ばすことになる。

 だが、躊躇すれば、プラネット・イーターは次の有人星系へと進み、数億人が犠牲になる。


 究極の選択。

 アランの手が震える。

 事務屋として「損切り」の計算はできる。

 だが、人として、そのボタンを押せるのか?


「……総裁」

 スペック副長が静かに声をかけた。

「論理的には、即時攻撃が最善です。……ですが、君の『安眠』のためには、別の解が必要でしょう」


 アランは顔を上げた。

 そうだ。俺は諦めない。

 全ての命を救い、敵も倒す。それが俺の(わがままな)経営方針だ。


「……作戦変更だ」


 アランは宣言した。


「『オペレーション・エクソダス(大脱出)』を発動する! 全艦隊、および民間の全船舶を動員しろ! 海賊船でも観光船でもいい、飛べるものは全部だ!」


「えっ、でも敵が目の前に……!」


「敵の足止めは俺たちがやる!」

 アランはカトレアとガルドを見た。


「カトレア、ガルド。……死ぬ気で時間を稼げ。俺たちが囮になって、奴の注意を引きつける!」


「……御意!」

「へっ、上等だ! デカブツの鼻っ柱をへし折ってやるぜ!」


 二人が不敵に笑う。


「サレク、クローネ博士! その間に『共振装置』を完成させろ! 避難完了と同時にぶっ放す!」


「了解した。……論理を超越した計算を見せてやろう」

「ゲロゲロ!(私の美学に不可能はない!)」


 アランは最後に、全銀河に向けた放送マイクを握った。


『……リサイクル・ユニオン総裁、アラン・スミシーだ。全艦船に告ぐ。……今すぐ第6セクターへ集結せよ! 荷物は置いていけ! 命だけ持って逃げるんだ! ……俺たちが、必ず守り抜く!』


 銀河中から、無数の光(船)が集まってくる。

 人類史上最大、そして最悪の撤退戦が始まった。

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