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第47話 懲罰は「皿洗い」から始まる

 リサイクル・ユニオン本部へ帰還した俺たちを待っていたのは、安堵と、そして複雑な空気だった。

 裏切り者だったサレクを連れ帰ったことに対して、特にガルドら現場の荒くれ者たちからは不満の声も上がっていた。


 大会議室での査問会。

 中央に座らされたサレクは、ヴォイドの侵食治療を終え、包帯姿でうつむいていた。


「……サレク大尉。君の行為は重大な反逆罪だ」

 ケーク艦長が厳しい口調で告げる。

「いくら洗脳されていたとはいえ、試作艦を敵に渡し、多くの情報を漏洩させた事実は消えない。連邦の規定では、軍法会議ものだ」


「……弁解の余地はありません」

 サレクは静かに答えた。

「私の論理が脆弱だったゆえの失態です。……いかなる処分も受け入れます」


 処刑か、永久追放か。

 会議室に緊張が走る。ガルドたちユニオン側の幹部も、固唾を飲んで見守っている。


 その時、俺が手を挙げた。


「ちょっといいですか、艦長」


「……アラン総裁。何か?」


「彼の身柄、ウチ(ユニオン)で預からせてもらえませんか?」


 ざわめきが起きる。

 俺は続けた。


「彼は敵のネットワークに深く接続し、生還した唯一のサンプルです。……処刑してしまっては、情報の宝庫をドブに捨てるようなものだ。それは『もったいない』」


「……では、どうすると?」


「働いてもらいます。死ぬほど」

 俺はサレクに向き直った。


「サレク。君には今日から、失われた試作艦の建造費、および今回の作戦経費、合計500億クレジット分を労働で返済してもらう」


「ご、500億……?」

 サレクが目を見開く。


「ああ。君の給料から天引きだ。計算上……君が不眠不休で働いても200年はかかるな」


「……非論理的な数字です」


「文句を言うな。……その代わり、君の『居場所』はここにある。罪を償い、信頼を取り戻すまで、リサイクル・ユニオンは君を逃がさないぞ」


 それは、事実上の「終身雇用(という名の奴隷契約)」であり、同時に「処刑の回避」でもあった。

 サレクはしばし呆然とし、やがて深く頭を下げた。


「……了解しました。……その非論理的な慈悲に、論理的な労働で報います」


***


 翌日から、サレクの姿は食堂の厨房にあった。

 彼はエプロンをつけ、皿洗いをしていた。


「洗剤の濃度、水温、摩擦係数……全て最適化。洗浄効率20%向上」

 ブツブツ言いながら、恐ろしい速度で皿を洗っている。


「おい耳長! そっちの鍋も頼むぜ!」

 ガルドが汚れた鍋を投げる。


「了解。……油汚れの分解には、アルカリ性溶剤の使用を推奨する」


 かつては敵意を向けていた海賊たちも、黙々と(そして完璧に)雑用をこなすサレクを見て、少しずつ態度を軟化させていた。

 「あいつ、意外と真面目だな」「まあ、洗脳されてたなら仕方ねぇか」と。


 俺は食堂の隅で、その様子を見ながらコーヒーを啜っていた。

 隣にはスペック副長がいる。


「……君の組織運営は、相変わらず独特だ」


「そうですか? ……壊れた部品(人材)も、磨けばまだ使える。それがリサイクル屋の流儀ですよ」


 組織の傷は、少しずつ癒え始めていた。

 だが、敵は待ってくれない。

 サレクが持ち帰ったデータには、ヴォイド・イーターの次なる進化――『惑星捕食形態プラネット・イーター』の設計図が含まれていたのだ。


 平和な皿洗いの裏で、次なる絶望のカウントダウンが始まろうとしていた。


(続く)

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