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第42話 生体艦は脈動し、泥人形は嗤う

 ヴォイド金属に侵食され、悪趣味な怪物へと改造された試作艦『プロト・ディーヴァ』。

 俺たちのステルス艦『ファントム』は、敵艦の死角にある排気ダクト付近へと音もなく接舷した。


「ドッキング完了。……エアロック、強制開放」

 スペックが手元のパッドを操作する。

 プシューッという音と共にハッチが開き、俺たちは敵艦内部へと踏み込んだ。


「うっ……なんだこの臭いは」

 先頭のカトレアが鼻を覆う。

 艦内は、機械油と腐った肉が混ざったような異臭が充満していた。

 かつては清潔な白い通路だった場所が、今は黒い血管のようなパイプで覆われ、床はブヨブヨと脈動している。


「まるで生き物の体内ね……。キモい」

 パンドラが俺の背中で身震いする。


 俺はアサルトライフルを構え、慎重に進んだ。

 すると、通路の壁がグズグズと崩れ落ち、そこから黒い液体が溢れ出してきた。

 液体は床の上で盛り上がり、人の形をとっていく。


 顔はない。のっぺらぼうの頭部に、鋭い鉤爪が生えた腕。

 ヴォイド・デーモンが生み出した防衛端末、『ヴォイド・ドール』だ。


『……侵入者……検知……排除……』


 不快な機械音声と共に、ドールたちが襲いかかってくる。


「来るぞ! 迎撃ッ!」


 カトレアが大剣を一閃させる。

 ズパァッ!

 先頭のドールの胴体が両断され、黒い体液を撒き散らして崩れ落ちる。

 だが、斬られた断面から無数の触手が伸び、カトレアの剣に絡みついた。


「なっ……!?」

 カトレアが剣を引き剥がそうとするが、ドールの残骸が磁石のように吸い付き、彼女の動きを封じる。


『……捕獲……同化……』


 他のドールたちが、動けないカトレアに群がる。


「させないっすよ!」

 ルナが聖銀弾を装填した二丁拳銃を乱射する。

 バンバンバンッ!

 青い閃光がドールの頭部を吹き飛ばし、浄化の炎で燃やし尽くす。


「助かった、ルナ殿!」

 カトレアが剣を振りほどく。


 だが、敵はしつこい。

 倒しても倒しても、壁や床から新しいドールが湧き出し、さらには天井のパイプからも滴り落ちてくる。

 その数、数十体。通路を埋め尽くす黒い泥人形の行進だ。


「キリがないっすよ! この船全体が敵の工場みたいになってる!」

 ルナが悲鳴を上げる。


「消耗戦は避けるべきだ。……スペック、ルートはあるか!?」

 俺が叫ぶ。


「計算中……。最短ルートは封鎖されている。……迂回路、左舷デッキ経由なら可能性あり」

 スペックがホログラム地図を展開する。


「そこだ! 走れ!」


 俺たちは弾幕を張りながら、泥人形の海をかき分けて走った。

 背後からは、ドールたちの嗤うような駆動音が追いかけてくる。


『……逃がさない……サレク様ノ……一部ニナレ……』


 サレクの名前が出た。

 あいつはまだ意識があるのか、それとも完全に敵の手先になってしまったのか。

 その答えを知るためにも、俺たちは止まるわけにはいかない。


「エレベーターホールが見えたぞ! あと少しだ!」


 カトレアが先陣を切り、道を塞ぐドールをなぎ倒す。

 長く苦しい、生体ダンジョンの攻略戦が続く。

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