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第39話 奪われた試作機と、亀裂

 第3工廠での警報。

 ヴォイド・デーモンの強襲部隊が、内部転送によって直接施設内に現れたのだ。


「迎撃! 迎撃せよ!」

 ガルド率いる警備隊が駆けつけるが、敵は神出鬼没。

 壁をすり抜け、床から湧き出し、重要区画へと侵食していく。


「物理障壁が効かねぇ! ルナはどこだ!?」

「課長は今、別棟で『お祓い』中です! 間に合いません!」


 混乱の中、敵の狙いは明確だった。

 中央ドックに格納されていた、新兵器『フェイザー・ライブ・システム』を搭載した試作艦『プロト・ディーヴァ』だ。


「させるかぁっ!」

 カトレアが単身、ドックへ飛び込む。

 彼女の剣には、ルナが緊急で作った「聖銀コーティング」が施されている。

 一閃。

 先頭のデーモンが霧散する。


「守り抜け! この船は我らの希望だ!」


 だが、敵の指揮官(内通者サレク)は冷静だった。

 彼はドックの制御室を制圧し、艦の強制転送シークエンスを起動した。


「……転送座標、虚空領域。出力最大」


 ズズズズズ……!

 ドック全体が光に包まれる。

 カトレアが艦にしがみつくが、巨大な転送エネルギーに弾き飛ばされた。


「しまっ……!」


 シュンッ。

 光が収束すると、そこには空っぽのドックだけが残されていた。

 希望の星だった試作艦は、敵の手によって丸ごと奪われてしまったのだ。


***


 数時間後。

 本社ビルの大会議室は、重苦しい空気に包まれていた。

 奪われた新兵器。そして、実行犯が「連邦艦隊の士官」だったという事実。


「どういうことだ、ケーク艦長!」

 ガルドが机を叩いて詰め寄る。

「あんたの部下が敵の手先だったんだぞ! 責任取れんのか!」


「……」

 ケーク艦長は沈痛な面持ちで沈黙している。

 隣に立つスペック副長が、淡々と答えた。

「サレク大尉の裏切りは、我々にとっても想定外だった。……彼の精神プロテクトに論理的な穴があった可能性が高い」


「論理だぁ? そんな理屈で片付けられてたまるかよ!」

 ユニオン側のクルーたちが騒ぎ出す。

「やっぱり異星人は信用できねぇ!」

「技術提携なんて止めるべきだ!」


 せっかく宴会で深まった絆に、再び亀裂が入ってしまった。

 疑心暗鬼。

 これがヴォイド・デーモンの狙いの一つでもあったのだ。


 アランは上座で頭を抱えていた。

 (胃が痛い……。新兵器を失っただけじゃなく、組織がバラバラになりそうだ)


 彼は深呼吸をし、立ち上がった。


「……静粛に」


 全員の視線が集まる。


「今回の件、責任はすべて私にある。……セキュリティチェックの甘さを招いた、経営者としての責任だ」


 アランは頭を下げた。

 ガルドたちが息を呑む。


「だが、今は仲間割れしている場合じゃない。敵は我々の新技術フェイザーを手に入れた。……つまり、奴らは『進化』する」


 ヴォイド・イーターの恐ろしさは適応能力だ。

 奪った試作艦を解析し、自分たちの体に「フェイザー耐性」や「精神攻撃機能」を組み込むだろう。

 そうなれば、人類に対抗手段はなくなる。


「時間がない。……我々は、奪われた試作艦を『破壊』、もしくは『奪還』しなければならない」


「破壊だと!?」

 クローネ博士が叫ぶ。

「あれは私の最高傑作だぞ! 二度と作れるかわからんのだ!」


「ならば奪還だ。……敵の本拠地、虚空領域の深部へ潜入する」


 無茶な作戦だ。

 だが、他に道はない。


「ケーク艦長。……貴方たちの『偽装技術クローキング』をお借りしたい」


 ケークが顔を上げる。

「……透明化して潜入するというのか? 危険すぎる。成功確率は3.7%だ」


「3%もあるなら十分です。……我々は元々、ゴミ溜めから這い上がってきた集団ですから」


 アランはニヤリと笑った。

 その目には、諦めの色はなかった。

 組織の亀裂を修復し、最強の敵地へ潜入する。

 アランの新たな「業務ミッション」が始まった。

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