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第37話 異文化交流は胃薬の味がする

 異星艦隊との技術提携が決まり、新兵器のプロトタイプが完成したものの、それを全軍に配備するのは容易ではなかった。

 なぜなら、俺たちリサイクル・ユニオン軍は「寄せ集め」だからだ。

 元海賊、元帝国軍、異星の亡命者、そして新たに加わったスタートレック風の連邦艦隊。

 文化も言語も、OSの規格すらバラバラな集団をまとめるのは、技術的な問題以上に「政治的・文化的な悪夢」だった。


 本社ビルの大食堂。

 ここは今、銀河で最もカオスな場所になっていた。


「おい、そこの耳長! 俺の定食に勝手に変な粉をかけるな!」

 ガルドが怒鳴っている。相手は連邦艦隊の技術士官だ。


「これは『栄養補助サプリメント402号』だ。君たちの食事は脂質が多すぎて非効率的だ。健康管理も任務のうちだぞ」

 士官は無表情で返す。


「余計なお世話だ! 海賊は脂っこい肉を食ってナンボなんだよ!」


 別のテーブルでは、ルナが異星人の女性クルーに絡んでいる。

「えー、その制服ダサくなーい? もっとスカート短くした方が映えるってー」

「規定違反です。機能性を損ないます」

「固いなー。マジうける」


 さらに奥では、カエル博士(人間Ver)が、連邦の科学者と殴り合いの喧嘩をしていた。

「貴様らの理論は美しくない! もっと泥臭い『根性補正』を入れろ!」

「非科学的だ! 係数を改ざんするな!」


「……はぁ」


 俺、アラン・スミシーは、食堂の隅で胃薬を飲みながら、その光景を眺めていた。

 技術は融合できても、心はそう簡単には融合しないらしい。


「大変ですねぇ、CEO」

 リズが苦笑しながら隣に座る。彼女の手には、各艦隊からのクレーム処理リストがある。


「『連邦の連中が偉そうでムカつく』『海賊のマナーが悪くて不快だ』……現場の士気が、逆に下がってますぅ」


「共通の敵がいるってのに、仲良くできないもんかね……」


 俺は頭を抱えた。

 このままでは、作戦開始前に内部崩壊してしまう。

 何か、彼らを一つにする「共通言語」が必要だ。

 パンドラの歌? いや、連邦の連中は「非論理的だ」と言ってノッてくれない。

 金? 彼らは貨幣経済を超越した社会から来ているので通じない。


「……ケーク艦長はどこだ?」


「ああ、彼なら厨房にいますよ」


「厨房?」


 俺たちが厨房を覗くと、そこには腕まくりをしたケーク艦長が、巨大な中華鍋(リサイクル品)を振るっている姿があった。


「はっはっは! どうだ、この火力! フェイザー出力調整の応用だ!」


 彼が作っていたのは、異星の食材と、ユニオンの備蓄食料(合成肉や野菜)を混ぜ合わせた、謎のチャーハンだった。

 いい匂いがする。


「……これだ」


 俺は閃いた。

 食だ。

 どんな種族も、腹は減る。そして「美味いもの」の前では、論理も感情も関係ない。


「リズ、緊急イベントを開催するぞ!」


「えっ、またですかぁ?」


「作戦名『オペレーション・胃袋外交』! ……今夜、全軍合同の『大宴会』を開く!」


***


 その夜。

 本社の巨大ホールは、屋台村と化していた。

 海賊たちが焼くバーベキュー、連邦クルーが作る分子料理、異星人の郷土料理。

 それらが一堂に会し、酒(合成アルコール)が振る舞われた。


「食ってみろ! これが俺たちのソウルフード『ジャンク肉串』だ!」

 ガルドが肉を差し出す。


「……ふむ。成分分析ではコレステロール値が異常だが……味覚センサーの反応は良好だ。美味い」

 連邦士官が目を丸くする。


「だろ!? そっちの透明なスープも、意外といけるじゃねぇか!」


 あちこちで、「食」を通じた交流が始まった。

 ルナは異星人たちに「タピオカ」を布教し、博士たちは酔っ払って肩を組みながら数式を地面に書いている。


 そして、ステージではパンドラが即興ライブを行い、スペック副長が(無表情のまま)タンバリンで完璧なリズムを刻んでいた。


「……うまくいったようだな」


 俺はバルコニーからその様子を見下ろし、安堵の息をついた。

 ケーク艦長が、ワイングラス片手に隣に来る。


「君は面白い指揮官だ、アラン。……論理でも武力でもなく、『宴会』で軍をまとめるとはね」


「事務屋の知恵ですよ。……会議室で決まらないことも、飲みニケーションなら5分で決まる」


 俺たちはグラスを合わせた。

 こうして、リサイクル・ユニオンと連邦艦隊の間の壁は取り払われた(主にアルコールによって)。

 結束を固めた俺たちは、いよいよ本格的な「新兵器量産体制」へと移行する。


 だが、その裏で。

 宴会の喧騒に紛れ、一人の兵士がふらりと会場を抜け出し、暗い路地裏で何者かと通信していたことに、誰も気づいていなかった。


『……はい。奴らは油断しています。……新兵器のデータ、送信完了』


 内通者。

 ヴォイド・デーモンの魔手は、すでにここまで伸びていたのだ。

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