第36話 論理的すぎる副長と、感情的すぎるアイドル
謎の異星艦隊(スタートレック風)との技術提携が決まり、リサイクル・ユニオンの開発局は新たなフェーズに入った。
彼らの「位相変調技術」を、我々の既存兵器に組み込む改修作業だ。
本社ビルの大会議室。
異星艦隊の副長スペック(耳が尖っている論理的な男)と、我らがアイドル・パンドラ(感情的すぎるAI)が、激しい議論を交わしていた。
「……非論理的だ」
スペックが眉一つ動かさずに言う。
「君の提案する『歌による精神波増幅』は、エネルギー効率が悪すぎる。フェイザー出力を3.5%向上させるために、なぜ『愛』や『勇気』といった不確定なパラメータが必要なのだ?」
「はぁ!? あんたバカじゃないの!?」
パンドラが机を叩く。
「スペック(性能)だけ良くても意味ないのよ! ヴォイド・デーモンは精神攻撃もしてくるの! こっちのテンションが上がらないと、メンタル防御が紙になるでしょ!」
「感情は判断を鈍らせる。……我々のシールド技術があれば、精神攻撃の98%は遮断可能だ」
「残り2%で発狂したらどうすんのよ! この耳長!」
「種族的な特徴を侮蔑するのは感心しないな」
バチバチと火花が散る。
間に挟まれた俺と、艦長のケークは顔を見合わせた。
「……君のところのAIは、随分と人間的だね」
ケーク艦長が面白そうに笑う。
「ああ、教育(主にルナの影響)が悪かったみたいでね……」
俺は苦笑した。
だが、この噛み合わない議論が、意外なブレイクスルーを生むことになった。
リズが横から、恐る恐る手を挙げたのだ。
「あのぉ……。お二人の意見、混ぜられませんか?」
「混ぜる?」
スペックとパンドラが同時に振り返る。
「ええ。スペックさんの『位相シールド』をベースにして、その波長をパンドラちゃんの『歌声の周波数』に同期させるんです。……そうすれば、シールドがスピーカーの役割を果たして、物理防御と同時に精神波攻撃も行える『攻防一体のバリア』になるんじゃ……」
スペックが計算を始める。
「……計算中……。なるほど。シールドの振動を利用すれば、追加のエネルギーなしで広範囲に音波を拡散できる。……論理的だ」
「へぇ、やるじゃんリズ!」
パンドラが目を輝かせる。
「つまり、私のライブ会場(シールド内)にいる限り、味方は無敵で、敵だけダメージを受ける『最強のステージ』ができるってことね!」
「名付けて『シンフォギア・システム(仮)』……いや、版権的にマズいので『フェイザー・ライブ・システム』ですね!」
こうして、異星の超科学と、パンドラのアイドル力が融合した。
***
数日後。
新システムを搭載したリサイクル・ユニオン艦隊の実験演習が行われた。
「システム起動! BGM、スタート!」
♪ズンチャッ、ズンチャッ!
宇宙空間に激しいビートが鳴り響く。
各艦のシールドが、音楽に合わせて虹色に明滅し始めた。
そこへ、捕獲しておいたヴォイド・デーモンの実験体を放つ。
『ギシャアア!』
デーモンがシールドに触れた瞬間。
バチチチッ!
「ギャアッ!?」
物理的な電撃と、精神的な「萌えダメージ」が同時に襲いかかり、デーモンは一瞬で消滅した。
「成功だ……!」
俺はガッツポーズをした。
「素晴らしい」
スペック副長も、少しだけ口角を上げた(気がした)。
「感情エネルギーを物理的な破壊力に変換するとは。……この銀河の種族は、実に興味深い」
ケーク艦長が俺の肩を叩く。
「よし、アラン総裁。これで反撃の準備は整ったな。……次は、君たちの『転送技術(物流)』を見せてもらおうか」
「ええ。……我々の得意分野です」
俺はニヤリと笑った。
彼らのフェイザー技術を手に入れた今、俺たちの「ゴミ投棄戦法(リサイクル弾幕)」もまた、劇的な進化を遂げようとしていた。
ゴミを「転送」で敵の体内に直接送り込み、内部からフェイザー爆破する――。
最悪にして最強の戦術が完成しつつあった。
次回、いよいよ反攻作戦「オペレーション・断捨離」が始まる。




