第35話 未知との遭遇と、彼らの「故郷」
第4セクターの鉱山惑星上空。
俺たちが到着した時には、すでに戦況は壊滅的だった。
「ダメだ! こちらの攻撃がすり抜ける!」
現地の守備隊長が悲鳴を上げる。
彼らが使っていた「試作・聖銀弾」は、ルナの魔力が込められていない粗悪な模倣品だったのだ。ヴォイド・デーモンの身体を貫通できず、ただの金属片として弾かれている。
『ククク……脆い、脆いぞ人間ども』
ヴォイド・デーモンの指揮官個体(半透明の悪魔)が嘲笑いながら、守備隊の戦艦を次々と握り潰していく。
「社長! 俺たちも囲まれた!」
ガルドが操舵輪を回すが、敵の包囲網は厚い。
俺たちの乗る高速艦も、シールドが限界に達していた。
「くそっ……失敗作爆弾、投下!」
俺は最後の悪あがきとして、積んであった実験失敗作のコンテナをばら撒いたが、敵はそれを嘲笑うようにすり抜けてくる。
万事休す。
その時だった。
ピロロロロ……♪
どこかで聞いたことのあるような、レトロフューチャーな電子音が通信機から響いた。
『――こちら、惑星連邦(仮)所属、探査艦「ヴォイジャー・ツー」。……そこの未確認船、救援を必要としていると推測されるが?』
通信画面に現れたのは、ピチッとした赤と黒の制服を着た、耳の尖った男だった。
背景のブリッジは清潔で未来的。俺たちの継ぎ接ぎだらけの船とは大違いだ。
「え? 誰? コスプレ?」
ルナが素っ頓狂な声を上げる。
「あー、救援! 救援を求む! こちらはリサイクル・ユニオンだ!」
俺は慌てて叫んだ。
『了解した。……転送する』
「転送? いや、俺たちは船ごと……」
シュワワワワワ……。
俺の言葉が終わる前に、俺たちの体が光の粒子に分解された。
***
気がつくと、俺たちは見知らぬ宇宙船の転送室に立っていた。
俺、リズ、ガルド、ルナ。全員無事だ。
「すげぇ……。体がバラバラになって再構成されたぞ……」
ガルドが自分の体をペタペタ触って確認している。
ウィーン。自動ドアが開き、先ほどの耳の尖った男が入ってきた。
彼は無表情で右手を挙げ、指をV字に開くポーズ(長寿と繁栄を)をした。
「私は副長のスポ……じゃなくて、スペックだ。艦長のカーク……ではなく、ケークがお待ちだ」
「……あからさまだな!」
俺は心の中でツッコんだ。
ブリッジに通された俺たちは、ケーク艦長と対面した。
彼は俺たちを歓迎したが、その表情にはどこか影があった。
「……君たちの船は原始的だが、ヴォイド・イーターに対する『憎しみ』は本物だと見受けられた」
ケーク艦長が言う。
「ええ。奴らは俺たちの星を食い荒らしましたからね。……ところで、あんたたちは何者なんです? なぜ、わざわざこんな辺境の銀河まで?」
俺が問うと、ブリッジの空気が少し重くなった。
ケーク艦長はスペック副長と視線を交わし、静かにメインスクリーンを切り替えた。
「……見てくれ」
映し出されたのは、かつて存在したであろう美しい銀河の映像だった。
だが、その映像は早送りされ、銀色の霧に包まれて消滅していった。
「これは、我々の故郷……『第1銀河連邦』の最期の姿だ」
「えっ……?」
「我々は探査船団ではない。……『難民船団』だ」
スペック副長が淡々と、しかし痛切な響きを込めて告げる。
「数年前、我々の銀河はヴォイド・イーターの大群に襲撃され、壊滅した。……我々は生き残ったわずかな市民を乗せ、新天地を求めて次元跳躍を繰り返してきたのだ」
俺たちは絶句した。
彼らは、未来から来たヒーローではなく、国を失った放浪者だったのだ。
俺たちと同じ、あるいはそれ以上の絶望を知る者たち。
「この銀河にたどり着いた時、我々は絶望したよ。ここにも奴らがいたからね」
ケーク艦長が自嘲気味に笑う。
「逃げる場所はもうない。……だから、ここで戦うことに決めたのだ」
彼らの技術力が高いのも納得だ。
ヴォイド・イーターと戦い続け、逃げ続ける中で磨かれた、生存のための技術なのだ。
「……なるほど。事情は分かりました」
俺は姿勢を正した。
彼らは単なる異星人ではない。同じ敵に故郷を奪われた「同志」だ。
「ケーク艦長。……取引をしましょう。貴方たちの技術を提供してください。その代わり……我々はこの銀河の全資源と、貴方たちの『新しい故郷』を提供します」
「故郷……?」
「ええ。ウチ(リサイクル・ユニオン)は、はぐれ者の集まりです。海賊も、亡命者も、異星人も歓迎しますよ。……どうです? 一緒にこの銀河を守って、暮らしてみませんか?」
ケーク艦長は驚いたように目を見開き、やがてニヤリと笑った。
「……悪くない提案だ。我々も、そろそろ腰を落ち着けたいと思っていたところだ」
こうして、俺たちは強力な(そして同じ痛みを共有する)異星の盟友を手に入れた。
「技術提携」というビジネスライクな関係を超えた、生存をかけた同盟の始まりだ。




