第34話 開発室は火の車
ヴォイド・デーモンという新種の脅威に遭遇してから、一ヶ月。
ルナの機転で撃退には成功したものの、それはあくまで「試作品」による一撃離脱だった。
全軍に配備できるほどの「聖銀弾」を量産するには、圧倒的に技術と資源が足りていない。
リサイクル・ユニオン技術開発局。通称「魔改造ラボ」。
ここは今、地獄のような忙しさになっていた。
「ダメです! また爆発しました!」
白煙を上げる実験室から、ボロボロになった研究員が飛び出してくる。
「ええい、根性が足りん! もう一回だ!」
指揮を執るのは、カエルの被り物をしたクローネ博士だ。
彼はヴォイド・イーターの残骸と、ルナの書いた呪符を融合させる実験を繰り返していたが、相性が悪すぎて失敗続きだった。
「科学とオカルトの融合など……理論が破綻しておる! なぜ呪符を貼ると電圧が下がるのだ!?」
博士が頭を抱える。
「あー、それ貼る位置逆っすね。北北東に向けないと運気下がるんで」
ルナがスマホ片手に適当なアドバイスをする。
「科学に運気など関係あるかぁぁぁ!!」
博士の絶叫が響く。
そんなカオスな現場を、俺、アラン・スミシーは視察していた。
「……進捗はどうだ、リズ?」
「芳しくありませんねぇ……」
リズがスケジュール表を見ながら溜息をつく。
「聖銀弾の核となる『聖別されたレアメタル』の精製が追いつきません。ルナさんの魔力がボトルネックになってまして……」
ルナ一人の魔力で、何十万発もの弾丸に「浄化術式」を込めるのは物理的に不可能だ。
彼女はここ数日、魔力切れで常に糖分(限定スイーツ)を補給し続けているが、限界が近い。
「……量産化の鍵は、『魔力の自動生成システム』か」
俺は腕を組んだ。
ルナの魔力パターンを解析し、機械的に再現する装置が必要だ。
だが、それには高度な「精神工学」の知識が必要になる。パンドラの専門分野だが、彼女は今、銀河アイドルの仕事(精神汚染の防止ライブ)で忙殺されている。
「人手が足りないな……」
その時、俺の端末に緊急連絡が入った。
前線基地のガルドからだ。
『社長! 第4セクターの鉱山惑星からSOSだ! ヴォイド・デーモンの小隊が現れたらしい!』
「くそっ、またか! ……カトレア艦隊を送れ! ただし交戦は避けて、避難誘導に徹しろ!」
『それが……現地の守備隊が勝手に交戦しちまった! 「新兵器があるから大丈夫だ」とか言って……』
「新兵器? まだ試作段階だぞ!?」
嫌な予感がした。
現場の焦りが、暴走を招いている。
完成していない武器で戦えば、結果は目に見えている。
「ガルド、俺も出る! ……リズ、博士に『失敗作でもいいから爆発するやつ』を全部積み込めと伝えろ!」
「は、はいぃ!?」
「失敗は成功の母だ。……失敗作の山を敵にぶつけて、データ取りをしてやる!」
俺たちは未完成の新兵器を抱え、再び戦場へと向かった。
この戦いが、新たな技術的ブレイクスルーのきっかけになると信じて。
そして、そこで俺たちは「第三の勢力」となる意外な人物と出会うことになる。




