第31話 JK退魔師はスマホ片手にお祓いする
精神体悪魔の出現を受け、俺はリズに「オカルト専門家」の捜索を命じた。
数日後、リズが連れてきたのは、予想外の人物だった。
「CEO、見つかりましたぁ! 古代文明の文献に詳しい『エクソシスト(退魔師)』の末裔だそうです!」
執務室に入ってきたのは、制服っぽい服を着て、スマホをいじっている金髪の少女だった。
どう見ても、ただの今時の女子高生だ。
「……あー、君がエクソシスト?」
「うっすー。名前は『ルナ』っす。……てか、ここマジで旧帝都? ウケる、映えスポットじゃん」
ルナはパシャパシャと自撮りを始めた。
俺は頭を抱えた。
「リズ、本当にこいつで大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫です! 彼女の家系は代々、『精神感応能力』を持っていて、悪魔祓いの儀式を受け継いでいるそうで……」
「へぇ、おじさんがCEO? 顔色ヤバくない? あ、後ろの子、チョー可愛いじゃん! 何のアプリ使ってんの?」
ルナがパンドラに絡む。
パンドラが不快そうに眉をひそめた。
「……気安いわね、人間。私は古代兵器よ」
「設定凝ってる~! 推せるわ~」
ルナは全く動じていない。
だが、その時。
俺のデスクの影から、再びあの「黒い靄」が湧き出してきた。先日追い払った奴の仲間か。
『……キヒヒ。隙あり。この娘の若い魂、頂こうか……』
悪魔がルナの背後に忍び寄る。
俺が叫ぼうとした瞬間。
「あ、ウザ」
ルナはスマホから目を離さずに、片手で空中に素早く何かを描いた。
指先が光り、ネオンサインのような幾何学模様(魔法陣)が空中に浮かぶ。
「【浄化】なう」
バシュッ!!
魔法陣から閃光が放たれ、悪魔を直撃した。
『ギャアアアア!? な、なんだこの聖なる光はぁぁぁ!』
悪魔は一瞬で蒸発し、消滅した。
「……え?」
俺とガルドはポカンとした。
詠唱も聖水もなし。スマホ片手にワンパンだ。
「……こいつら、最近増えててマジ迷惑なんすよねー。Wi-Fiの電波悪くなるし」
ルナは平然と言った。
「き、君……今の術は?」
「あー、これ? ウチの実家の秘伝術式を、アプリ化して短縮登録してるんすよ。音声入力でもいけるし、便利っしょ?」
現代っ子エクソシスト、恐るべし。
古代の秘術と現代テクノロジー(スマホ)を融合させているらしい。
「採用だ! 即採用!」
俺は彼女の手を握った。
「ルナ君、今日から君は『対魔特務課』の課長だ! 給料は言い値で払う!」
「マジ? ラッキー。じゃあ、限定スイーツ食べ放題つきでよろ」
こうして、最強(に軽い)の退魔師ルナが仲間に加わった。
だが、事態は彼女一人の力で解決できるほど甘くはなかった。
その夜。
ユニオン領内の複数の惑星で、同時多発的に「暴動」が発生したのだ。
『速報です! 第3居住区で住民が暴徒化! 「CEOは敵のスパイだ」「隣人がエイリアンに見える」などと叫びながら、警察隊と衝突しています!』
ニュース映像には、目の焦点が合わない人々が、武器を手に暴れ回る姿が映っていた。
単なる憑依じゃない。
大規模な「認識災害(集団幻覚)」だ。
「……始まったわね」
パンドラが呟く。
「これは単独の悪魔の仕業じゃない。……統率された『軍団』による侵攻よ」
悪魔たちもまた、組織化して俺たちを潰しに来たのだ。
物理と精神(悪魔)、二つの戦線が同時に崩壊の危機を迎える。




