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No.4 真実の愛(笑)

この作品はプロットです。

 それはありふれた婚約にまつわるトラブル。お笑い草の噂話。婚約を白紙に戻したい、真実の愛を見つけたのだとのたまった王子の話。




 アンドリューは一言で言って不遇の王子であった。国王の都合で王位継承権の序列を繰り上げられもてはやされるが、やがて母と引き離され、国王の都合で王位継承権を剥奪されて母方の祖父母領地へ追いやられる。祖父母の下では愛情は注がれず教育のみ施された。聞かされるのは恨み言ばかり。


 そんなアンドリューがソフィアに出会ったのは、街で噂になっている劇団の公演にて。団員のソフィアは当時流行の演目である、『滑稽な月の王子』の王子役をしていた。滑稽な王子とは、アンドリューその人のこと。


 劇では「王位につけると浮かれて都会にやってきて、目論見が外れてすごすごと田舎に帰っていく」という王子のお話が面白おかしく演じられていた。意地悪な従兄弟がアンドリュー本人に「巷でのアンドリューの評価を教えてやる」と、演目があるたびに連れて行っては隣で笑っていた。


 ソフィアの回は通常と異なっていた。全体では喜劇なのだが、ソフィア演じるアンドリューからは、運命に翻弄され、苦悩の末に都にやってきて、田舎へと追いやられる心情が見て取れた。その演技力は大したもので、喜劇に悲劇が混ざると深みが出ると、ソフィア回は評判も良かった。その演技を見て、アンドリューは涙した。理解者がいた、と。


 アンドリューは祖父母の領地でぞんざいな扱いを受けていたおかげで、抜け出すのも容易だった。ソフィアに一言お礼を告げようと劇団の拠点に向かうも、人気演者のソフィアにはなかなか会えない。身分も信じてもらえない。そのためアンドリューは劇団の下働きの仕事について、ソフィアに会う機会を作った。


 何度か会ううちに、お互いの話をするようになる。ソフィアは大変美しい。劇団の看板娘だ。もしかしたら名のある人物の血が入っているかもしれない。しかし、父を知らず、劇団に流れ着いてしばらく働いていた母も亡くなり、自身の出自は詳しくは知らないのだという。


 苦労人同士話が合った。2人は海の見える崖の上の草原で、過去のことや将来のことを話し合った。お互いがお互いの心の支えであった。親友であった。


 しかし、そんな日々も長くは続かない。ソフィアがお別れのときが来たのだと告げる。劇団の移動かとアンドリューは思ったが、そうではないらしい。ソフィアが持っているチケット。それは大陸横断鉄道のチケットだった。しかも、ただのチケットではない。数日後にでると噂の、本来はこの地域を通らない鉄道。普段は別路線を通っているが、王族の祝のためにこのときだけ特別に通ると話題になっていた。ソフィアはその鉄道に乗って、父親を探しに行くのだという。そう言って笑う美しいソフィアの顔を見て、アンドリューは恋に落ちた。


 別れを告げるためにソフィアに会いに行くアンドリュー。しかし、運悪く、形見の宝石が奪われる。アンドリューの大事なものを守るために、鉄道の乗車を見送って、アンドリューを助けたソフィア。滂沱の涙を流すアンドリューに、将来自分の力で父に会いに行くとソフィアは笑ってくれた。


 アンドリューはソフィアに餞別を送る。アンドリューもまたこの地を離れる理由があった。また父親の都合で都に送られるのだ。王族に手持ちのお金は必要ないといわれ、小遣いもないアンドリュー。手作りの品を作って町で売ってコツコツとためたコインを、ソフィアに渡した。僕の代わりに願いを叶えてと。


 お互いの思い出を支えにして、つらい日々を乗り越えていく。もう二度と会うこともないだろう。父親に勝手に決められた婚約者候補に対する愛情も義務も抱けなかった。ただただ与えられた命令通りに動くだけの日々。婚約者の気持ちが他の人物に向いているのも知っていたが、どうでもよかった。


 そうやって生きてそうやって死んでいくのだと思っていたある日。二人は再び出会った。学園にソフィアが入学してきたのだ。特待生として。アンドリューからもらったコインで勉強道具を買い、猛勉強をし、庶民の学校で優秀な成績を修めて学園に進学した。


 アンドリューの灰色の世界に再び色がついた。他の人間など見えなかった。だから、失敗した。距離感を。お互い駆け寄り、手が触れ合う直前、アンドリューの婚約者候補カレンがソフィアをおしのけた。アンドリューたちは驚くが、しかしそれも当然であった。カレンにとっては見ず知らずの女が自分の婚約者に駆け寄るのだ。


 その後も度々トラブルとなる。節度は保っているものの、思い合っているのが明らかなアンドリューとソフィア。ソフィアとカレンが階段で揉み合いになって、危うく二人とも落ちそうになったとき、アンドリューが咄嗟に手を伸ばしたのはソフィアの方だった。




 パーティーにて。カレンは自分の立場を固めるため、アンドリューに敢えて公式の場で問う。自分が婚約者であると。それは実際のところ未定であり、みなし婚約者であり、そして単に暗黙の了解に過ぎなかった。しかし、ここでアンドリューが肯定することで、少なくとも両者合意のものとなる。父親の決議を待つという切り札もあるが、ここではアンドリューの意思が問われていた。


 アンドリューはしかし出会ってしまった。ソフィアに。二度と会うことはないだろうと思っていた相手に。


「わたしが結婚したいのは、ソフィアだ」アンドリューは言う。


「なぜ? 私の評判が悪いから? 私がソフィアをいじめた噂があるから? そんなことよりも王家の責務はどうするのですか」詰め寄るカレン。


「すまない。ソフィアとは本物の恋をしてしまった。……真実の愛がここにはある」


 周囲の人間からは蔑むような笑い声が漏れ聞こえる。それは喜劇のセリフ。しかも、本人がそれを言う。この公の場で。


「真実の愛……ですか。私は責任を果たすために自分のしたいことなど後回しにして勉学に励んできました。そこにあるのは愛ではなくても責任と情です」


 そこに若き王弟が現れる。

 国王の意思に反しているとして、アンドリューを提訴する。カレンの身分は私が預かろうとも言う。そこで茶番劇はお開きとなった。





 周りの者は言う。喜劇の王子アンドリューは責任を放棄して流行りの劇団の女優と駆け落ちした。一方の女優ソフィアの目論見は外れて、王子は王位を失った。公の場で婚約破棄などして、根回しもできぬ愚鈍。婚約者カレンは健気にも勉学に励み、自分の婚約者にまとわりつく者に苦言を呈しただけの正しい人。正しいがゆえに最後にはアンドリューなんかよりも上玉の王弟と結ばれたのだと。その美談はやがて流行りの劇となった。


 王弟の言う通りに放逐されたアンドリューとソフィア。いかにソフィアが過去劇団暮らしをしていようと、アンドリューが放置された子で下町ぐらしの経験があろうと、若い二人の生活は楽ではなかった。しかも保護者も保証人も何も無い状態。見るからに貴族の坊っちゃんと別嬪ふたり。あまりにも訳あり。田舎に引っ込むも、例の二人ではと噂される。


 人々ははじめそれでも懸命に生きる二人を見た。崖の上の草原に粗末な家を建て、簡素な畑を作り、手芸品を売って生活をしていた二人。その後、いつの間にか二人は消えていた。離婚したのか、(かどわ)かしにあったのか。しかし人々の興味はすぐに移ろいゆく。良い方の噂の二人が挙式するのだと。大陸横断鉄道がまた来た話で持ちきりになり、二人は世間からも忘れ去られたのであった。

#婚約破棄 #真実の愛 #誰も悪くない #実際のところは本人たちしか知らない


アンドリュー 柔らかい金髪童顔

ソフィア   柔らかい金髪童顔


カレン    黒髪のはっきりした顔立ち。真面目

王弟    黒髪のはっきりした顔立ち。真面目

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