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恋の東風

作者: 塗布

麻雀というゲームには、単なる勝敗を超えた奥深さがある。卓上で交わされる無言の駆け引き、手にした牌の中に秘められた無限の可能性。そんな麻雀をテーマにしたこの物語は、運命の出会いと、成長する絆を描いています。


東京の片隅にある古びた雀荘「東風」。この場所で、28歳の会社員佐藤健一と、26歳の図書館司書中島明日香は出会います。偶然の対局から始まった二人の関係は、麻雀を通じて次第に深まっていきます。対局を重ねるごとにお互いの心を開き、そして支え合う姿は、読者にとっても共感を呼ぶことでしょう。


本作は、麻雀の魅力と共に、人と人との繋がりの美しさを描いています。健一と明日香が直面する試練や困難、そしてそれを乗り越えていく姿は、麻雀というゲームの枠を超えた普遍的なテーマに迫ります。


麻雀を愛する方も、そうでない方も、この物語を通じて二人の成長と絆に心を動かされることでしょう。どうぞ、彼らの物語を最後までお楽しみください。


著者より

恋の東風トンプウ


東京の片隅にある古びた雀荘「東風」。その店内は、どこか懐かしい昭和の雰囲気が漂っていた。緑色の卓と、煙草の煙がゆらめく空間。そこに、毎週のように通う常連客がいた。


彼の名前は佐藤健一、28歳の会社員。彼は仕事のストレスを忘れるため、ここで麻雀を楽しんでいた。その日も、仕事帰りにふらりと立ち寄った。


「今日はどの卓に入るか…」


健一が見渡すと、一つの卓に目が留まった。そこには見慣れない女性が座っていた。長い黒髪に、真剣な表情で牌を並べている。彼女は一際美しかった。


「新人か…?」


興味を引かれた健一は、その卓に座ることにした。


「お邪魔します。」


健一の声に、女性が顔を上げた。その瞬間、彼の心は一瞬で奪われた。彼女の澄んだ瞳が、まるで吸い込まれるようだった。


「よろしくお願いします。」


彼女の名前は中島明日香、26歳の図書館司書。友人に誘われて初めて雀荘に来たと言う。彼女は初めてとは思えないほど、牌の扱いが手馴れていた。


対局が始まると、健一は彼女の腕前に驚かされた。初心者と思っていた彼女は、実に巧妙な打ち回しを見せた。特に、彼女の静かで冷静な姿勢が印象的だった。


「この人、本当に初心者なのか…?」


健一は彼女の手を読みながら、自分の手も進めていった。彼女の動きから、何か特別なものを感じ取った。それは単なるゲームの対戦相手ではなく、彼自身が求めていた何か。


対局が進むにつれ、二人の間には不思議な緊張感が生まれていた。その緊張感は、周りのプレイヤーにも伝わり、卓を囲む人々も注目していた。


対局が終わると、健一は自然に明日香と話をするようになった。彼女の話を聞くたびに、彼は彼女の内面の魅力に引き込まれていった。彼女もまた、健一の優しさと知識に惹かれていた。


「佐藤さん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」


「健一でいいですよ。明日香さんも、今日は本当に素晴らしかったです。おかげで楽しい時間を過ごせました。」


その日を境に、二人は雀荘で会うたびに自然と一緒に対局するようになった。健一は彼女に麻雀の戦術やコツを教え、彼女もまた、健一に対する感謝の気持ちを言葉や態度で示していた。


ある日、明日香が健一に提案した。


「健一さん、今度一緒に練習しませんか?もっと上手くなりたいんです。」


その提案に、健一は嬉しさを隠せなかった。


「もちろん、喜んで。じゃあ、来週の土曜日はどうですか?」


「楽しみにしています。」


その日から、二人は定期的に練習を重ねるようになった。雀荘以外の場所でも会うようになり、お互いのことを深く知る時間が増えていった。


ある日、健一は明日香を食事に誘った。練習の後、彼女をお気に入りのカフェに連れて行った。


「ここ、私のお気に入りのカフェなんです。落ち着いた雰囲気で、よく来るんですよ。」


明日香は店内を見渡しながら微笑んだ。


「素敵な場所ですね。私もこういうところ、好きです。」


二人はカフェでゆっくりと時間を過ごし、仕事や趣味、そして未来の夢について語り合った。健一は彼女の話を聞くたびに、彼女の純粋さと強さに惹かれていった。


「明日香さん、あなたと一緒にいると、本当に楽しいです。これからも、こうやって一緒に時間を過ごしたいです。」


その言葉に、明日香は少し頬を染めながら答えた。


「私も、健一さんと一緒にいると安心します。これからも、よろしくお願いします。」


その瞬間、二人の間に新たな絆が生まれたことを感じた。麻雀を通じて出会った二人は、互いに心を通わせ、新たな一歩を踏み出していた。


順調に見えた二人の関係に、突然の試練が訪れた。ある日、健一は会社の重要なプロジェクトで大きな失敗をしてしまった。彼はその責任を感じ、自分自身を責めていた。


「こんな自分が明日香さんと一緒にいていいのだろうか…」


その思いが頭をよぎり、彼は次第に明日香との距離を取るようになった。明日香はその変化に気づき、心配そうに尋ねた。


「健一さん、最近どうしたの?何か悩みがあるなら、話してほしい。」


しかし、健一は心を閉ざし、答えを濁すだけだった。


「何でもないんだ。ただ、少し疲れているだけだよ。」


その言葉に、明日香は納得できず、不安を募らせていった。


そんな中、明日香は「東風」の常連客である松本という中年男性と話す機会があった。松本は健一のことをよく知る人物で、彼の状況を察していた。


「中島さん、佐藤君のことを心配しているんだろう?彼は今、大変な時期なんだ。でも、君の支えが必要だと思う。」


その言葉に、明日香は決意を固めた。


「ありがとうございます。私、健一さんを支えるために、もっと頑張ります。」


その夜、明日香は健一の家を訪れた。彼女はドアの前で深呼吸し、意を決してノックした。


「明日香さん…どうしてここに?」


驚いた表情の健一に、明日香は静かに答えた。


「健一さん、あなたが何を悩んでいるのか、話してほしいんです。私たちは一緒にいるんだから、どんなことでも分かち合いたい。」


その言葉に、健一はついに心を開いた。彼は会社での失敗と、それによって感じた自己嫌悪を明日香に打ち明けた。


「僕は君にふさわしくないかもしれない。君を幸せにできる自信がなくなってしまったんだ。」


明日香は健一の手を握りしめ、優しく答えた。


「健一さん、私はあなたの強さも弱さも全部知っているつもりです。それでも、あなたと一緒にいたい。どんな困難があっても、一緒に乗り越えたいんです。」


その言葉に、健一は涙を浮かべた。


「ありがとう、明日香さん。君のおかげで、また前を向いて頑張れる気がする。」


健一は明日香の支えを受けて、再び仕事に立ち向かう決意をした。彼は同僚と共にプロジェクトの再建に全力を尽くし、見事に成功させた。その成果は上司にも認められ、健一は大きな自信を取り戻した。


「明日香さん、僕はもう大丈夫だよ。君のおかげで、また頑張れる。」


明日香も


健一の成長を見て、心から喜んだ。二人はますます絆を深め、お互いに支え合う関係を築いていった。


その年の冬、雀荘「東風」では恒例の麻雀大会が開催された。健一と明日香はペアを組み、参加することにした。大会には多くの強豪が集まり、熱気に包まれていた。


「明日香さん、一緒に優勝を目指そう。」


「はい、健一さん。全力で頑張ります。」


大会が進む中、二人は息の合ったプレイで次々と勝利を重ねていった。最後の対戦相手は、松本とそのパートナーだった。


「健一、お前との対戦を楽しみにしていたぞ。」


山田の言葉に、健一は静かに笑みを浮かべた。


「こちらこそ。全力で戦わせてもらうよ。」


緊張感が漂う中、最後の対局が始まった。二人は互いの手を信じ、冷静に牌を打ち進めていった。時折、目を合わせて微笑み合うことで、心の繋がりを確かめた。


「ここで一発、決める!」


健一は手元の牌を見つめ、最後の一打を放った。その瞬間、卓の上に静寂が訪れた。彼の手が揃い、見事に和了ホーラを決めたのだ。


「やった、健一さん!」


明日香は喜びの声を上げ、健一の手を握りしめた。周りの観客からも拍手と歓声が沸き起こった。


「ありがとう、明日香さん。君のおかげで、優勝できたよ。」


健一は感謝の気持ちを込めて、明日香に微笑んだ。


「私も、健一さんと一緒に戦えて、本当に嬉しかったです。」


その日、二人は大会の優勝者として表彰され、改めて互いの絆を確認し合った。


大会の後、健一は明日香を静かな場所に連れ出した。星空が広がる夜の公園で、二人はベンチに腰掛け、ゆっくりと話を始めた。


「明日香さん、君に伝えたいことがあるんだ。」


健一は緊張した面持ちで言葉を続けた。


「僕は君と出会ってから、たくさんのことを学んだ。君の支えがあったからこそ、今の僕があるんだ。だから、これからもずっと君と一緒にいたい。」


健一の言葉に、明日香は目を潤ませながら答えた。


「私も、健一さんと一緒にいられることが本当に幸せです。どんなことがあっても、二人で乗り越えていきましょう。」


二人は夜空の下で、固い絆を誓い合った。その先には、二人の未来が広がっていた。


そして、東京の片隅にある古びた雀荘「東風」には、今日も新たな物語が生まれ続けていた。そこには、健一と明日香のように、麻雀を通じて繋がる人々の笑顔が絶えなかった。二人の物語は、これからも続いていく。

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