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父の最高傑作

作者: 一色 良薬

 ”親愛なるジェームズへ。息子であるお前に一生を懸けて創り上げた”彼女”を代わりに管理してほしい。長年連絡を寄越さず、父親としての責務も果たしていない私が、どの面で頼むのかと思うかもしれない。しかし頼むなら他の誰でもないお前に頼みたい”

 病魔に侵されながら、震えた筆跡で記された父の願い。今、僕の目の前には美しい女性が生気のない表情で窓の外を見つめている。

 父のアトリエに足を運ぶつもりもなかった。手紙の通り、父は僕ら家族を捨てて芸術家の道へと進んだ奴だ。だというのに死に際になったら唯一の頼りとして、無神経に擦り寄ってきた。厚かましいにもほどがあると怒りを通り越して殺意が芽生えた。

 父のせいで僕らがどんなに哀れで、みじめな人生を歩むことになったか。

”一生を懸けて創り上げた”彼女”を代わりに管理してほしい。”

 どうせ父は死ぬ。しかし死んでも家族より、作品の行方が気になるというのなら。

 父の想いを汲み取り、僕が責任を持って管理しようと決めた。

(彼女が父の作った人型ロボット)

 陽射しを吸い込み、黄金の輝きを放つ髪。人と変わらないきめ細やかな肌。均等のとれた顔のパーツと翡翠の瞳。薄く色づいた桃色の唇に、無意識に唾を飲み込む。

 握っていた鈍器に嫌な汗が滲む。

 僕は彼女を壊しにきた。最高傑作として生まれた彼女を壊せば、亡き父の人生への復讐になると思ったからだ。

 しかし危害を加えるどころか、眺めているだけで罪深く感じるほどに美しい存在に圧倒されている自分がいる。

 父は彼女と半生を過ごしたのか。家族を捨ててでも、惜しみながらも他人に託したい存在。

 ふと彼女の首元から断線しかけているコードが覗いているのが見えた。

 故意的につけられた傷に僕は何もかも悟った。

「初めまして。僕はジェームズ。先代に代わって君の技師になりにきたんだ」

 父が連れていけなかった彼女を、僕が直して奴より信頼関係を作ろう。

 それが何よりもの復讐になるだろう。

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