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突然魔法少女? 8

『会議室』、『図書館』、『資料室』などと美化して呼ばれることが多いこの寮の壁を三つぶち抜いて作られた部屋にアイシャ達は集合していた。モニターが汚いシミだらけの寮の壁と不釣合いな清潔感をかもしだす。周りには通信端末やゲーム機、そして漫画や写真集が転がっている。この部屋はアイシャの寮への引越しによりさらにカオスの度合いが高まっていた。

 以前は男子寮らしいエロゲーの集積所だったこの部屋はアイシャによりもたらされたさらに多数のエロゲーと乙女ゲーが女性隊員までも呼び込み、拡張工事によりさらにゲームや同人誌が積み上げられると言う循環を経て保安隊の行きつけのお好み焼きの店『あまさき屋』と並ぶ一大拠点に成長していた。

「カウラ、最近騒がないのね」 

 部屋に入るとすぐに端末を占領してゲームを始めようとしたところをサラに止められて不機嫌そうにしていたアイシャがそう言いながら端末の電源を落す。カウラは最初のうちは野球部のミーティングをここでやろうとするアイシャや要を露骨に軽蔑するような目で見ていたが、今では慣れたというようにたまに山から崩れてきたエロゲーを表情も変えずに元に戻すくらいのことは平気でするようになっていた。

 だが、この部屋に慣れていない住人も居た。

 近くのマンションに暮らしているがこの部屋に入るのが今日がはじめてと言う嵯峨楓少佐と渡辺かなめ大尉だった。

「クラウゼ少佐。この部屋にはいくつこういうものがあるんだ?」 

 そう言って人妻もののエロゲーのパッケージをアイシャに見せる楓。照れながらちらちらとヌード写真が開かれたままになっている週刊誌に視線を向ける渡辺。

「楓ちゃん、なに硬くなってるのよ。仕事が終わったんだからアイシャでいいわよ」 

 そう言いながらパーラから渡された書類を並べるアイシャ。

「そうか、じゃあ僕のことも楓と呼び捨ててもらった方が気が楽なんだ。ちゃんづけは……」 

 そう言いながら要を見つめる楓に要は身をそらした。

「ああ、アタシのお袋か。まあ、あの生き物の前じゃ叔父貴も『新ちゃん』だからな」 

 そう言いながらすでに要の手にはラム酒の瓶が握られていた。誠は引きつる要の表情を見逃さなかった。噂に聞く西園寺康子。要の母にして嵯峨の戸籍上は姉、血縁では叔母に当たる人物。薙刀の名手として知られ、胡州に亡命した軟弱な廃帝と思われていた嵯峨を奸雄と呼ばれるまで鍛え上げた女傑だった。

「何持ってんのよ!」 

 アイシャの言葉に要はむきになったように瓶のふたを取るとラム酒をラッパ飲みした。

「どうせまともな会議なんてする気はねえんだろ?それにあちらは今はシャム達はあまさき屋でどんちゃん騒ぎしているみたいだぞ」 

 そう言うと要は珍しく自分から立ち上がって通信端末のところまで行くと襟元のジャックから通信ケーブルを端末に差し込んでモニターを起動させる。そこには時間を逆算するとまだ三十分も経っていないだろうというのに真っ赤な顔のレベッカにズボンを下ろされかけている西の姿があった。

「やばいな誠。脱ぎキャラがお前以外にも出てきたぞ」 

 ニヤニヤ笑いながら誠に飛びついてヘッドロックをかける要。130キロ近いサイボーグの体に体当たりを食らって誠は倒れこんだ。カウラはそれを見ながら苦虫を噛み潰すような表情でわざとらしくいつもは手も出さないエロゲーのパッケージを手にとって眺めている。

 誠が何とか要を引き離して座りなおすと楓がいつ火がつくかわからないと言うような殺気を込めた視線を送ってくる。

「なるほどねえ。あっちが動いていないならこちらから何かを仕掛けるわけには行かないわね」 

 あっさりとそう言ったアイシャだが、この部屋に居る誰もがこのままでアイシャが終わらないと言うことは分かっていた。

「なに余裕ぶっこいてんだよ。なんか策でもあるのか?」 

 明らかに泥酔へと向かうようなペースでラム酒の瓶を空けようとしている要。だが、アイシャはただ微笑みながらその濃紺の長い髪を軽くかきあげて入り口の扉を見つめていた。

「まあね。今この場所に入りたくてしょうがない人がもうすぐ来るでしょうから」 

「はあ?なんだそりゃ?」 

 要の言葉を聞くと誰もが同じ思いだった。アイシャが嵯峨や吉田に次ぐ食えない人物であることは保安隊の隊員なら誰もが知っている。この場の全員の意識がアイシャが見つめているドアに集中した。

 ドアが少しだけ開いている。そしてその真ん中くらいに何かが動いているのが見えた。

「なんですか?もしかして……」 

 そう言いながら渡辺が扉を開いた。

「よう!元気か?」 

 わざとらしく入ってきたのは小さい姐御ことランだった。

「なあに?中佐殿もお仲間に入りたいの?」 

 つっけんどんに答えるアイシャだが、ランはにんまりと笑うと後ろに続く菰田達に合図した。彼らの手には大量のピザが乗っている。さらにビールやワイン。そしていつの間にかやってきたヨハンが大量の茹でたソーセージを手に現れた。

「なんだ。アタシも配属祝いでそれなりにもてなされたからな。その礼だ」 

 要やカウラの目が輝く。パーラはすでに一枚のシーフードビザを自分用に確保していた。

「すみませんねえ、中佐殿。で?」 

 アイシャは相変わらず無愛想にランを見つめる。

「そのー、なんだ。アタシ達も仲間に入れてくれって言うか……」 

 その小学校低学年の体型で下を向いて恥らう姿に、『ヒンヌー教』三使徒の一人で手にたくさん割り箸を握っていたソンが仰向けに倒れこんだ。周りの整備兵達がそれを引きずって外に出て行く、廊下で『萌えー!』と叫び続けるソン。だが隣ではもう一人の三使徒の一人ヤコブがコブシを握り締めてじっと誠をにらみつけてくる。それが明らかにカウラの隣に自然に座っている自分に向けられているのに気づいた誠は冷や汗をかきながら下を向いて目を背けた。

「なあにいつでも歓迎ですよ!コップとかは?」 

「持って来てますよ!」 

 しなを作りながら落ち着かない誠の隣にコップを並べ始めるのはアンだったがそれを見てさらに一歩下がってしまう。

「神前先輩!一杯、僕の酒を飲んでください!」 

 大声で叫ぶアンだが、彼は数人を敵に回したことに気づいていなかった。

「どけ!」 

 そう言うとアンを張り飛ばしたのは要だった。そして誠の手のコップに珍しく自分のラム酒でなくビールを注いだ。

「これは飲めるだろ?」 

 満足げな表情を浮かべる要。そして誠がそのビールに目をやると、要は背後でビールを持って待機していたカウラを見つめる。明らかに失敗したと言う表情のカウラ。そして今度は要はアイシャを見つめた。

サラ、島田、ヨハンと言ったこの部屋に通いなれた面々が手際よく皿と箸とグラスを配っていく。

「みんな酒は行き渡ったかしら?」 

 あくまでも仕切ろうとするアイシャにつまらないと言った顔をする要は、必要も無いのにそれまでラッパ飲みしていたラム酒をグラスを手にしてなみなみと注いだ。

「えーと。まあどうでもいいや!とりあえず乾杯!」 

 アイシャのいい加減な音頭に乗って部屋中の隊員が乾杯を叫ぶ。

「まあぐっとやれよ。どうせ次がつかえてるんだろ?アンには悪いが順番と言うものがあってな」 

 ニヤニヤと笑いながらグラスを開けるべくビールを喉に流し込んでいる誠を見つめる要。そしてその隣にはいつの間にかビール瓶を持って次に誠に勺をしようと待ち構えるアイシャが居た。

「はい!誠ちゃん」 

 アイシャは誠の空になったグラスにビールを差し出す。

「オメー等……またこいつを潰す気か?」 

 本当に酒を飲んでいいのかと言いたくなるようなあどけない面立ちのランがうまそうにビールを飲みながらそう言った。見た目は幼く見えるが誠が知る限り女性士官では一番の年配者であるラン。先日要にビールを飲まされてからその魅力に取り付かれた彼女はすっかりビール党となり最近は変わったビールを取り寄せて振舞うのを趣味としていた。

「良いんですよ!こいつはおもちゃだから、アタシ等の!」 

 そう言い切って要はそばに置かれていた唐辛子の赤に染まったピザを切り分け始める。

「マジで勘弁してくださいよ……」 

 要とアイシャに注がれたビールで顔が赤くなるのを感じながらそう言った誠の視界の中で、ビールの瓶を持ったまま躊躇しているエメラルドグリーンの瞳が揺れた。二人の目が合う。カウラは少し上目遣いに誠を見つめる。そしてそのままおどおどと瓶を引き戻そうとした。

「カウラさん。飲みますよ!僕は!」 

 そう言って誠はカウラに空のコップを差し出した。誠が困ったような瞳のカウラを拒めるわけが無かった。ポニーテールの髪を揺らして笑顔で誠のコップにビールを注ぐカウラ。その後ろのアンは喜び勇んでビールの瓶を持ち上げるが、その顔面に要の蹴りが入りそのまま壁際に叩きつけられる。

「西園寺!」 

 すぐに振り返ったカウラが叫ぶ。要はまるで何事も無かったかのように自分のグラスの中のラム酒を飲み干していた。要も手加減をしていたようでアンは後頭部をさすりながら手にしたビール瓶が無事なのを確認している。

「西園寺。オメーはなあ……やりすぎなんだよ!」 

 ランはそう言うと要の頭を叩いた。倒れたアンにサラとパーラが駆け寄る。

「大丈夫?痛くない?」 

「ひどいな、西園寺大尉は」 

 サラとパーラに介抱されるアンに差し入れを運んできた男性隊員から嫉妬に満ちた視線が送られている。誠はこの状況で自分に火の粉がかかるいつものパターンを思い出し、手酌でビールを注ぎ始めた。

「お姉さま。僕も今回はやっぱり要お姉さまが悪いと思います!アン、大丈夫そうだな」 

「そうですね」 

 味方になると思っていた楓と渡辺。第三小隊の隊長としての立場をわきまえている楓まで敵に回り、要はいらだちながら再びラム酒をあおった。

「よく飲むなあ……少しは味わえよ」 

「うるせえ!餓鬼に意見されるほど落ちちゃいねえよ!」 

 ランから文句を言われている要だが、そっと彼女は切り分けたピザを誠に渡した。

「あ、ありがとうございます」 

「礼なんて言うなよ。そのうちオメエが暴れだして踏んだりしたらもったいないからあげただけだ」 

 そう言う要の肩にアイシャが手を寄せて頷いている。その瞳はすばらしい光景に出会った人のように感嘆に満ちたものだった。

「なんだよ!」 

「グッジョブ!」 

 思い切り良く親指を立てるアイシャに要はただそのタレ目で不思議そうな視線を送っていた。

「ったく何がグッジョブだよ」 

 誠は苦笑いを浮かべて注がれたビールを飲み干した。明らかに部隊で根を詰めて絵を描き続けてきた反動か、意識がいつもよりもすばやく立ち去ろうとしているのを感じる。そしてそのままふらふらとカウラを見つめる誠。その目は完全に据わっていた。カウラも少しばかり引き気味に誠を見つめる。ランは誠に哀れみの視線を送っていた。

「あーあ、なんだか顔が赤いわよ。誠ちゃんいつものストレスが出てきたのね」 

 アイシャはラム酒をラッパ飲みしている要を見つめてため息をつく。

「なんだよ、そのため息は。アタシになんか文句あるのか?」 

「ここにいる全員が西園寺の飲み方に文句があるんじゃねーのか?」 

 開き直る要に突き刺さるようなランの一言。要は周りに助けを求めるが、いつもは彼女の言うことにはすべてに賛成する楓もアンの介抱をしながら責める様な視線を送ってくる。

「ああ、いいもんね!私切れちゃったもんね!神前!こいつを飲め!」 

 そう言うと要は手にしたラム酒をビールだけで半分出来上がった誠の半開きの口にねじ込んだ。ばたばたと手を振って抵抗する誠だが、相手は軍用の義体のサイボーグである。次第に抵抗するのを止めて喉を鳴らして酒を飲み始めた。

「あっ、間接キッス!」 

 突然そう言ったのはカウラだった。意外な人物からの意外な一言にうろたえた要は瓶を誠の口から引き抜いた。そのまま目を回したように倒れこむ誠。その顔は真っ赤に染まり、瞳は焦点を定めることもできず、ふらふらとうごめいている。

「馬鹿野郎!神前を殺す気か?ちょっと起こせ!」 

 蛮行もここまで来るといじめだった。そう思ったランは手にしていたコップを置くと顔色を変えて誠に飛びついた。そしてそのまま口に手を突っ込んで酒を吐かせようとするが、誠は抵抗して口を開こうとしない。

「仕方ねーな。カウラ!水だ!飲ませて薄めろ!」 

 そう言われて飛び出していくカウラ。アイシャはすぐさま携帯端末で救急車の手配をしている。

「ったく西園寺!餓鬼かオメーは!」 

「心配しすぎだよ。こいつはいつだって……」 

「馬鹿!」 

 軽口を叩こうとした要の頬を叩いたのは真剣な顔のアイシャだった。

「本当にアンタと誠ちゃんじゃあ体のつくりが違うの分からないの?こんなに飲んだら普通は死んじゃうのよ!」 

 アイシャは要の手からほとんど酒の残っていないラム酒の瓶を取り上げた。

「このくらいで死ぬかよ……」 

 そう言った要だが、さすがに本気のアイシャの気迫に押されるようにしてそのまま座り込んだ。

「らいりょうぶれすよ!」 

 むっくりと誠が起き上がった。その瞳は完全に壊れた状態であることをしめしていた。

「ぜんぜん大丈夫には見えねーけど」 

 助け起こすラン。だが、誠の視界には彼女の姿は映っていなかった。誠はふらふらと体勢を立て直しながら立ち上がる。そして要とアイシャに向かってゆっくりと近づき始めた。

「かなめしゃん!」 

 突然目の前に立つふらふらの誠に魅入られて要はむきになって睨み返した。

「は?なんだよ」 

 そして突然誠の手は要の胸をわしづかみにした。その出来事に言葉を失う要。

「このおっぱい、僕を誘惑するらめにおっきくらったってアイシャらんが……」 

 誠の言葉に自分の胸を揉む誠よりも先に要は視線を隣のアイシャに向ける。明らかに心当たりがあると言うように目をそらすアイシャ。

「らから!今!あの……」 

「正気に戻れ!」 

 そう言って延髄斬りを繰り出す要だが、いつものパターンに誠はすでに対処の方法を覚えていた。加減した要の左足の蹴りを受け流すと、今度はアイシャの方に歩み寄る。

「おお、今度はアイシャか……」 

 要は先ほどまで自分の胸を触っていた誠の手の感触を確かめるように一度触れてみた後、アイシャに近づいていくねじのとんだ誠を見つめていた。

「何かしら?私はかまわないわよ、要みたいに心が狭くないから」 

 アイシャの発言に部屋中の男性隊員が期待を寄せたぎらぎらとしたまなざしを向ける。それに心震えたと言うようにアイシャは誠の前に座った。

「あいひゃらん!」 

 完全にアルコールに支配された誠を見つめるアイシャ。だが、誠は手を伸ばすこともせず、途中でもんどりうって仰向けに倒れこんだ。

「大丈夫?誠ちゃん」 

 拍子抜けしたアイシャが手を貸す。だが、その光景を見ている隊員達はわざとアイシャが誠の手を自分の胸のところに当てようとしているのを見て呆れていた。

「らいりょうぶれす!僕はへいきらのれす!」 

 そう言うとアイシャを振りほどいて立ち上がる誠。だが、アイシャは名残惜しそうに誠の手を握り締めている。全男性隊員の視線に殺意がこもっているのを見てランですらはらはらしながら状況を見守っていた。

「ぜんぜん大丈夫に見えないんだけど……部屋で休んだほうがいいんじゃないの?」 

「こいつ……部屋に連れ込むつもりだよ」 

 要に図星を指されてひるむアイシャ。だが、誠はふらふらと部屋を出て行こうとする。

「どこ行くのよ!誠ちゃん」 

「ああ、カウラひゃんにあいさつしないと……こうへいらないれひょ」

 要とアイシャは顔を見合わせる。こんなに泥酔していても三人の上官に気を使っている誠に、それまで敵意に染められていた周りから一斉に同情の視線が注がれることとなる。

「神前……苦労してんだな」 

 ランはそう言いながら他人事のように誠達を見つめていた。

「おい!上官だろ?介抱ぐらいしろよ」 

 要の言葉にランは首を振るとグラスの底に残ったビールを飲み干す。

「大丈夫なんじゃねーのか?いつもはオメー等にKOされて言えなかった神前の本音も聞きてーしな」 

 明らかに他人を装うランに要は頭を抱えて自分の行為を悔いた。

「それにちゃんとテメーの尻はテメーで拭けよ。知らねーぞ、あいつカウラにも同じことするつもりだぞ。そうなりゃこういうことに免疫のねーカウラだ……まあアタシはかまわねーけどな」 

 ランの言葉に要とアイシャは目を見合わせて立ち上がる。当然のように野次馬を気取るサラや島田が立ち上がってそのあとをつけていく。

「カウラひゃん!」 

 そんな誠の声に要とアイシャ、そして野次馬達は階段を駆け下りた。壁際に水を入れた瓶を持ったカウラを追い詰めて立つ誠。その姿を見て飛び掛ろうとする要をランが引っ張る。

「野暮なことすんな」 

 そう言うと先頭に立ち階段に伏せて二人を見つめるラン。アイシャもその意図を悟って静かに伏せていた。

「なんのつもりだ?神前」 

 冷たい調子で言うカウラ。だが、要もアイシャもその声が僅かに震えていることに気がついていた。完全に傍観者スタンスのサラがアイシャの顔を覗き込む。

「どうですか、クラウゼ少佐。このまま神前君はがんばれますかね」 

「いやー無理でしょう。彼はどこまで言っても根性無しですから。根性があれば……」 

 島田との付き合いが公然のものであるサラの言葉に思い出されたさまざまな自分の誘いのフラグをへし折ってきた誠の態度にこぶしを握り締めるアイシャ。

「僕は……僕は……」 

「僕がどうしたんだ?飲むか?水」 

 そう言うとカウラは誠の頭から氷の入った水をかけた。野次馬達の目の前には、誠でなく自分達を見つめているカウラの冷たい視線が見えた。

「つっ!つっ!つっ!冷たい!」 

 思わずカウラから手を離す誠。同情と自責の念。思わず照れながら立ち上がる野次馬達。

「アイシャとクバルカ中佐……それに西園寺。いい加減こういうつまらないことを仕組むの止めてくれないか?」 

「そうだ!止めろっての!」 

 立ち去ろうとする二人の手を掴んで拘束するサラと島田。ランとアイシャが振り返った先では彼女達を見て囁きあう隊員の顔が見える。要もその攻め立てるような視線に動くことが出来ずにラン達と立ち往生していた。

「なにするのよ!島田君!」 

「離せ!」 

 ばたばた足を持ち上げられて暴れるランとアイシャ。カウラは二人を簡単に許すつもりは無いというように仁王立ちする。

「わかったから!こんどから誠ちゃんで遊ぶの止めるから!」 

「覗きは止める!だから離せってーの!」 

 ランの懇願に島田は二人の足から手を離す。カウラはそれだけではなくそのままラン達のところまで歩いてきた後、野次馬組を睨みつけた。

「ったくオメー等がはっきりしないのがいけねーんだ……って、寝てやがるぞ、あいつ」 

 そんなランの言葉に要とカウラは誠に目をやった。酒に飲まれて倒れこんだまま寝息を立てる誠。

「風邪引くからな、そのままにしておいたら。アイシャ、カウラ、要。こいつの体を拭いて部屋に放りこんでこい。それとあくまでつまらねーことはするなよ」 

 頭を描きながらランはそのまま呆れたような顔をしてビールを求めて図書館へと帰っていった。

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