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突然魔法少女? 3

 それから同じように途中まで進んでは戻ると言う動作を三回繰り返した後、ようやく車はいつものコイン駐車場に到着した。

「カウラちゃんて……結構頑固よねえ……」 

 助手席から降りたアイシャが伝説の流し目でカウラを見つめた。カウラはとりあえず咳払いをしてそのまま立ち去ろうとする。

「おい!鍵ぐらい閉めろよ。それとも何か?お前も今のアイシャの流し目でくらくらきたのか?」 

 後部座席からようやく体を引っ張り出した要が叫ぶ。その言葉を口にしたのが要だったことがつぼだったようでアイシャは激しく腹を抱えて笑い出した。以前、楓がこの流し目を見て頬を染め、それからはすっかり要と並ぶ身も心も捧げたいお姉さまの一人となっていることが彼女の流し目を『伝説』と呼ばせることになった。カウラはあわてて車のキーを取り出して鍵をかける。

 そのまま造花とちょうちんに飾られたアーケードの下を進む四人。いつもの保安隊のたまり場、小夏の実家のあまさき屋とは逆方向の市民会館に向かって歩く。そしてフリーマーケットの賑わいを通り過ぎた先にどう見ても怪しい集団が取り巻いている市民会館にたどり着いた。

 年は30歳前後が一番多いだろう。彼等は二種類に分類できた。

 一方は迷彩柄のポーチや帽子をかぶり、無駄に筋肉質な集団。そしてもう一方はアニメキャラのプリントされたコートなどに身を包む長髪が半分を占める団体である。

「おい、アイシャ。お前どういう宣伝をやったんだ?」 

 違和感のある観客を見てものすごく不機嫌そうな顔をする要。アイシャはただニヤニヤと笑うだけで答えるつもりは無い様だった。そのまま彼らから見つからないように裏口の関係者で入り口に向かう。そこにはすでにシャムが到着していた。いつものように東和軍と共通のオリーブドラブの制服。そして帽子だが、シャムの帽子には猫耳がついている。

「お前も相変わらずだなあ……」 

 呆れながら声をかける要を見つけるとシャムはそのまま中の通路に走り出した。

「おい!アイシャ!これ!」 

 そう言ってゴスロリドレスを着込んでステッキを持った少女がめがねをアイシャに渡す。

 誠が目をこすりながら見るとその少女はランだった。その鋭い目つきは明らかにこの格好をさせられていることが気に入らないらしい。特徴的なランの眼光はぎらぎらと輝きながら誠達を威圧した。

 さすがに上官をこれ以上苛立たせまいとアイシャがめがねをかけて息を整える。それを見たランが怒りに任せるように一気に爆発した感情に任せてしゃべりだした。

「おい、アイシャ!あの連中はなんだ?アタシは子供達が楽しむための子供向け映画だから出るって言ったんだぞ!それになんでこの格好で舞台挨拶しろって……オメー!なんかたくらんでるんじゃねーのか?え?」 

 そう言って食って掛かろうとするランだが、アイシャは腰を落としてランの視線に自分の視線を合わせると頭を馬鹿にしたように撫ではじめた。

「馬鹿野郎!アタシの頭を撫でるんじゃねー!」 

「だってかわいいんだもの。ねえ!」 

 そう言って今度は誠に話題を振ってくる。

「まあ、ネットで人気投票やったらクバルカ中佐の格好が一番好評だったんで……まあ魔法少女モノですとライバルキャラが人気になるのはよくあることですから」 

 誠のフォローは何の足しにもならなかったようで、ランは誠の鳩尾に一撃した後そのまま奥へと消えていった。鳩尾を押さえてうずくまる誠を看病しようとするのはカウラだけだった。要は腹を抱えて笑い、アイシャはそのまま奥へと消えていく。

「しかし、傑作だぜあのガキ。ああいった格好すると本当にガキだな」 

 要の笑いはそう簡単には止まりそうに無い。そこにサラが現れた。

「ちょっと!誠君達。遊んでないで手伝ってよ!あなた達、入場整理の係でしょ?」 

 すぐさまきびすを返して音響用のコードを持って走り回る島田を追いかける。

「入場整理ってあれか?」 

 要は入り口にたむろした集団を思い出していた。

「あまり係わり合いにはなりたくないな」 

 歯に衣着せないカウラの一言。誠も中身は彼等と大差ないのでとりあえず愛想笑いを浮かべて立ち上がった。いまだに腹部に痛みが残り渋い笑みが自然とこぼれる。

「大丈夫か?」 

 気遣うカウラを制してそのまま誠は歩き始めた。

 今回の映画、『魔法戦隊マジカルシャム』の服飾およびメカ、怪獣のデザインをしたのは誠である。とりあえず観衆の期待がそれなりに高いと言うことも分かって、誠はやる気を見せるべくそのままロビーへとたどり着いた。

 先頭の客は誠も何度かコミケで顔を合わせたことのある大手同人サークルの関係者だった。その前に立つアイシャと世間話をしている。

「ずいぶん来てるな。結構入るんだろ?この劇場って」 

 要はタバコを手にしてそのまま喫煙コーナーへと向かう。

「ええ、五百人弱は入ると思いますよ」 

 その言葉に絶句してタバコを落としそうになる要。カウラはロビーに広がる独特な雰囲気にいつものように飲まれていた。要はそのまま足早に喫煙コーナーのついたての向こうに消えた。そんな光景を見ていた誠に近づいてきたのはキムとエダだった。

「それじゃあカウラさんと……要さん!は入り口でこの券を販売してください。それと神前はクレーム対策な」

 そう言って笑うキム。

「無料じゃないのか?」 

 そう言って迫るカウラにキムは親指で客と談笑をしているアイシャを指差した。

「ああ、あの人が漫画研究会の活動資金にするんだとか。それに確かに吉田少佐はきっちり画像処理の料金とか請求するとか言ってたし」 

「俺がどうかしたって?」 

 劇場の扉からは顔中埃だらけの吉田が現れる。キムとエダは敬礼した後すばやく立ち去ってしまう。

「それにしても客よく集めたな。入場料は五百円か。高いのか安いのか……」 

 そう独り言を言うと吉田は再び劇場の中に消えていく。

「何しにきたんだ?」 

 いつの間にかタバコを吸い終えて戻ってきた要は誠の隣で屈伸をしている。

「客の様子でも見に来たんだろ?じゃあ私達もいくぞ!」 

 こういう場所でも責任感を発揮するカウラはゆったりした歩き方でロビーへと歩き始めた。

「これか」 

 カウラはそう言うとエダが用意したチケットの入った箱を見た。隣には釣り用の小銭、そして隣にはパンフレット。そしてその隣には……。唖然とする誠とカウラを見るとアイシャは手早く雑談をしていた客に挨拶をして誠達に近づいてくる。

「これを売るのか?」 

 要はそう言うと薄いオフセット印刷の雑誌を手に取る。表紙の絵はシャム。金髪の男性とひげ面の男が半裸で絡み合っている絵に明らかに引いたように見える要。

「大丈夫よ。今日はあまり女性客にはアピールしていないから売れないと……」

「そういう問題じゃねえ!」 

 要はそう言うと上着を脱いで同人誌の山にかぶせる。それを見たアイシャはやり取りを興味深そうに眺めていた観客に向かって手を広げて見せた。

「皆さん!ここで当部隊西園寺大尉によるストリッ……フゲ!」

 そこまでアイシャが言ったところで要は彼女の前に積まれた同人誌を一冊丸めて思い切り叩く。ヘッドロックをアイシャにかけるとワイシャツの下のふくらみが際立つ。そしてそんな要の姿に盛り上がる観衆。

「ナイスよ……要ちゃん。その反応を待っていたの」 

 首を締め上げられながらにんまりと笑うアイシャに要の腕の力が抜ける。アイシャは器用にそこを抜け出し手をたたいて観客に向き直った。

「それでは皆さん!では受付を開始します!」 

 アイシャはそう言うと彼女の体を張った芸に感心する知り合い達に愛想笑いを浮かべながら手を広げる。いつの間にか受付と書かれたテーブルに座っていたカウラが準備を済ませて先頭に立っていたアイシャの知り合いらしい無精髭の男から札を受け取る。

「五百円に……それじゃあこれがお釣りで」 

 準備が念入りだった割りにこういう客を相手にするのは苦手らしくなんともぎこちない感じで受付をするカウラ。だが、一部の熱い視線が彼女に注がれているのが、そう言うことには疎い誠にもすぐに分かった。

「誠ちゃん、ちょっと列の整理お願いできるかしら?それと要は邪魔だからそのまま帰っていいわよ」 

「んだと!コラァ!」 

 食って掛かろうとする要を押さえつけて誠はそのまま受付のロビーから外に並んでいる列の整理に当たることにした。とりあえず今のところは混乱は無い。だが……。誠は隣に立っている要の様子を伺っていた。明らかに不機嫌である。右足でばたばたと地面を叩いていて、観客達を嘗め回すように見つめる。

 元々それほど要の顔つきは威圧的ではない。どちらかと言えば色気のある顔だと誠は思っていた。遼州や地球の東アジア系にしては目鼻立ちははっきりしていて、特徴的なタレ目には愛嬌すら感じる。

 だが、明らかに口をへの字にまげて、ばたばたと貧乏ゆすりを続けていて、しかも着ている制服は東和軍と同じ。一部のミリタリー系のマニアが写真を取ろうとするたびに威嚇するように目を剥く要。先ほどのアイシャとのやり取りで一回り大柄なアイシャの頭を楽に引っ張り込んだ力を見ていた客達はそんな要にはむかう度胸は無いようで静々と列は進む。

「なんか、僕はすることあるんですかね……」 

 噛み付きそうな要の表情を見ると不器用で何度も釣の感情を間違えているカウラの受付で苛立った客達もするすると会館のロビーへと流れて行く。

「そこ!タバコ!」 

 そう叫んで要が一人の迷彩服の男に近寄っていく。誠もこれはと思いそのまま要の後をつけた。

「禁煙ですか……消します」 

 要の迫力に負けて男はすぐに持っていた携帯灰皿に吸いかけのタバコをねじ込む。それを見ると不思議そうな顔をして要は誠の待つロビーの前の自動ドアのところに帰ってきた。

「くそったれ、もう少し粘ったらタバコを没収してやろうと思っていたのに」 

 そう言うと今度は自分でポケットからタバコを取り出しそうになってやめる要。その様子を誠に見られていかにもばつが悪いと言うように空を見上げる。次第にアイシャの交友関係から発展して集まった人々はいなくなり、町内の見知った顔が列に加わっているのが見える。

「おい、もう大丈夫だろ?戻ろうぜ」 

 そう言うとまるで誠の意思など確認するつもりは無いと言うように要は受付へとまっすぐに向かっていく。誠もそれにひきづられるようにして彼女の後を追った。

「あ!外道がサボってますよ」 

 劇場の中から甲高い声が響く。そこにはフリフリの魔法少女姿の小夏が要を指差して立っていた。

「おい、ちんちくりん!人を指差すなって習わなかったのか?」 

 そう言ってずんずんと近づいていく要。小夏の周りには慣れている誠ですらどうにも近寄りがたいオーラをまとった男達と小夏の友達の中学生達が遠巻きに立っていた。

「とう!」 

 突然の叫び声と同時に、誠の目の前では要の顔面に何かが思い切り飛び蹴りをしている姿が見えた。その右足は要の顔面を捉え、後ろへとよろめかせる。そして何者かが頭を振って体勢を立て直そうとする要に向かって叫んだ。

「やはり寝返ったな!イッサー大尉。このキラットシャムが成敗してあげるわ!」 

 それはピンク色を基調としたドレスを着込んだシャムだった手にステッキを持って頭を抱えている要に身構える。

「テメエ……テメエ等……」 

 膝をついてゆっくりと立ち上がる要。サイボーグの彼女だから耐えられたものの、生身ならばいくら小柄のシャムの飛び蹴りといっても、あの角度で入れば頚椎骨折は免れないと思いつつ、誠はシャム達の様子をうかがった。

「さすが師匠!反撃ですよ」 

「違うわ!サマー。私はキラットシャム!魔法で世界に正義と愛を広める使者!行くわよ……グヘッ!」 

 シャムの顔面をわしづかみにして締め上げる要の顔には明らかに殺気が見て取れた。

「卑怯だよ!要ちゃん。ちゃんとこういう時の主人公側のせりふが続いているときは……痛い!」 

「ほう、続いているときはどうなんだよ?良いんだぜ、アタシはこのままお前の顔面を握りつぶしても、なあ誠」 

 そう話を振ってくる要に観衆は一斉に眼を向ける。

 明らかに少女を痛めつけている軍服を着た女とその仲間。群集は要の譴責をを大の男である要求していた。

「あのー、二人ともこれくらいにしないと……」

 何も知らない群集ではなく誠は要の怖さは十分認識していたのでできるだけ穏便にと静かに声をかける。 

「おお、そうか。神前もここでこいつの人生を終わらせるのが一番と言うことか。安心しろ、シャム。痛がることも無くすぐに前頭葉ごと握りつぶして……」 

 そこまで要が言ったところで今度は竹刀での一撃が要の後頭部を襲った。

「いい加減にしろよな!馬鹿共!とっとと引っ込んで持ち場に戻ってろ!」 

 再び幼女ランの登場。しかし、彼女は黒をベースにしたゴスロリドレスと言った格好をしており、よく見ると恥ずかしいのか頬を赤らめている。要もさすがにシャムの顔面を握りつぶすつもりは無いと言うようにそのまま痛がるシャムから手を離すと、今度はランに目を向けた。

「これは中佐殿!ご立派な格好で……ぷふっ!」 

 途中まで言いかけて要は笑い始めた。こうなると止まらない。ひたすら先ほど指をさすなと言った本人がランを指差して大笑いしている。

「おい、聴いたか?あの子……中佐だってよ」 

「すげーかわいいよな。でも中佐?どこの軍だ?保安隊は遼州全域から兵員集めてるからな……遼南?」 

「でもちょっと目つき悪くね?」 

「馬鹿だなそれが萌えなんだよ。わからねえかなあ……」 

 周りのカメラを持った大きなお友達に写真を撮られているラン。そのこめかみに青筋が浮いているのが誠にも分かった。

「すいません!以上でアトラクションは終了ですので!」 

 そう言うと誠はランと要の手を引いてスタッフ控え室のある階下の通路へと二人を引きずっていった。シャムと小夏も誠の動きを察してその後ろをついていく。

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開いた。そのまま舞台の袖が見えるがそちらには向かわず舞台の裏側に向かう通路を一同は進んだ。そしてそのまま雑用係をしているらしい警備部員が雑談している前を抜けて楽屋の扉を開いた。

 そんな誠の前に立っていたのはこれまた派手な金や銀の鎧を着込み、そのくせへそを出したり太ももを露出させているコスチュームを着た第三小隊隊長、嵯峨楓少佐だった。

「ああ、今着替えたところだが……これからどうすれば?」 

 何度か右目につけた眼帯を直しながら誠に聞いてくる楓。だが、その視線がシャムに手を引かれて入ってきた要に気がつくとすぐに頬を染めて壁の方に向かってしまう。

「お姉様が来てるって何で知らせないんだ!」 

 小声で誠につぶやく楓。

「そんなこと言われても……」 

「はいはーい。要ちゃん!これ」 

 雑用に走り回る警備部の面々にジュースを配っているリアナ。どう見ても軍の重巡洋艦クラスの保安隊の所有する運用艦『高雄』の艦長とは思えないような気の使い方である。

「リアナさんこっちもお願い!」 

 そう言って手を上げるのは、音響管理端末を吉田と一緒に動作確認をしているリアナの夫である菱川重工の技師鈴木健一だった。

「ったくめんどくせえなあ」 

 そう言いながらジュースのプルタブを開けた要。そんな彼女を見て大変なものとであったとでも言うような表情でサラとパーラ、そしてレベッカが箱を抱えて近づいてきた。

「西園寺さん。これ」 

 おずおずとレベッカが箱を差し出すが、中身を知っている要は思い切りいやな顔をした。

 これから上映されるバトル魔法少女ストーリー『魔法戦隊マジカルシャム』のメインキャストでの一人、キャプテンシルバーの変身後のコスチューム。ぎらぎらのマント、わざとらしくつけられたメカっぽいアンダーウェア、そしてある意味、要にはぴったりな鞭。

「やっぱやるのか?終わったら」 

 約二時間の上映が終わったら開催される予定の撮影会。昨日もこのイベントが嫌だと寮で暴れていた要である。

「ここまできたらあきらめなさいよ」 

 そう言ったのは保安隊技術部部長、そして影の保安隊の最高実力者とも言われる許明華きょめいか大佐だった。彼女もまた肩から飛び出すようなとげのがる鎧と機械を思わせるプリントのされたタイツを着ている。

「あのー、姐御?なんか怖いんですけど」 

 そう言ったのは要だった。

 確かに明華の顔には白を基調にしたおどろおどろしいメイクが施されている。役名『機械魔女メイリーン将軍』。本人は気乗りがしないと言うことがそのこめかみの震えからも見て取れた。

「皆さんおそろいで……」 

 奥の更衣室から出てきたのは両手に鞭のようなバラのツルをつけてほとんど妖怪のような格好をさせられた保安隊のたまり場『あまさき屋』の女将、家村春子だった。

「お母さん大丈夫?」 

 その姿に少し引いている娘の小夏が声をかける。

「なに言ってるの!これくらいなんてことはないわよ……ねえ!」 

 そう言って春子はジュースを配りに来たリアナに声をかける。

「そうよ!私もやりたかったくらいですもの」 

 リアナはすっかり彩り豊かな衣装に囲まれて興奮しているようで、顔が笑顔のままで固定されているようにも見えた。

「それと、これ神前君ね」 

 レベッカは誠に数少ない男性バトルキャラ『マジックプリンス』の衣装を手渡した。

「やっぱり僕も……」 

 その箱を見て落ち込む誠。

「テメエのデザインじゃねえか!アイシャとシャムと一緒に考えたんだろ?それにしてもアイシャが何でこういう格好しねえんだよ!伊達眼鏡の一般教師なんて……誰でもできるだろうが!」 

 思わず衣装を投げつけんばかりに激高する要。

「私がどうかしたの?」 

 そう言って控え室に入ってきた伊達眼鏡のアイシャがコスプレ中の面々を見て回る。明らかにいつも彼女が見せるいたずらに成功した子供のような視線がさらに要をいらだたせた。その後ろからは疲れ果てたと言う表情のカウラがしずしずと進んでくる。

「おい、大丈夫なのか?受付の方は」 

 心配そうにランがアイシャを見上げている。

「大丈夫よ。キムとエダ、それに菰田が仕切ってくれるそうだから……」 

 その視線はダンボールを手に更衣室に入ろうとする要に向けられた。

「早く着替えて見せてよ。久しぶりにキャプテンを見たい気が……」 

 アイシャがそこまで行ったところでブラシを投げつける要。

「テメエ等!後で覚えてろよ!」 

 捨て台詞と共に更衣室に消える要。額に当たったブラシを取り上げてとりあえずその紺色の長い髪をすくアイシャ。

「あのー、僕はどこで着替えればいいんでしょう……」 

「ここね」 

「ここだろ」 

「ここしかねーんじゃねーの?」 

 誠の言葉にアイシャ、楓、ランが即座に答える。

「でも一応僕は男ですし……」 

 そう言う誠の肩に手をやって親指を立ててみせるアイシャ。

「だからよ!ガンバ!」 

 何の励みにもならない言葉をかける彼女に一瞬天井を見て諦めた誠はブレザーを脱ぎ始める。

「あのー……」 

『何?』 

 誠をじっと見ている集団。明華、ラン、リアナ、楓、カウラ、アイシャ、シャム、小夏、春子。

「そんなに見ないでくださいよ!」 

「自意識過剰なんじゃねーの?」 

「そんなー……クバルカ中佐!」 

 一言で片付けようとする副部隊長に泣きつこうとする誠。だが、健一も鈴木もニヤニヤ笑うだけで助け舟を出す様子も無かった。

 ついに諦めた誠は仕方なくズボンのベルトに手をかけるのだった。

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