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突然魔法少女? 10

「なんだよオメー等。非番じゃねーのか?」 

 保安隊実働部隊の待機室。要の始末書に目を通すランの顔を見て誠は頭を掻いた。小学生低学年にしか見えないランが耳にボールペンを引っ掛けて書類に目を通している姿は誠にもある意味滑稽にも見えた。

「仕事の邪魔しに来たんじゃねえんだからいいだろ?」 

 そう言うと自分の席に座って机に足を投げ出す要。ダウンジャケットの襟を気にしながら隣でデータの整理をしていたシャムを眺める。シャムは特に変わった様子も無くデータの入力を続けていた。

 保安隊の副隊長の地位が明石からランに移ると同時に実働部隊詰め所の内容も大きく変わっていた。

 それまで上層部の意向ですべての書類が手書きのみと言う前時代的雰囲気は一掃され、隊員の机のすべてにデータ入力用の端末が装備されるようになった。おかげで部屋の壁を埋めていたファイルの書庫は消え、代わりに観葉植物が置かれるなどいかにもオフィスといった雰囲気になっている。すべてのコンセプトはランが手配したものだが、落ち着いたオフィスと言う雰囲気は彼女の子供のような姿からは想像できないほどシックなものだった。

「で、アイシャの奴が……送ってきたんだよなーこれを……」 

 ランはそう言うと私服で席についている誠とカウラにデータを転送する。

「いつの間に……」 

 ファイルを展開するとすぐにかわいらしい絵文字が浮かんでいる。その書き方を覗き見た誠はそれが台本であることがすぐに分かった。細かいキャラクターの設定、そして誠の描いた服飾デザインが並んでいる。

「ああ、これってこのまえアイシャさんが書いたけど没にした奴ですね。確かに魔法少女が出てきますよ。寝かせてから出すって言ってたんですが……なるほどこれの設定だったんですか……忘れてました、これですか……」 

 誠は昨日キャラのデザインをしていて忘れていた以前アイシャに見せられた全年齢対象の漫画のプロットを思い出した。その言葉にカウラと要が反応して誠に生暖かい視線を向けてくる。

「なんだ、オメエは知ってるのか?」 

 ゆっくりと立ち上がって尋問するように誠の机に手をかける要。カウラは再びモニターの中の原稿に目を移した。

「知ってるって言うか……一応感想を教えてねって言われたんで。僕はちょっとオリジナル要素が強すぎて売れるかどうかって言ったらアイシャさんが自分で没にしたんですよ。そうだ、やっぱり先月見た奴ですよ。確かにあれは魔法少女ですね。ちょっとバトル系ですけど」 

 そんな誠と要のやり取りにいつの間にかシャムが立ち上がって誠の隣に来てモニターを覗き始める。

「ホントだ。これってどっちかって言うと魔法少女と言うより戦隊モノっぽい雰囲気だったよね」 

 シャムも見せられていたらしく、すでに自分の案が通らないことを吉田に言い渡されていたわりには嬉々としてモニターを覗きこんでいる。

「まあアタシはどうでもいいけどさ」 

「でも配役まで書いてあるよ。要ちゃんは……誠ちゃんを助ける騎士だって」 

 そんなシャムの言葉に要が急に机から足を下ろして自分の机の端末のモニターを覗き見る。

「引っかかった!」 

 シャムはそう言うとすばやく自分の席に戻る。要はシャムを一睨みしたあと苦虫を噛み潰したような表情で端末の細かい文字を追い始めた。

「オメー等なあ……仕事の邪魔しに来たわけじゃねーんだろ?もう少し静かにしてくれよ」 

 たまりかねたようにランが口を挟む。そしてシャムもさすがにふざけすぎたと言うように舌をだすとそのまま備品の発注の書類を作り始めた

「それにしても遅いな。吉田がグダグダ言ってるんだろうけど」 

 アイシャのいる運用艦『高雄』の運行スタッフの詰め所に行ったまま帰らない吉田の席を見ながら要はそんな言葉を口にする。カウラはそんな要の言葉など聞こえないとでも言うようにじっとモニターを食い入るように見つめている。

「非番なんだからそのままおとなしくしてろよな」 

 自分の作業を続けながらそう言ったランだが、その言葉は晴れ晴れとした表情で実働部隊詰め所のドアを開いたアイシャによって踏みにじられることは目に見えていた。

「皆さん!お元気そうですね!」 

 晴れやかなアイシャの言葉にランの表情が曇る。さらに彼女に連れられて戻ってきた吉田の疲れているような表情に部屋の空気が重くなる。

「そう言えば……楓のお嬢ちゃんはどうした?」 

 とりあえず仕事に集中しようと自宅待機の日にもかかわらず誠達に連れられて出勤してきた楓の名前を口にするラン。その言葉に端末のモニターを食い入るように見ていた要が大きく肩を落とす。

「いや、あいつのことは忘れようぜ。どうせ第四小隊が射撃レンジで訓練中だからそれを見に行ったんだろ?」 

 そう言う要の声が震えている。カウラと誠は生暖かい視線で要を見つめた。

「ああ、楓ちゃんはサラ達と一緒にコスチュームを考えるんだって。誠君の原画だけじゃ分からないこともあるからって」 

 何気なく言ったアイシャの言葉に反応して台本を見ていた要が立ち上がる。

「どうしたんだ?運行の連中のところに顔を出すのか?」 

 冷や汗を流さんばかりの要をニヤニヤしながら見上げるカウラ。

「お前はいいよな、普通なキャラだし」 

 要はそう言うとアイシャに目をやった。彼女は珍しく要をからかうわけでもなく自分の席に着いた吉田と小声で何かをささやき会っている。

 そんな状況の中、誠は久しぶりに見る台本を読んで一息ついた。シャムがヒロインの魔法少女バトルもの。確かに誠の『萌え』に触れた作品であることは確かだった。機械帝国に滅ぼされようとする魔法の国の平和を取り戻すために戦う魔法少女役のシャムが活躍する話と言う設定はいかにもシャムが喜びそうなものだった。

 そしてシャムの憧れの大学生でなぜか彼女の家に下宿している神前寺誠一というのが誠の配役だった。彼の正体は滅ぼされた魔法の国のプリンセスと言うと格好はいいが、アイシャが台本に手を入れるならシャム達の身代わりにぼこぼこにされるかませ犬役でしかないのは間違いなかった。誠としてはアイシャの趣味からしてそうなることは予想していたので、別に不満も無かった。むしろアンとの男同士の愛に進展しないだけましだった。

 問題は要とカウラの配役だった。

 カウラの役は魔法少女姉妹のシャムの姉で誠の恋人の役だった。誠の設定ではアイシャがこの役をやると言うことでデザインした原画を描いたのだが、隊に来て車を降りたときに要がアイシャの首を絞めていたことから見て無理やり要がその役からアイシャを外させたのだろうと言うことは予想がついた。

 そして要。彼女は敵機械帝国の尖兵の魔女と言う設定だった。しかも彼女はなぜか失敗を責められて破棄されたところを誠一に助けられるという無茶な展開。その唐突さに要は若干戸惑っていた。しかも初登場の時の衣装のデザインはかなりごてごてした服を着込むことになるので要は明らかに嫌がっているのは今も画面を見て苦笑いを浮かべているのですぐにわかる。

「そうだ普通が一番だぞ、ベルガー。アタシは……なんだこの役」 

 ランがそう言うのも無理は無かった。彼女自身、誠の原画を見てライバルの魔法少女の役になることは覚悟していたようだった。しかし自分のどう見ても『少女』と言うより『幼女』にしか見えない体型を気にしているランにとっては、その心の傷にからしを塗りこむような配役は不愉快以外の何モノでもないのだろう。魔法の国以前に機械帝国に侵略されて属国にされた国のお姫様。誠としては興味深いがランにとっては自分が姫様らしくないのを承知しているのでむずがゆい表情で時折要や誠、そして吉田と密談を続けているアイシャを眺めている。

「じゃあ、よろしく頼むわね」

 その時ようやく話にけりがついたと言うように渋々首のジャックにコードを挿して作業を始めようとする吉田の肩を叩いて立ち去ろうとする。

「まあ……いいや。アタシはちょっと運行の連中に焼きいれてくるわ……アイシャ!オメーも来い」 

 そう言って部屋を出ようとする要のまとう殺気に、誠とカウラはただならぬものを感じて立ち上がり手を伸ばす。アイシャはにこやかな笑みでにらみつけてくる要の前で黙って立ち尽くしていた。

「穏やかにやれよ。あくまで穏便にだ」 

「分かってるよ……ってなんで神前までいるんだ?」 

「一応、デザインしたのは僕ですし」 

 そんな誠の言葉を聞いてヘッドロックをかける要。

「おう、じゃあ責任取るためについて来い。痛い格好だったらアタシは降りるからな」 

 そう言ってずるずると誠を引きずる要。

「西園寺!殺すんじゃねーぞ!」 

 気の抜けた調子でランが彼らを送り出す。そして三人が部屋を出て行くのを見てランは大きなため息をついた。

「ったく、なんでこんなことになったんだ?」 

「去年のあれだろ」 

 愚痴る要をカウラが諭す。だが要は振り返ると不思議なものを見るような目でカウラを見つめた。

「去年のあれってなんですか?」 

 誠をじっと見つめた後、要の表情がすぐに落胆の色に変わる。そのまま視線を床に落として要は急ぎ足で廊下を歩いていく。仕方が無いと言うようにカウラは話し始めた。

「去年も実は映画を作ったんだ。保安隊の活動、まあ災害救助や輸送任務とかの記録を編集して作ったまじめなものだったわけだが……」 

「なんだかつまらなそうですね」 

 誠のその一言にカウラは大きくうなづいた。

「そうなんだ。とてもつまらなかったんだ」 

 そう言い切るカウラ。だが、誠は納得できずに首をひねった。

「でもそういうものって普通はつまらないものじゃないんですか?」 

 誠の無垢な視線に大きくため息をついたカウラ。彼女は一度誠から視線を落として廊下の床を見つめる。急ぎ足の要は突き当たりの更衣室のところを曲がって正門に続く階段へと向かおうとしていた。

「それが、尋常ではなく徹底的につまらなかったんだ」 

 力強く言い切るカウラに誠は一瞬その意味がわからないと言うようにカウラの目を見つめた。

「そんなつまらないって言っても……」 

「まあ神前の言いたいこともわかる。だが、吉田少佐が隊長の指示で『二度と見たくなくなるほどつまらなくしろ』ってことで、百本近くのつまらないことで伝説になった映画を研究し尽くして徹底的につまらない映画にしようとして作ったものだからな」 

 誠はそう言われると逆に好奇心を刺激された。だが、そんな誠を哀れむような瞳でカウラが見つめる。

「なんでも吉田少佐の言葉では『金星人地球を征服す』や『死霊の盆踊り』よりつまらないらしいって話だが、私はあまり映画には詳しくないからな。どちらも名前も知らないし」 

 頭をかきながら歩くカウラ。誠も実写映画には関心は無いほうなのでどちらの映画も見たことも聞いたことも無かった。

「で、どうなったんですか?」 

 その言葉にカウラが立ち止まる。

「私にその結果を言えと言うのか?」 

 今にも泣き出しそうな顔をするカウラ。アイシャはただ二人の前を得意げに歩く。カウラもできれば忘れたいと言うようにそのままアイシャに従って正面玄関に続く階段を下りていく。

「あ、アイシャ。帰ってきたんだ」 

 両手に発泡スチロールの塊を抱えているエダ。それを見ると要は駆け足で運行部の詰め所の扉の中に飛び込んでいく。カウラと誠は何がおきたのかと不思議そうに運行部の女性隊員達の立ち働く様を眺めていた。エダが両手に抱え込んだ発泡スチロールの入った箱を持ち上げてドアの前に運んでいく。

「ベルガー大尉。ちょっとドア開けてください」 

 大きな白い塊を抱えて身動き取れないエダを助けるべく、誠は小走りに彼女の前の扉を開く。

「なんだよ!まじか?」 

 運行部の執務室の中から要の大声が響いてきた。誠とカウラは目を見合わせると、立ち往生しているエダをおいて部屋の中に入った。

 誠は目を疑った。

 運行部のオフィスの中はほとんど高校時代の文化祭や大学時代の学園祭を髣髴とさせるような雰囲気だった。女性隊員ばかりの部屋の中では運び込まれた布や発砲スチロールの固まり、そしてダンボール箱が所狭しと並べられている。

 誠はなんとなくこの状況の原因がわかった。

 運行部部長の鈴木リアナ中佐を筆頭に管制主任パーラ・ラビロフ中尉、通信主任サラ・ラビロフ少尉、が仮想用のように見える材料を手に作業を続けていた。

「シュールだな」 

 思わずカウラがつぶやく。彼女達は戦闘用の知識を植え付けられて作られた人造人間である。学生時代などは経験せずに脳に直接知識を刷り込まれたため学校などに通ったことの無い彼女達。何かに取り付かれたように笑顔で作業を続ける彼女達の暴走を止めるものなど誰もいなかった。

 そんなハイテンションな運行部の一角、端末のモニターを凝視している要の姿があった。

「おい!神前!ちょっと面貸せ!」 

 そう言って乱暴な調子で手招きする要。仕方なく誠は彼女の覗いているモニターを見つめた。

 その中にはいかにも特撮の悪の女幹部と言うメイクをした要の姿が立体で表示されている。

「ああ、吉田さんが作ったんですね。実によくできて……」 

「おお、よくできててよかったな。原案考えたのテメエだろ?でもこれ……なんとかならなかったのか?」 

 背中でそう言う要の情けない表情を見てカウラが笑っている声が聞こえる。誠は画面から目を離すと要のタレ目を見ながら頭を掻いた。

「でもこれってアイシャさんの指示で描いただけで……」 

 誠の言葉に失望したように大きなため息をつく要。

「ああ、わかってるよ。わかっちゃいるんだが……この有様をどう思うよ」 

 そう言って要は手分けして布にしるしをつけたり、ダンボールを切ったりしている運用艦『高雄』ブリッジクルー達に目を向けた。要を監視するようにちらちらと目を向けながら小声でささやきあったり笑ったりしている様もまるで女子高生のような感じでさすがの誠も思わず引いていた。

「ああ、一応現物を作っておいたほうが面白いとかアイシャが言ったから……はまっちゃって。それに今年の冬のコミケとかには使えるんじゃないの?」

 にこやかに笑いながらのリアナの言葉。大きくため息をつく誠とカウラ。だが黙っていないのは要だった。 

「おい!じゃあまたアタシが売り子で借り出されるのか?しかもこの格好で!」 

 要がモニターを指差して叫ぶ。そうして指差された絵を見てカウラはつぼに入ったと言うように腹を抱えて笑い始めた。

「でも僕もやるんじゃ……ほら、これ僕ですよ」 

 端末を操作すると今度は誠の変身した姿が映し出される。だが、フォローのつもりだったが、誠の姿は要の化け物のような要の姿に比べたら動きやすそうなタイツにマント。とりあえず常識の範疇で変装くらいのものと呼べるものだった。これは地雷を踏んだ。そう思いながら恐る恐る要を見上げる誠。

「おい、フォローにならねえじゃねえか!これぜんぜん普通だろ?あたしはこの格好なら豊川工場一周マラソンやってもいいが、あたしのあの格好は絶対誰にも見られたくないぞ」 

「それは困るわね!」 

 誠の襟に手を伸ばそうとした要だが、その言葉に戸口に視線を走らせる。

 それまで静かにしていたアイシャが満面の笑みをたたえながら歩いてくる。何も言わず、そのまま要と誠が覗き込んでいるモニターを一瞥した後、そのままキーボードを叩き始めた。そしてそこに映し出されたのは典型的な女性の姿の怪物だった。ひどく哀愁を漂わせる怪人の姿を要がまじまじと見つめる。

「おい、アイシャ。それ誰がやるんだ?絶対断られるぞ」 

 要は諭すようにアイシャに語りかける。

「ああ、これはもう本人のOKとってあるのよ!これに比べたらずっとましでしょ!」

 何を根拠にしているのかよくわからない自身に支えられてアイシャが笑う。誠は冷や汗をかきながらもう一度アイシャの指差す画面を覗き込んだ。 

「これって配役は確かあまさき屋の女将さんですか?」 

 誠は恐る恐るそう言ってみた。その言葉に要ももう一度モニターをじっくりと見始めた。両手からは鞭のような蔓を生やし、緑色の甲冑のようなものを体に巻いて、さらに頭の上に薔薇の花のようなものを生やしている。

「おい、冗談だろ?小夏のかあちゃんがこれを受けたって……本人がOKしても小夏が断るだろ」 

 要はそう言うと再びこの怪人薔薇女と言った姿のコスチュームの画像をしげしげと眺めていた。

「そんなこと無いわよ。小夏ちゃんには快諾してもらっているわ、本人の出演も含めて」 

 そのアイシャの言葉が要には衝撃だった。一瞬たじろいた後、再びじっと画面を見つめる。そして今度は襟元からジャックコードを取り出して、端末のデータ出力端子に差し込む。あまりサイボーグらしい行動が嫌いなはずの要が脳に直接リンクしてまでデータ収集を行う姿に誠もさすがに呆れざるを得なかった。

「本当に疑り深いわねえ。まったく……!」 

 両手を手を広げていたアイシャの襟首を思い切り要が引っ張り、脇に抱えて締め上げる。

「なんだ?北里アイシャ?シャムの学校の先生で……カウラと誠をとりあっているだ?結局一番普通でおいしい役は自分でやろうってのか?他人にはごてごてした被り物被らせて……」 

「ちょっと!待ってよ要!そんな……」 

 誠もカウラも要がそのままぎりぎりとアイシャの首を締め上げるのを黙ってみている。

「アイシャさん、調子乗りすぎですよ」 

「自業自得だな」 

「なんでよ誠ちゃん!カウラちゃん!うっぐっ!わかった!」 

 そう言うとアイシャは要の腕を大きく叩いた。それを見て要がアイシャから手を離す。そのまま咳き込むアイシャを見下ろしながら指を鳴らす要。

「どうわかったのか聞かせてくれよ」 

 要はそう言うと青くなり始めた顔のアイシャを開放した。誠とカウラは画面の中に映るめがねをかけた教師らしい姿のアイシャを覗き込んだ。

「でも……そんなに長い尺で作るわけじゃないんなら別にいらないんじゃないですか?このキャラ」 

「そうだな、別に学園モノじゃないんだから、必要ないだろ」 

 誠とカウラはそう言ってアイシャを見つめる。アイシャも二人の言うことが図星なだけに何も言えずにうつむいた。

「よう、端役一号君。めげるなよ」 

 がっかりしたと言う表情のアイシャ。その姿を見て悦に入った表情でその肩を叩く要。

「なんだ……もしかして……気に入っているのか?さっきの痛い格好」 

 今度はカウラが要をうれしそうな目で見つめる。

「別にそんなんじゃねえよ!それより楓は……あいつは出るんだろ?オメエの配役だと」 

「あ、お姉さま!僕ならここにいますよ!」 

 部屋の隅、そこでは運行部の隊員と一緒に型紙を作っている楓と渡辺の姿があった。

「なじんでるな」 

 あまりにもこの場の雰囲気になじんでいる楓と渡辺の姿に要はため息をついた。同性キラーの楓は配属一週間で運行部の全員の胸を揉むと言う暴挙を敢行した。男性隊員ならば明華やマリアと言った恐ろしい上官に制裁を加えられるところだが、同性そしてその行為があまりに自然だったのでいつの間にか運行部に楓と渡辺が常駐するのが自然のように思われるようにまでなっていた。

「お前等、本当に楽しそうだな」 

 呆れながら楓達を見つめる要。誠とカウラは顔を見合わせて大きなため息をついた。運行部の女性隊員達が楓の一挙手一投足に集中している様を見ると二人とも何も言い出せなくなる。

「アイシャいる?」 

 ドアを押し開けたのは小柄なナンバルゲニア・シャムラード中尉。いつものように満面の笑みの彼女の後ろにはシャムの飼い熊、グレゴリウス13世の巨体が見えた。

「なに?ちょっと忙しいんだけど、こいつのせいで」 

「こいつのせい?全部自分で撒いた種だろ?」 

 怒りに震える要を指差しながらアイシャが立ち上がる。

「俊平が用事だって」 

 吉田俊平少佐が画像処理を担当するだろうと言うことは誠もわかっていた。演習の模擬画像の処理などを見て『この人はなんでうちにいるんだろう?』と思わせるほどの見事な再現画像を見せられて何度もまことはそう思った。

「ああ、じゃあ仕方ないわね。要ちゃん!あとでお話しましょうね」 

 ニヤニヤと笑いながら出て行くアイシャ。だが要はそのまま彼女を見送ると端末にかじりつく。

「そうか、吉田を使えばいいんだな」 

 そう言うと要はすぐに首筋のジャックにコードを差し込んで端末に繋げた。彼女の目の前ですさまじい勢いで画面が切り替わり始め、それにあわせてにやけた要の顔が緩んでいく。

「何をする気だ?」 

 カウラの言葉にようやく要は自分が抜けた表情をしていたことに気づいて口元から流れたよだれをぬぐった。

「こいつ、おそらく今回も吉田の監修を受けることになると思ってさ。そうなればすべての情報は電子化されているはずだろ?そうなればこっちも……」 

「改竄で対抗するのか?西園寺にしては冴えたやり方だな」 

 カウラはそう言うとキャラクター設定の画像が映し出される画面を覗き込む。

「じゃあ、私はもう少し……」 

 自分の役のヒロインの姉の胸にカーソルを動かすカウラ。

「やっぱり胸が無いのが気になるのか?」 

 生ぬるい視線を要が向けるのを見て耳を真っ赤に染めるカウラ。

「違う!空手の名人と言う設定がとってつけたようだから、とりあえず習っている程度にしようと……人の話を聞け!」 

 ラフなTシャツ姿のカウラの画像の胸を増量する要。

「これくらいで良いか?ちなみにこれでもアタシより小さいわけだが」 

 そう言ってにんまり笑う要。誠はいたたまれない気分になってそのまま逃げ出そうとじりじり後ろに下がった。誠は左右を見回した。とりあえず彼に目を向けるものは誰もいない。誠はゆっくりと扉を開け、そろそろと抜け出そうとする。

「何してるの?誠ちゃん」 

 突然背中から声をかけられた。シャムがぼんやりと誠を見つめている。

「ああ、中尉。僕はちょっと居辛くて……」 

「そうなんだ、でもそこ危ないよ」 

 突然頭に巨大な物体の打撃による衝撃を感じた瞬間、誠の視界は闇に閉ざされた。

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