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5分前後でサクッと読めるやつ あれこれ

俺が追放された後、ここは徐々に崩壊するが知ったこっちゃないのでお先に特注の棺で眠らせて頂きます

以前から追放ものを書いてみたかったので、「アレ」を見たのをきっかけに勢いで書きました。

後半、メチャクチャなルビが多用されます。先に謝ります。ごめんなさい。


大二郎(だいじろう)! お前はもう駄目だ。この国から追放する」

「兄者! 後生だ。考え直してくれ!! 今まで俺達三兄弟で力を併せて来たじゃないか!」


 大二郎は兄にすがり付いた。が、兄の大一郎(たいちろう)は冷たい目で大二郎を突き飛ばす。

 大二郎はよろめいた。


「ハッ! そらみろ、(やまい)が足元に進行し、ぐらついているではないか。これではとてもお役目は務まらん。右臼(うきゅう)家の面汚しめ!」

「くくく。大二郎兄さん、諦めが悪いねえ。これは(あるじ)様と医師の決定なんだよ?」


 弟の大三郎(だいざぶろう)がニヤニヤ笑いで(あざけ)るのを、大二郎は信じられない思いで見つめていた。


「大三郎……」

「わー、ちょっとくっつかないでよ! 病がボクにまで感染し(うつっ)たらどうすんのさ」


 確かに大二郎のかかった()()()()()は深刻だ。足元のぐらつきだけではない。神経もやられ、丈夫だった骨まで一部溶け始めていると医師は見立てた。更にこのまま大二郎を追放しなければ兄弟や、果ては隣に居る従兄弟の小太郎と小次郎にまで影響が及ぶ可能性も考えられる……とも言っていた。

 しかし、そもそもこの病をすぐに認めて手当や症状が悪化しないように対処しなかったのは他ならぬ主様である。大二郎はその被害者ともいえるのに自分ばかりが石()て追われるかの如く扱われるのは納得がいかなかった。


「……俺を追放したとて、その後この病が広がらないという保証はない。そもそも俺が抜けた後この場所を守るものなど居ないだろう! それならばこの命尽きるまで俺はここに立ち続ける!」


 大二郎は病の痛みに耐えながらも精いっぱい主張したが大三郎は鼻で笑った。


「なんだ。兄さん知らなかったのか。もう兄さんの代わりは決まっているんだよ。ほら、あそこに」


 (けん)家の者と、(せつ)家の者が守る先……主様の正門がわずかに開き、その先に見える景色を大三郎が指さす。そこには人形が置いてあった。

 プラスティックでできた白い身体には、銀色の金属でできた妙な手が生えている。


「あれは見本だけど、医師はこれから兄さんとそっくりな形代(かたしろ)を作る予定なのさ」

「あんなもの!! あれこそ足元が覚束(おぼつか)ず、主様のお役になど立てないだろう!!」


 大二郎が吐き捨てるように言うが、兄の大一郎は冷たく返答する。


「それがな。あの銀の手が俺と大三郎の肩をがっちりと組んでくれるのだそうだ。お前よりも余程役に立つだろうよ」

「そんな……!」

「諦めろ。そら、医師が麻酔を打つぞ」

「嫌だ! 止めてくれ!! 誰か!!」


 泣き叫ぶ大二郎の足元()()()()に残酷にも麻酔は打たれ、彼の意識は刈り取られたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「はい。右側の奥から二番目の歯、抜けましたよ。やっぱり歯周病の他に虫歯もありましたね。レントゲンで見たとおり、根元も少し溶けてます。……持って帰ります?」

「ああ、じゃ(びゃ)あ、(いひ)応……」


 医師は助手に抜けた()()()()()を渡し、助手はそれを洗浄してから特製の箱に詰めて佐藤に渡した。

 この箱は歯科医院のロゴが入った特注品だ。


「佐藤さん、じゃこの義歯……部分入れ歯の見本、見ましたね? 今からこれを作るための形を取りますからね~」

(ひゃ)い………」

「あとね、佐藤さん。歯周病が進んでます。あとで歯磨き指導しますんで、ちゃんと毎日磨いてくださいね。この部分入れ歯は抜いた歯の前後の歯に金属の妙な手(バネ)でひっかけて固定するんですけど、前後の歯に負担がかかるんですよね。ちゃんとしないと第一大臼歯(前後)と第三大臼歯(の歯)もどんどん抜けちゃいますよ~」

(ひゃ)い………」



 右臼 大二郎(右の第二大臼歯)は特注の(ひつぎ)の中で眠りながら主様(佐藤)と(歯科)医師の話を聞いて思った。


 今まで虫歯と歯周病(恐ろしい病)を放置していた主様の事だ。部分入れ歯(大二郎そっくりな形代)を手に入れた後に改心してきちんと歯磨きなどするとは思えない。おそらくじきに右臼家(右の奥歯全体)……いや、あの国(主様の歯の全て)は徐々に崩壊するだろう。だが既に追放された俺の知ったこっちゃない。


 今後次々と抜け落ちる兄弟に、このような気持ちのよい(ひつぎ)が与えられるかすらも疑問だが、大二郎は目を閉じて何も考えないことにした。



「部分入れ歯用ポ〇デント」を見たのをきっかけに勢いで書きました。

正直今はちょっとだけ反省しています。ごめんなさい。


お読み頂き、ありがとうございました!

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5分前後でサクッと読めるやつ あれこれ
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― 新着の感想 ―
[一言] 読み終わったあとで、めっちゃ歯磨きしました笑 歯周病怖い。 追放ものにも色んなパターンありますね。 このネタ応用すれば、色々と書けそう(*´艸`*)
[良い点] 和風の追放物か?と思い読み進めていき『やられた!』ってなりました。 なるほど、この発想はなかったと脱帽です。面白かったです!
[良い点] 最後まで読了後最初から読み直すと、あら不思議。今まで怪しげだった風景(江戸時代とかの松明が灯ってましたw)にはっきりとした現代風の描写が目に浮かびますww 面白かったです♡ [一言] あの…
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