俺が追放された後、ここは徐々に崩壊するが知ったこっちゃないのでお先に特注の棺で眠らせて頂きます
以前から追放ものを書いてみたかったので、「アレ」を見たのをきっかけに勢いで書きました。
後半、メチャクチャなルビが多用されます。先に謝ります。ごめんなさい。
「大二郎! お前はもう駄目だ。この国から追放する」
「兄者! 後生だ。考え直してくれ!! 今まで俺達三兄弟で力を併せて来たじゃないか!」
大二郎は兄にすがり付いた。が、兄の大一郎は冷たい目で大二郎を突き飛ばす。
大二郎はよろめいた。
「ハッ! そらみろ、病が足元に進行し、ぐらついているではないか。これではとてもお役目は務まらん。右臼家の面汚しめ!」
「くくく。大二郎兄さん、諦めが悪いねえ。これは主様と医師の決定なんだよ?」
弟の大三郎がニヤニヤ笑いで嘲るのを、大二郎は信じられない思いで見つめていた。
「大三郎……」
「わー、ちょっとくっつかないでよ! 病がボクにまで感染したらどうすんのさ」
確かに大二郎のかかった恐ろしい病は深刻だ。足元のぐらつきだけではない。神経もやられ、丈夫だった骨まで一部溶け始めていると医師は見立てた。更にこのまま大二郎を追放しなければ兄弟や、果ては隣に居る従兄弟の小太郎と小次郎にまで影響が及ぶ可能性も考えられる……とも言っていた。
しかし、そもそもこの病をすぐに認めて手当や症状が悪化しないように対処しなかったのは他ならぬ主様である。大二郎はその被害者ともいえるのに自分ばかりが石持て追われるかの如く扱われるのは納得がいかなかった。
「……俺を追放したとて、その後この病が広がらないという保証はない。そもそも俺が抜けた後この場所を守るものなど居ないだろう! それならばこの命尽きるまで俺はここに立ち続ける!」
大二郎は病の痛みに耐えながらも精いっぱい主張したが大三郎は鼻で笑った。
「なんだ。兄さん知らなかったのか。もう兄さんの代わりは決まっているんだよ。ほら、あそこに」
犬家の者と、切家の者が守る先……主様の正門がわずかに開き、その先に見える景色を大三郎が指さす。そこには人形が置いてあった。
プラスティックでできた白い身体には、銀色の金属でできた妙な手が生えている。
「あれは見本だけど、医師はこれから兄さんとそっくりな形代を作る予定なのさ」
「あんなもの!! あれこそ足元が覚束ず、主様のお役になど立てないだろう!!」
大二郎が吐き捨てるように言うが、兄の大一郎は冷たく返答する。
「それがな。あの銀の手が俺と大三郎の肩をがっちりと組んでくれるのだそうだ。お前よりも余程役に立つだろうよ」
「そんな……!」
「諦めろ。そら、医師が麻酔を打つぞ」
「嫌だ! 止めてくれ!! 誰か!!」
泣き叫ぶ大二郎の足元近くの肉に残酷にも麻酔は打たれ、彼の意識は刈り取られたのだった。
◆◇◆◇◆
「はい。右側の奥から二番目の歯、抜けましたよ。やっぱり歯周病の他に虫歯もありましたね。レントゲンで見たとおり、根元も少し溶けてます。……持って帰ります?」
「ああ、じゃあ、一応……」
医師は助手に抜けた第二大臼歯を渡し、助手はそれを洗浄してから特製の箱に詰めて佐藤に渡した。
この箱は歯科医院のロゴが入った特注品だ。
「佐藤さん、じゃこの義歯……部分入れ歯の見本、見ましたね? 今からこれを作るための形を取りますからね~」
「はい………」
「あとね、佐藤さん。歯周病が進んでます。あとで歯磨き指導しますんで、ちゃんと毎日磨いてくださいね。この部分入れ歯は抜いた歯の前後の歯に金属の妙な手でひっかけて固定するんですけど、前後の歯に負担がかかるんですよね。ちゃんとしないと第一大臼歯と第三大臼歯もどんどん抜けちゃいますよ~」
「はい………」
右臼 大二郎は特注の箱の中で眠りながら主様と(歯科)医師の話を聞いて思った。
今まで虫歯と歯周病を放置していた主様の事だ。部分入れ歯を手に入れた後に改心してきちんと歯磨きなどするとは思えない。おそらくじきに右臼家……いや、あの国は徐々に崩壊するだろう。だが既に追放された俺の知ったこっちゃない。
今後次々と抜け落ちる兄弟に、このような気持ちのよい箱が与えられるかすらも疑問だが、大二郎は目を閉じて何も考えないことにした。
「部分入れ歯用ポ〇デント」を見たのをきっかけに勢いで書きました。
正直今はちょっとだけ反省しています。ごめんなさい。
お読み頂き、ありがとうございました!
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