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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第82話:ルトゥと勉強

 その晩、ソルはルトゥと共に屋敷の書庫へと赴いた。

 午後から夕方にかけて、弟妹やリュンヌも交えて遊んだのだが、そのときにソルは彼に勉強の様子を聞いてみた。答えは、ちょっと追いつけていないところがあるという話だった。

 ならば、頼れる優しくて綺麗なお姉さんとしてアピールするチャンスだと言わんばかりに、ソルは彼の宿題の協力を申し出たのだった。


 ルトゥが実家から持ってきた教科書や宿題をソルは確認する。ルトゥは、秋からこの街の学校に転入することになりそうで、その宿題も提出する義務は無いのだが。だからといって、何もかも投げ捨てるのも違うだろうという考えから、持ってきたものだった。

 その真面目さ、律儀さにはソルも好感を覚える。


「どうですか? ソルお姉様?」

「去年のユテルの教科書と見比べて見たけれど、教えたい内容そのものは、そこまで大きく変わっていないようですわね。教える速さが速いかどうかまでは、覚えていませんけれど。でも、それも大きくは変わらないと思いますわ」

「そうなんですね」

 ええ。と、ソルは頷く。


「それで? どこから分からないんですの?」

 そう訊くと、ルトゥは顔を赤くして俯いた。

「それが。その。ほとんど全部なんです。ごめんなさい。ずっと、赤点ギリギリの成績でした」

「あらあら、それは大変ですわね。でも、勇気を出してきちんと白状したのは、偉いと思いますわ」

 よしよしと、ソルはルトゥの頭を撫でてやる。


「まあ、安心してよろしくてよ。一つずつ、着実に理解していけば、一年以内には人並みの成績には追いつけますわよ」

「本当に?」

「あら? この私を疑うんですの?」

「いえ、そんなつもりはなくて」

 そう言って、ルトゥは自虐の笑みを浮かべた。


「信じられないのは。僕自身、かな。今まで、何をやってもダメだったから」

「でも、それはこれまでの話。心が疲れ切っている中での話でしょう? そんな状態で、結果が出る訳ありませんわ。だから、そんな頃の話なんて忘れていいですわよ。勿論、今もあなたの心が完全に癒えたとは言えないかも知れませんわ。だから、私も無理に何でもかんでも叩き込んでいくつもりなんて、ありませんの。大切なのは、今出来ることを着実に出来るようにして、それを積み重ねていくことですわ」


「今、出来ること?」

「ええ。人間、そうそう一足飛びに成長なんて出来やしませんもの。一歩一歩、進むしか無いんですのよ。這えば立て、立てば歩めなんてものが、親心らしいですけれど。そんなの、子供にしてみれば押し付けられても堪ったものじゃありませんわ」

 ソルは肩を竦める。そんなソルを見て、ルトゥは笑みを浮かべた。


「ソルお姉様も、そうしてきたの? 今、学校でもずっとトップの成績を取り続けているってヴィエルから聞いたんだけど」

「ええ、そうね。その通りですわ。ここ一年くらいはずっと」

「この一年? 凄い。でも、その前はソルお姉様よりも上の人がいたんだ」


「まあね。本当に、出鱈目な人でしたわ」

「でも、それでも、その人より上になれるよう、ソルお姉様は勉強を頑張ったんですね?」

「努力はしましたけど。結局、勝てずじまいでしたわ。その人は王都にある学校へ、奨学生として転校していったの。喧嘩別れして、一度だけお互いに仲直りの手紙を出し合ってからは、もうそれっきりだけれど。きっと、上手くやっていると思いますわ」


「そうなんだ。仲直り出来て、良かったですね」

「ええ。本当に」

 こんな話をすると、少しアプリルのことが気になった。一度、気が向いたときに手紙を出してみようかと思う。あの男から手紙が来ることについては、期待していない。どう考えても、そんな性分には思えないからだ。


「まあ、何にしても、私も努力しているという訳ですわ。現状を正しく把握し、自身に合った方法で、適切に努力を続けていけば、その努力は裏切りませんわ。少なくとも、今よりもマシにはなります。思うようにいかなくて、歯痒く思うことも、壁にぶつかることもあると思いますわ。でも、その成長を誇りなさい。いいですこと? ルトゥ? あなたがこれまで、思うようにいかなかったのは、努力の仕方を間違えていたから。ただそれだけですの。だから、今からどれだけでも取り返しが付きますわ」


「はい。ソルお姉様。僕、頑張ります」

 それでいいと。ソルは大きく頷いた。希望を持って貰う事には成功したと思う。人が生きるにも、努力するにも、希望が必要なのだ。それ無くしては、続かない。

「それにしても、ソルお姉様は努力家なんですね。どうして、そんなにも努力されるんですか? やはり、フランシア家の為ですか?」

 笑顔を浮かべて、訊いてくるルトゥに対し、ソルはしばし虚空を見上げた。


「幸せになりたかったから。かしらね?」

 ソルが自嘲気味に呟くと、ルトゥは首を傾げた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 自室で、ソルは勉強机に向かう。

 ルトゥにも言ったが、努力を怠ったことは無い。今度は自分の勉強をこなしていく。

「お茶とお菓子をお持ちしました」

「ご苦労様」

 いつものように、リュンヌが召喚に応じて姿を現す。


「どうでしたか? ルトゥの勉強を見た感触は?」

「そうね。本人も言っていたけれど、勉強に付いていけなくなって長かったみたいね。ここから取り返していくのは、それなりに大変だと思いますわ」

「そうですか」


「でも、頭そのものが悪いという訳でもありませんわね。ユテルやヴィエルの古い教科書を引っ張りだして、分からなくなり始めた頃からの復習をさせてみたら、普通に理解出来るようになりましたもの。最初は、それでいいのかって戸惑っていたようですけれど、褒めてあげると嬉しそうにしていましたわね。ふふ、可愛いことですわ。焦らせるつもりはありませんけれど、そう悲観的になることもありませんわね。期待出来ますわ」


「つまり、綺麗で優しいお姉さんとして、仲良くなる作戦は順調っていうことですね」

「でゅふ❤」

「本当に、その笑顔だけは出さないように気を付けて下さいよ?」

 リュンヌが半眼を浮かべる。


「分かっていますわよ。本当に、心配性ですわね」

「心配にもなりますっての」

 心底疲れたように、リュンヌは溜息を吐いた。


「そうそう、明日はルトゥとデートに出かけますわ」

「ああ、そうですか。それは、良かったですね。精々、楽しんできて下さい」

 そんなリュンヌの言い草に、ソルは目を細めた。


「何ですのその言い方? 何か問題でも?」

「いえ何も? ただちょっと、昨日も言いましたが、ソル様のキャラ崩壊に疲れているだけです。失礼しました」

 そう言って、恭しく頭を下げるリュンヌに対し。ソルは軽く息を吐いた。

足場を固めて、自分に出来ることから始める。

こういうスローステップで学ぶというのが大事。また、僅かな成長を振り返ってそれを褒めるが大事。

学生時代に教育心理学の講義で学んだ話ですが。他人に対する教育でも、自身に対する教育でも共通して使える話だと思います。

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