第80話:ゲームを通じて
まずは、普通に仲良くなるところから始めましょう。
それが、リュンヌからの提案だった。
となれば、善は急げである。
「ルトゥ。ちょっといいかしら?」
夕食を摂って、小休憩もそこそこに、ソルは彼の部屋を訪れた。
「はい、何ですか?」
さして待たせることもなく、ルトゥが部屋の戸を開け、顔を出す。
「居間に来なさい。遊びましょう」
「え? ええ?」
ソルの申し出に対して、ルトゥは明らかに動揺した声を出してきた。
「何ですの? 嫌なんですの?」
「別に、嫌とかそういう訳じゃなくて。あまりにも突然で、びっくりしただけ。です。ごめんなさい」
「嫌じゃないんですのね? じゃあ、行きますわよ」
「あっ? ちょっ!?」
問答無用と言わんばかりに、ソルはルトゥの腕を掴み、部屋から引きずり出した。
ああいう少年は、押しに弱いというのがリュンヌの言である。親からの抑圧によって、自分というものをどこまで出していいのか分からなくて不安だからと。
思惑通りに話が運んで、ソルは上機嫌に鼻歌を歌った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ソル、ユテル、ヴィエル、ルトゥは居間に集まり、卓を囲んだ。
今日の遊びはカードゲームの一種だ。
四種類の絵柄と数字を割り当てたカードを使う。プレイヤーは山札から指定の枚数を手にとってからスタートし、順番に山札からカードを取得する。そして、取得したカードを取捨選択することで、役を作る。役にはそれぞれ点数が割り当てられ、一定の点数を早く稼ぐか、一定のプレイ回数を終えた後にもっとも点数が高いプレイヤーが勝利者となる。
対戦者が捨てたカードを見て、相手が今何の役を作ろうとしているのか? 自分は何の役を作れば先んじて役を作れるのか? はたまた、難しい役に挑戦するべきか? そういう駆け引きをしながら行うゲームである。
「ルトゥはこのゲームのことは知っているのかしら?」
「ごめんなさい。あまりよく分からないです。難しい役だと、ちょっと覚えられなくて」
「僕もだよ。このゲームはあまりやったことが無いから、苦手なんだけど」
出来れば、他のゲームが良いなあと視線で訴えてくる少年二人。
「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」
そんな二人に対し、にっこりと、ソルは容赦無い笑みを浮かべた。
「本当に悪魔的発想してるよね。姉さん」
「何が?」
「いいや? 別に?」
諦めたように、ユテルは嘆息した。
「でも、出来れば本当に手加減して欲しいんだけど? さっきも言ったけれど、僕はあまりこのゲームをしたことが無いんだ」
「お兄様、付き合い悪いから。いっつも工作室に閉じこもって。たまには遊んでくれてもいいじゃない。女の子との遊び方も分からないまま、モテずにお嫁さん来てくれなくても知らないわよ?」
「五月蝿いな。朴念仁伝説を作った父様だって何とかなったんだから、僕も何とかなるさ。多分」
「そのお父様とお母様が、お兄様に頭抱えているんだけど?」
そんな事を言いつつ、ヴィエルがユテルに半眼を向ける。その光景に、ソルは苦笑を浮かべた。
「まあまあ、私も今回はちょっとは手加減して差し上げますわ。あくまでもこの場の目的はルトゥとの親睦を深める為ですもの。気楽に、楽しくやりましょう?」
「私も教えてあげるから。ね? ルトゥ?」
「うん。ありがとう。やってみるよ」
ヴィエルからの申し出もあって。
少し、ルトゥの顔から緊張の色が消えた気がする。はにかみながらも、彼は頷いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
深夜。ソルの自室にて。
「今日は、随分と盛り上がったみたいですね」
「そうね。なかなか楽しかったわ。ハンデとして、特定の役縛りでやってみたけれど、それも丁度よかったみたい」
「あれだけの縛りをやって、それでも互角に戦えるっていうのが、恐ろしいと思いますけど」
戦くリュンヌの言葉に、ソルは鼻を高くした。
「でも、ユテル様もルトゥも存外、早くルールに慣れましたね。あのゲーム、覚えるのにもう少し時間掛かるかと思いましたけど」
「そうね。私も教えたんだけれど、ヴィエルの教え方もよかったみたいね。あの子、本当にゲームってなると熱心になるわよねえ」
「ああ、確かに」
リュンヌも同意する。彼もヴィエルのゲームには付き合わされてきた人間だ。
「まあでも、そのご様子だと、ルトゥとも上手く付き合っていけそうですね。ソル様から見て、実際に対面した印象はどうでしたか?」
「勿論、悪くないわ。ああもう。本当に可愛いわ。ユテルも悪い子じゃないけど、あの子みたいに捻くれてなくて、素直だし」
ソルは笑みを浮かべる。
「取りあえず、彼の目の前でその『でゅふふふ❤』みたいな顔を出さなかったのは上出来だと思います」
リュンヌは、即座に半眼を浮かべてきたが。
「ただ、もしもの話ですが」
「何かしら?」
「このまま、ソル様がルトゥに対して綺麗で優しいお姉さんの態度を貫けたとします。その場合、もしかしたらですが、彼も本気でソル様のことを意識してしまうかも知れませんけど。そうなったら、どうするおつもりですか?」
ふむ? と、ソルは腕を組んだ。
そりゃあ実際、有り得る話だろう。ルトゥをそうさせてしまうだけの自信はある。
「それは、そのとき考えるわ。そのとき、私がどう考えるのかも分からない訳ですもの」
「くれぐれも、純情な少年の気持ちを踏みにじるような真似だけはしないであげて下さいね? 下手すると、立ち直れなくなりますから」
そんなリュンヌの言葉に対し、ソルは口元に手を近づけ、ほくそ笑む。
「ふふ。それはそれで、罪な女っていう気がして、悪くありませんわね」
「うわぁ。悪女」
ドン引きするリュンヌの前で、ソルは実に愉快だと、笑い続けた。
リュンヌ「ところで、どんなゲームをやるおつもりなのですか?」
ソル「ええ、ここは私の得意なゲームをやろうと思いますの」
リュンヌ「なんていうゲームです?」
ソル「ドカ〇ン」
リュンヌ「マジで止めろ!」
実際の作中のゲームについては、カード麻雀をドンジャラくらいに簡略化したようなものをイメージして貰えると分かりやすいと思います。
説明、伝わってくれているといいなあ。




