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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第四章:肖像画家編】
90/189

EX13話:ソル=フランシアの微笑み

今回で、肖像画家編は終了となります。


2025/09/09

イラストを差し替えました。

 あまり気乗りしないまま、アストルは城の一室へと向かった。

 とはいえ、いい加減この問題から目を逸らし続けている訳にもいかないだろう。この国の王太子として生まれた以上は、愛する女性と結ばれ、世継ぎをもうけるのは避けられない責務だ。


 扉を開き、アストルはその部屋の中へと入る。

 部屋の中には、多くの女性の顔が並んでいた。いずれも、国中から送られた令嬢の肖像画だ。これまでは色々と言い訳をして判断保留としていたが、流石にその言い訳も尽きた。


 気になる娘がいなかったと言って、断ってしまうのも一つの手ではあったが。流石に一度も見ずに、そんな返事を返すのも気が引けた。それに、そんな真似をすれば、また側役達からちくちくとお説教されることだろう。

 並べられた肖像画の前に、アストルは立ち止まって。しばしの間眺めては、無言で次の肖像画へと向かう。


「――こちらは――子爵のご息女で――」

 付き添いながら、一生懸命に説明してくれる老執事には申し訳ないと思いつつも、アストルの心にはそれらの娘達を眺めても、何も響くものが無かった。


「そのご様子では、なかなか、殿下の目に適う娘はいないようですね」

「すまない。どの肖像画の娘も、よい器量の持ち主だとは思う。描いた画家も出来る限りの力を込めて仕事をしたとは、思うのだが」

 アストルは自嘲した。


「まったく、我ながら贅沢なことを言っているとは思うのだがな。一体何様だというのか」

「王子様でございますよ」

「なればこそ、過剰な贅沢を望むのは王族として不徳。己を律することこそが肝要と私は教わった気がするのだがな?」

 そう返すと、老執事は苦笑を浮かべた。まあ、彼も冗談で言ったことくらいは分かる。


「それにしても、私が思っていたよりは集められた絵が少ないようだな。其方達があまりにも脅かすものだから気が引けていたが」

 この部屋に集められた肖像画でも、結構な数はある。しかし、聞かされていた話から、これの更に十倍か二十倍くらいは集められているものとアストルは想像していた。


「それに、身分も上級貴族の出身が少ないように思えるのは、私の気のせいか? あと、遠方の地方の令嬢が多いような?」

 そう訊くと、老執事は表情を強張らせた。


「申し訳ございません。お気に召しませんでしたか? 決して、殿下を無下にしようなどといった訳ではないのです」

「いや。構わない。むしろ、確認しなければならない肖像画が思っていたより少ないことにも、身分や出身が偏っていることにも気が楽になったくらいだ。こう言ってしまっては身も蓋も無いが、やはり私はまだこういう話に積極的にはなれないようだからな。ただ、こうなった理由は聞かせて欲しい」


「畏まりました。実を申し上げますと、やはり殿下がこういった話に積極的になれないという噂が、近隣の大貴族の間で広まっているようなのです。そこで、特にこれという相手を指定しない場合はまずは殿下からという慣例よりも、より可能性のある話が彼らの間で重視されているようです」

「なるほど。それもある意味では当然と言えるか」

「はい。このままでは、それこそ殿下に相応しい令嬢との話が出てこないままということにもなりかねません。殿下が、どなたか直接のお知り合いで気になるお相手でもいるというのなら、それでもよろしいのですが」


「生憎と、私にそんな相手はおらぬ」

「はい。承知しております。なので、まずはふりでも、殿下にはこのような話に、少しはご興味を持って頂いたという形を作る必要があるかと考えたのです。彼らの間でも、期待感を高めるためにも」

「ふむ。つまりは、私を謀ったという訳か」

「申し訳ございません」


「いや、私のことを考えての事だから、構わぬ。むしろ、不興を買う覚悟でも私に報いようというその勇気と忠心、感謝する」

「勿体無きお言葉にございます」

 深々と、老執事は頭を下げた。

 となれば、事情が分かった以上は生真面目にこれらの肖像画を吟味しなくてもよいという事だろう。大分、気を楽にしてアストルは肖像画を眺めることにした。


 と、彼はふと息を飲んだ。

 その肖像画から、目を離すことが出来ない。


挿絵(By みてみん)


「どうか、なされましたか?」

 それまで、数十秒かそこらで、大した興味も見せずに次の肖像画へと移っていったのとは違う反応に違和感を覚えたのだろう。老執事が訊いてくる。


「ああ、この絵なのだが」

 その絵の中には、白く簡素な服を着て、花を持った少女がいた。少し癖のある輝くような金髪と、深緑の瞳を持っている。

 これまで見てきた肖像画の少女達が、華美なドレスに身を包んでいたせいか、その絵は一際アストルの目を惹いた。


「それは、ソレイユ地方のエトゥル=フランシア男爵のご息女。ソル=フランシアの肖像画ですな。辺境貴族の娘です。肖像画家も無名の新人でございます」

「そ、そうか」

 平静を装うつもりだったが、アストルは動揺を隠しきれなかった。


「あの? 殿下? まさか、本当にその娘にご興味が?」

「あ、いや、そういうつもりでは無い。ああ、無いのだ。そうか、いや、何となく気になって驚いただけだ。この娘、ソル=フランシアという名前なのか。本当か?」

「はい、本当でございます。お疑いであれば、肖像画の裏をご覧になればお分かりになるかと」

「ああ、そうだな」


 アストルは肖像画を手に取り、裏返して確認した。確かに、モデルは老執事が言ったとおりだった。題名は、「ソル=フランシアの微笑み」。

 再び絵を表に戻して、アストルは絵の少女を眺める。題名の通り、改めて見ると彼女は魅惑的な笑みを浮かべていた。

 それから数十秒ほどそうして。彼は傍に立つ執事が、何も言わないものの、実に何かを言いたげな視線を向けているのに気付いた。


「いや? 違う。これは、そういうのではない。私の友や、近衛騎士が、この娘の世話になったと言っていてな? その容姿を聞いていて、まさかと思っただけなのだ。他意は無いぞ?」

「ははあ。左様でございましたか」

「ああ、その通りだ」

 アストルは大きく頷く。


「ちなみに、この絵の作者は今はどうしているのだ? 無名と言ったが、絵の出来も良いように思えるのだが」

「故に、過剰に盛った可能性もございます。あまり信用し過ぎるものではないかと思います」

「それもそうか」

 軽く、アストルは唸る。


「この絵だが、少し手元に持っておいてもよいか?」

「何故です?」

「この娘を知る者にも、見せたいのだ」

「左様でございますか。それならば、構いません」

「そうか」

 アストルは安堵の息を吐いた。


「ただし、その肖像画はあくまでも結婚相手を見付けるために用意されたものです。ですから、殿下がいつまでもその手元に置かれるなら、それはその娘に対して縁談を邪魔しているという話になるということは、お心得下さい」

「ああ、分かっている。それと、この絵を描いた画家も呼んではくれないか?」


「畏まりました。ですが、絵を依頼するというのは、少し慎重に考えた方がよろしいかと思います。確かに、殿下も肖像画を描き直す必要があるとは思いますが」

「いや。それは。頼んでみるのも一興とは思うが。まずは、この娘の話を聞いてみたいな。友のためにな」

「はい。畏まりました。ご友人のためですね」


「ああ、そうだ」

 老執事に対して。だから、その実に何かを言いたげな視線を止めろとアストルは思う。これは、不敬ではないのか?


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 王都へと肖像画を送って、もう何日も経っている。流石にもう既に、肖像画は王都に届いているのだろう。

 故に、肖像画そのものは手元には残っていない。しかし、ベリエがソルを描いた大量のスケッチはまだ残っている。

 それらを自室で、机に向かいながら、ソルは眺めていた。


「ソル様。お茶をお持ちしました」

「ありがとう。そこに置いておいて」

 机の端に、お茶が置かれる気配を感じる。

「また、ベリエさんが描いた絵を見ているんですね。勉強に集中出来ているんですか?」


「五月蝿いですわね。ちゃんと、集中していますわよ」

「まあ、それならいいと思いますけど」

 軽く、ソルは嘆息した。

「少し、私が目指す私の姿を再確認していただけですのよ」

「というと?」


「あの肖像画を見た人が。そう、例えばアストル王子があの絵を見たとして、それで実際に私に会いたいっていう話になったとして。そのとき、実際に会ったときにあの絵に私が負けていたら、がっかりさせてしまうじゃありませんの。だからこうして、私はあの人が描いた姿を見て、それに相応しい淑女であり続けようとしているんですのよ」

「なるほど」

 リュンヌが頷く。


「でも、きっと大丈夫ですよ。ソル様がソル様である限り、きっとソル様に相応しい方が現れますから」

「だと、いいですわね」

 そしてそれは、出来ればアストル王子がいいと、ソルは願うのだった。

ソル「イメージするのは、常に最高の自分」

リュンヌ「何か、贋作を次々作り出しそうですね」


2024/04/21

絵を描くときのエピソードの説明と挿絵に矛盾があるのは、AIイラストだからです。どうか、ご容赦を。

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