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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第四章:肖像画家編】
84/190

第74話:砕けた想いの行方

2025/09/09

イラストを入れました。

 セリオの告白に、リュンヌは何も言おうとしなかった。

 それが、どういう意味なのかを理解して、ソルは胸が締め付けられる。

 やがて、セリオの声が聞こえてくる。それもまた、どこか遠くの出来事のように思えた。


「お願い。します。はっきり、言って、下さい。私、覚悟はして、きましたから」

「うん。そう、だね」

 絞り出すような、リュンヌの声。


「ごめん。僕は、君とは付き合えない」

 セリオの啜り泣く声が、聞こえてくる。

 ソルは思わず耳を塞ぎたくなった。けれど、それをやってはセリオの覚悟を踏みにじる様な気がして、思いとどまった。自分は最後まで、見届けるためにここにいるのだから。彼女もそれを望んでいたのだから。その責任は、果たさなくてはいけない。


「あり、がとう。ござい、ます。はっきり、言ってくれて」

 ソルは歯を食いしばった。

 何故? どうしてこんな結末になるのかと、納得がいかない。


「理由を、訊いても、いいですか?」

「今は、僕にとってはソル様のお世話が何よりも大事だから」

 セリオの泣き笑いが聞こえてくる。


「やっぱり、そう、なんですね」

「うん」

 セリオの深呼吸が、何度も繰り返される。


「分かりました。リュンヌさん。本当にありがとうございました。マドレーヌ、悪くならないうちに、ちゃんと食べて下さいね?」

「うん。大事に食べるよ」

「約束、ですからね?」


「うん、約束する。それと、僕の方こそ。こんな僕のことを好きだって言ってくれて、本当にありがとう。ずっと、忘れないから」

「いいえ。私の方こそ、リュンヌさんを好きになれて、幸せでした。それでは、失礼します」

 セリオが駆け足で、この場から遠離っていくのが聞こえた。


 リュンヌが、深く溜息を吐く。

「セリオ。本当に、ごめん」

 それが、ソルの我慢の限界だった。

 無言で、告白の聖樹の裏から姿を彼に現す。

 その姿を見て、リュンヌの目が大きく見開かれる。


「ソル様? どうして? ここに?」

 リュンヌの問い掛けには答えない。無言で、彼に詰め寄る。

 そして、彼の襟首を両手で掴んだ。


「どうしてよ?」

「何が? ですか?」

「どうして、あの子を振ったって訊いているんですのよっ! あなた、何を考えているんですの?」

 激情をリュンヌにぶつける。

 リュンヌは、堪えるように唇を噛み締めた。


「これは、ソル様が仕組んだことなんですか?」

「少し、手伝いをしただけですわっ! でも、今はそんなこと関係ないでしょっ!」

 あまりに興奮しすぎて、目眩がしそうになる。ソルは、何度も荒い息を繰り返した。

「何で? あの子が本当にあなたのことを想っていたことくらい、分かるでしょ?」

「ええ、よく分かります」


「とても可愛くて、素直で、そんな女の子だって事くらい。分かるでしょ?」

「はい。分かっていますよ。そんなことは」

「好みじゃなかったの?」

「そんなことは、ありませんよ」


「私の世話とやらが、あの子の想いよりもそんなにも大事なんですの?」

 その問いには、リュンヌは答えてこなかった。

「そんなにも、泣きそうなくらい辛い顔をするなら、謝るくらいなら、素直に受け入れたらいいじゃありませんのっ!」

 それを訊いた途端、リュンヌの目が細められた。睨まれる。


「リュンヌ? この私に向かって何ですの? その目は?」

 リュンヌは、舌打ちをしてきた。


「ソル様に、俺の何が分かるっ!」

 ソルの頭が沸騰する。

 思わず、ソルは手を振り上げて――

 その瞬間、リュンヌが息を飲むのが見えた気がした。けれど、振り下ろす手は止められない。

 初めて、リュンヌの頬に手が当たった。乾いた音が鳴り響く。


 その感触に、ソルは我に返った。

 しかし、これは間違いなく現実だ。リュンヌの頬は、赤く腫れているし、ソルの手の平には、彼の頬の感触がこびり付いている。

 ソルは、小さく呻き、唇を噛む。


挿絵(By みてみん)


「リュンヌ? もう、私に声をかけないで下さらないこと?」

「分かりました」

 踵を返し、ソルはリュンヌに背を向けて、その場から立ち去っていった。

ソル「リュンヌの馬鹿っ! 私、もう知らないからっ!」

リュンヌ「そんな、どこぞの世界名作劇場のワンシーンみたいな真似しても、追いかけたりなんかしませんからねっ!」

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