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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第四章:肖像画家編】
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第68話:リュンヌ攻略計画

 セリオと知り合った翌日の昼休み、ソルは校庭の端で彼女と待ち合わせをした。

「えっ!? あそこ、告白する場所として知られている場所だったのですか?」

 そのことを教えてやると、セリオは目を丸くした。


「ええ。だから、あんな場所に人を呼び出すとか、何も知らない人間が見たらどう思うか分かったものじゃありませんでしてよ」

「そうですね。ああ、誰にも見付かってないといいんですけど」

「一応、私も十二分に周囲を警戒していましたから、その可能性は大丈夫だと思いますけれどね?」

 ソルは嘆息した。


「だというのに、あなたときたら誰が好きなのかも最初に言わず、情熱的に私に色々と言ってくるものですから、そんな訳無いと思いながら、私、少し焦りましたわよ」

 そこまで説明して、自分が何をやらかしていたのか理解したのだろう。セリオは頭を抱えた。

 数秒、呻いて顔を上げてくる。


「私、本当に何て事を。申し訳ありませんでした。どうか、お許し下さい」

「まあ、過ぎた話ですし、何事も無かったからいいですけれど。今度からは気を付けなさい」

「はい」

 これで何事かが起きていれば、彼女を含め色々と"処理"しなければいけないところだった。そういう意味でも、彼女は命拾いしたと思う。


「それで、リュンヌの攻略方法ですけれど。方針としては短期決戦で押し切りますわよ」

「何故ですか?」

「どうにもね? リュンヌって、妙なところで目聡いというか察しのいいところがあるんですのよ。私達がこうして動いているという真似は、時間をかければかけるほど気付かれるリスクが大きくなりますわ」

「なるほど」


「とはいえ、可能ならあなたという娘をリュンヌに意識させるのにそれなりの時間が欲しいというのも事実ですわ。だから、最低限のステップを効率的に進めますわよ」

「えっと? いきなり告白とかは、やっぱりダメですか? この気持ちを抑えるのも、本当に辛いのですが?」

 やれやれと、ソルは肩を竦めた。


「あなた馬鹿ですの? どれだけあなたがリュンヌを想い慕おうと、それがリュンヌに伝わっている訳ではありませんのよ? リュンヌにしてみれば、今のあなたはふとした折に助けた、ただの下級生の一人でしかありませんの。あなたも、見た目は悪くないと、私から見ても認めて差し上げますわ。ですが、そんなほぼ見ず知らずの娘がいきなり告白しても、まず無駄でしょうね」

「無駄ですか」

 ソルは首肯する。


「そうですわ。これが仮に? 恋人を作る事に飢えているような男だったら、あなたに言い寄られたら、それだけであっさりと落ちる可能性は高いかも知れませんわね。けれど、相手はあのリュンヌ=ノワールなんですのよ? 散々、娘達に言い寄られているくせに、事あるごとに私を口実にしては交際を断り続けているような奴なんですのよ? そんな一筋縄でいくような、単純な相手ではないと考えた方がいいですわ。まずは、あなたという存在を意識させるところから始める必要がありますわ」

「確かに、その通りです」


 今気付いたと言わんばかりに感嘆の声を上げるセリオに対し、ソルは小さく笑みを浮かべた。

 こんな単純な話にも気付かないとは、本当に愚かな娘だとは思うが、こうして素直に敬意を向けてくるのは好ましいと思う。


「でも、それじゃあ私はどうすればいいんでしょうか?」

 うむ。と、ソルは頷いた。

「そうね。まずは、ロッカに絡まれたお礼はリュンヌに言いなさい」

 セリオは呻いた。


「それは、告白とか以前に出来ればそうしたいですが。ですがそれも、最初から出来ていれば苦労はしない訳でして」

 ソルはそんなセリオを冷たく睨む。


「何を生温い事言っていますの? こんな事で足踏みしていては、それから先になんて進めやしませんわ。勇気を出して、一歩を踏み出すんですの。でなければ、欲しいものは何も手に入らないの。リュンヌと本当に結ばれたいというのなら、やりなさい」

「はいっ!」

 ビクリと体を震わせながらも、セリオは背筋を伸ばした。


「とはいえ、これも無策にというのは違う気がするんですが。ソル様には、何かお考えがあるのでしょうか?」

 にやりと、ソルは笑みを浮かべた。


「勿論ですわ」

「そうなんですか? 流石ですっ!」

「一つ確認したいんですけれど。これまでリュンヌにお礼が言えなかった理由って、何故ですの?」

「それは、やっぱり恥ずかしいからです。リュンヌさん、他の人と一緒にいる事多いですし。それでも、たまに人目に付かないところに行く事はありますけど。そういうときは、チャンスだと思いながらも、私が気後れしちゃって。お邪魔に思うし、不自然かなって」

 そう言って、セリオは大きく肩を落とす。


「なら、自然に二人きりになれる時間が少しでも作れれば、一歩は踏み出せますわね?」

「それなら。はい、頑張ります」

 セリオは胸の前で両手の拳を握った。

 まだ少し自信は無いようだが、彼女なりに何とかなりそうだと、見積もりは立てられたのだろう。ならば一先ず、それを信じることにする。


「では、放課後に決行しますわよ」

「ええ? そんな、今日いきなりですか?」

「そうですわ。何か問題がありまして?」

「いえ、その。心の準備とか」

 そう言って、セリオは身悶えしながら、両手の人差し指を付き合わせる。

 ソルはそんな彼女の両肩を掴んだ。ずいっとセリオに顔を近づけ、彼女の瞳を覗き込む。


「いいこと? そんな弱気な事では、リュンヌと結ばれるなんて無理ですのよ? 心の準備なんて、ただ漫然と時間を費やしたところで、いつまで経っても出来るものではありませんわ。いつ決意するかしないか? それだけですわ。覚悟が決まっていないというのなら、今、決めなさい?」

 あぅあぅと呻きながらも、セリオは勢いよく首を上下に振った。「よろしい」とソルは彼女を解放する。


「放課後、私はリュンヌをここに呼び出します。用件は適当に伝えますわ。個人的にやっている今後の投資と買収や、黒い悪魔抹殺計画についてとか。別に、屋敷に帰ってからでも出来るんですけれど、今は家の外の人間がいるおかげで、ちょっとそういう込み入った話をする時間が作りにくいんですのよねえ。少し時間が不足気味で、その分確認したい事があるのも、確かではありますし」

「あの? それっていつも、ソル様とリュンヌさんが、二人きりでお話されているっていうことですか?」

 もの言いたげな表情を浮かべるセリオに、ソルは半眼を返した。


「嫉妬なら見当外れですから、お止めなさい。誓って、全く色気の無い話でしてよ? それに、首尾良くあなたがリュンヌと結ばれたなら、ちゃんとリュンヌと交際するための時間も配慮してあげるから、安心なさい?」

「すみません。私ったら。それと、有り難うございます」

 セリオは頭を下げた。


「では、授業が終わったら、あなたは急いでここと校舎の間に向かいなさい。私は、リュンヌにもここに向かうように伝えておきます。頃合いを見て、私も後からここに来ます。つまり、ここに来るまでの順番はあなた、リュンヌ、私という事になりますわ。そして、私がリュンヌに指定した待ち合わせ場所とは少し離れた場所にあなたがいる事で、あなたはリュンヌと会うのは偶然という形を取れます。私がここに到着する前に、あなたはリュンヌと接触するから、そのときにお礼を言うんですのよ」


「なるほど」

「このとき、重要なのはきちんとお礼を言う事。そして、恩はきちんと後日返すつもりだって伝える事ですのよ? これは絶対条件ですわ」

「何故ですか?」


「ここで、お礼を言ってお終いでは、次に繋げる事が出来ないからでしてよ。その後も理由を作って、リュンヌと接触出来る口実を用意しておくのですわ。まあ、リュンヌなら待ち合わせがとか言って、このときはあまりゆっくりと話は出来ないかも知れませんけれど」

「いえ、でもそれなら。むしろ、だからきちんとしたお礼をしたいと言い出しやすいかも知れません」


 力の籠もった声で、セリオが言ってくる。手順と目的、勝算が明確化すれば、一歩を踏み出す勇気も出てきたのだろう。

「そう。その通りですわ」

 大分やる気になってきたセリオの様子を見て、ソルは満足げに頷いた。

セリオ「……(恋愛相談に乗って貰ったお姉様が鬼教官だった件)」

ソル「何か思いまして?(引っ掻く構え)」

セリオ「イイエナニモ?」

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