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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第四章:肖像画家編】
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第63話:不意打ち

 寝台の上で横になりながら、ベリエは天井を見詰めた。

 昼間にリュンヌに言われた言葉が、どうしても引っ掛かる。

 リュンヌ曰く、彼女が自覚しているかどうかはともかく、他人が自分を見る目には敏感なところがあるそうだ。


 それは、ベリエも同意する。そうでなければ、肖像画が完成した結果に対して、怯えたりなどしたりはしないはずだ。自分に対する評価というものが気になって仕方がない。

 絵にソルに対する自分の思いが込められていないというのなら、彼女がそれを読み取っても不思議ではないと。そんなことをリュンヌは言っていた。

 有り得る話だと思った。それが無色透明な感情の、仕事に徹したものなら、彼女もまたそんな上辺だけしか心を開かないだろう。


 自分が、ソルをどう思っているのか?

 それは、以前にリュンヌに話した通りだ。とても恐がりな、か弱く小さな女の子に視える。

 一方で、とても気高くて美しくて。

 だから、放っておけない気持ちにさせてくる。そんな少女だ。


「くそっ!」

 無自覚に抱いていた想いが何なのか、理解してしまった。

 薄々、この仕事に対して拘りすぎだと思ってはいた。何故、彼女に対しては急に心が落ち着かず、最初は上手く話せなかったのかと思っていた。

 それはつまり、そういうことだったのだと。


 こんな想いだけは、もう決して抱かないと決めていたつもりだったのに。

 これで、今までどれだけの女性を傷付けて、自分も傷付いてきたのかと。自分は一体何を学んできたのだと。自分で自分が嫌になる。

 立場を弁えろと。恥知らずにも程があると。


 だとしても、気付いてしまった以上は、もう忘れることは出来ない。

 惚れっぽい男のつもりは無かった。これまでの交際は、いずれも相手の方から告白され、それに応じたものだった。応じた以上は、それだけの魅力は相手に感じ取っていたし、想いにも応えようと思っていた。

 けれど、ダメだった。


 「想いに応えよう」という義務感めいたものが、どこかで伝わっていたのかも知れない。何度も「今度こそ」と思いながらも、長続きはしなかった。

 けれど逆に、今までの自分には何が足りなかったのかが分かる。こんなに胸が苦しい思いを抱くのは、初めてかも知れない。こういう感情を抱くことが出来なかったから、きっとそれまでの交際相手は離れていったのだろう。


「でも、ある意味では好都合なのかも知れない」

 自嘲して、口実を探しながらも、ベリエは観念した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ベリエが描いている肖像画の途中経過を確認した翌日。

 絵のことでどうしても二人きりで相談したいことがあるからと、ソルはベリエに頼まれた。待ち合わせ場所の庭の片隅。バラが咲いているところへと向かう。

 既に、ベリエは先に来ていた。流石に、女を呼び出しておいて、遅れてくるほど野暮な男ではないようだ。


「相談したい事って何ですの? ベリエさん?」

「あ、はい。わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」

 深々と、頭を下げてくる。

 一体何を緊張しているのか。声も少し上擦っていた。


「実は、絵のことなのですが」

「ええ」

 躊躇いがちに、彼は息を飲んだ。

 何か深く決意したように、真っ直ぐにこちらを見詰めてくる。

 そんな彼の態度に、ソルも居心地の悪さを感じた。緊張感が感染してくるような感じがする。


「あの肖像画に。わ、私にソルお嬢様への想いを込めて描くことをお許し願えないでしょうか?」

 突然言われたその言葉に、ソルは目を丸くした。理解が追い着かない。

 一方で、ベリエは顔を真っ赤にして俯いている。

 そんな彼の様子に、ソルは益々困惑する。え? 何ですのこれ? まるで――


「あの? 突然そんなことを言われても、困りますわ。いったい、どういう意味ですの?」

「申し上げたとおりです。私は、あなたを愛しています。心の底から」

 まさかと思った答えが的中して、ソルは絶句する。


「私にだって分かっています。こんな事を言っても、あなたを困らせてしまうだけだということも。ですから、依頼主と画家の立場は弁えます。ですが、私に愛を込めて絵を描かせては貰えないでしょうか。あの、その方が、きっと絵の出来も良くなるとは思うので――」

 必死な表情を浮かべ、しどろもどろに言ってくるベリエの姿に、ソルは少し気圧される。

 それと同時に、それだけこの男が本気で言っているのだと、理解した。

 数秒考えて、ソルは笑みを浮かべた。


「分かりましたわ。好きになさいませ。私があなたの想いに応えられるとは、限りませんけれど」

「構いませんっ! これは私の自己満足です。ただ、あなたを想って絵を描けるのなら、それで十分です。有り難うございますっ!」

 満面の笑顔を浮かべ、ベリエはその場から駆け出していった。

 その背中を見送りながら、ソルは微笑む。


「存外、嬉しいものですわね」

 それがたとえ、意中ではない相手の男による告白だったとしても。応えてあげられないとしても。真剣な想いだったというのなら

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