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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第四章:肖像画家編】
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第56話:肖像画のコンセプト

 ソルは眉根を寄せて、唸った。

 鏡台の前に立ち、色々な服を自分に合わせてみるが、どうにも気に入らない。

 つまりは、肖像画に描いて貰うための格好が決まらない。


 流石に色々な式典に立ち会うために、礼装の類いは持っている。しかし、それも片田舎の男爵家が用意出来るものだ。前世でソルが日常的に着ていた豪奢なドレスに比べると、どうしても質素としか思えない。

 手持ちがこれしか無いという現実もあり。これまでも、内心では渋々着ていたのだが、見せる相手がほぼ平民だからまだ我慢出来た。見せるのはこの程度で十分だろうと。


 こんな事なら、もっと前からこれ用の服を準備するように動いておくべきだったかも知れない。しかし、仮にいくら時間があったとしても、場所が場所だけに納得のいくものを注文し、仕立てて貰うのは難しかっただろう。経済的な面も、勿論厳しいが。

 結局、今あるものでしか戦う方法は無い。それは分かっている。しかし、これで王都に出回るような、高位貴族の令嬢達よりに勝る格好となるのかと。目立ち、出し抜けるのかと。


 厳しい。どう考えても厳しい。

 手持ちの服から、色々と組み合わせて考えてみるが、どれを選んだとしても負ける気がしてならない。

 しかし、そんな負ける戦いを仕掛けるのでは、肖像画を描いて貰う意味が無いのだ。


「すみません。今は、入ってもよろしいでしょうか?」

 部屋の外からベリエの声が聞こえてくる、大分待たせているので、痺れを切らせてやってきたというところだろう。

「ええ、構いませんよ」

 一緒に部屋にいるティリアが返事を返した。別に、実際に着替えている訳でもないので問題ない。


「失礼します」

 一礼して、ベリエが部屋に入ってきた。

「まだ、衣装はお決まりにならないご様子でしょうか?」

「ええ、待たせてしまってごめんなさいね。この子ったら、なかなかどれも納得いかないみたいで」


「いえ、ソルお嬢様にとっても大事な選択ですので。なかなか決められないというお気持ちはご尤もだと思います」

「そう? 分かってくれて嬉しいわ。もう少しだけ、待って貰えないかしら?」

 そう、ベリエに言ってからティリアが横目で視線を送ってくる。「ほら、いい加減にさっさと決めなさいよ」と言わんばかりに。

 そんなティリアに、ソルは唇を尖らせた。


「よろしければ、私もご様子を拝見させて頂いても?」

「それは、構わないけれど」

 ふむ。と、ベリエは顎に手を当てて、ソルを挟んだ向こう側を一瞥する。


「つまり、今の候補はエトゥル様達が持っておられる衣装。ということでよろしいのでしょうか?」

「その通りよ」

 ベリエの視線の先には、ソルの選んだ服を持つエトゥルやリュンヌ達、家族や使用人が並んでいた。女性陣はこんな格好も素敵と言い合ったりして楽しげだが。男共は何がそんなにも疲れるのか、ぐったりと死んだ目をしていた。


「ベリエさんから見てどうかしら? どれが一番、ソルに似合うと思う? ほら、芸術家の視点って、また違うかと思って」

「そうですねえ」

 しばし、ベリエは小首を傾げた。


「失礼ながら、エトゥル様達が持っておられる衣装の組み合わせは、ソルお嬢様が考えられたものなのでしょうか?」

「そうですわ。それが、どうかしまして?」

「いえ、どれもいいセンスだと思います。僭越ながら、ソルお嬢様の審美眼はかなりのものとお見受けします。しかし、ソルお嬢様の魅力を十二分に引き出せているかというと――」

 それ以上は自分の口から言うのは差し出がましいと思ったのだろう。ベリエは言葉を濁した。


「力不足。そう、言いたいのかしら?」

 煽るように、ソルはその先を促した。

 しばしの躊躇の後、ベリエは首肯する。

「その通りです。お言葉ですが、これらの衣装で、他のご令嬢と渡り合うのは厳しいかと申し上げます」


「いいですわ。まさにそこが、私の気掛かりなところですもの」

 とはいえ、流石にこれ以上の時間を掛けるのも難しいところかも知れない。いっその事、衣装選びは翌日に延期するというのも手かも知れないが。あまり、意味が有るとも思えない。


「失礼、少しよろしいでしょうか?」

 真っ直ぐに、ベリエがソルの目の前へと寄ってくる。

 何事かと、ソルは長身のベリエを見上げた。

 無言で、じっとベリエが見詰めてくる。その真っ直ぐな視線をソルはただ、見詰め替えしていた。

 どれくらい、そうしていたのだろうか?

 

"美しい"


 不意に、そんな声がベリエから漏れた。

 「えっ!?」と、ソルは目を丸くする。これは、完全に不意打ちだった。

「はっ!? すみません。自分なりにイメージを固めようとお側でソルお嬢様を見させて頂いただけなのですが。思わず。失礼致しましたっ!」

 慌ててベリエが頭を下げ、咳払いをしてきた。


「いえ、別に構いませんけれど」

 くすりと、ソルは笑みをこぼす。美しいのは当然だと思っているが。こういう素直な称賛は、言われて悪い気はしない。

 と、妙に不穏な気配を感じてソルは背後へと振り返った。


 そこには、何だか殺気だった視線を浮かべるエトゥルと、冷ややかな視線を浮かべるリュンヌがいた。

 あなた達? なんなんですのその反応?

 ソルは彼らに、半眼を向けた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一つ提案がある。ということで、また別の衣装を引っ張り出す。

 これは、着替えてみて欲しいということで、一旦男達には部屋の外に出て貰っている。


「もういいですわよ」

 伝えると、ベリエを先頭に男達が入ってきた。

「取りあえず着てみましたけど。これで、どうしようというんですの?」

 ソルが着ているのは、夏用のサマードレスだ。フリルなどの装飾はあるが、ほぼ白いだけの服だ。

 春先に着る服としては、大分肌寒いし、これまで用意してきた礼装よりも質素に見える。

 あとは、頭の部分が寂しくなってはならないと、紅いバラを模した飾りを額の左上あたりに付けている。


「はい、次にこちらをお持ち下さい。ティリア様にお願いして、庭より集めてきた花束となります」

 花束と言っても、かなりの量だ。ソルはそれを両手で持つ。

「鏡の前に」

 言われるままに、ソルは鏡を見た。

 そこには、色彩鮮やかな花束を持った、白無垢の少女がいた。


「失礼します」

 背後から、ベリエの声が聞こえる。そのまま、彼は両手を回して、ソルの手を掴んだ。

「花束の位置はこのように」

 花束の位置が微調整される。すると、白無垢の上に一層、花束が映え、その上にあるソルの顔にも視線が集中する。


「装飾によって、モデルを飾り立てるというのも、一つの方法ではあります。しかし、その方法が難しい以上。また、主役がソルお嬢様である以上は、装飾よりもソルお嬢様を主役として据えるべきだと考えました」

 そのコンセプトは分かる。この格好の中で、最も目立つのはソルの顔だ。


「どんな装飾よりも、ソルお嬢様こそが最も美しい。ですから、それ以外はソルお嬢様の引き立て役に抑える加減にしました」

「つまりは、無地の陶器に花を生ける。そういう考え方ですのね」


「左様でございます」

 派手な柄物の壺では、壺単体として飾るのにはいいかも知れない。しかし花を生けた場合は、花と互いに美しさを埋もれさせてしまう。故に、花のような彩りあるものを飾るための陶器は無地なのだ。


「それと、白い服を選んだのには、もう一つ理由があります」

「聞かせて貰おうかしら?」


「はい。これは、花嫁衣装にも通じる格好です。つまりは、この格好は言わばまだ偽物の花嫁衣装です。ですがそれ故に、本物の花嫁衣装を着て貰えるとしたら、あなたはどう思うだろうか? どんな花嫁衣装を着て目の前に立って貰いたいか? 妻として迎えたくはないか? それを肖像画を見る相手に想像させ、訴えかけるのです」

 満足げに、ソルは微笑んだ。


「気に入りましたわ」

 これは一種の賭けだ。革新的と言えば聞こえはいいが、この手の肖像画の常識からは大きく逸脱している。


 だが、ハイリスクハイリターンとはいえ、勝ち目があるとすれば、このような方法ぐらいしか無いだろう。

 そして、それでもなお、勝率は悪くないと、この格好はソルに感じさせた。

NGシーン

ソル「南斗水〇拳・飛〇白麗」

リュンヌ「いや、そんな技、使えないでしょソル様!?」

ベリエ「美しい……はっ!?」

リュンヌ「あんたも乗るなっ!」


古いなあ。よく知らないけど。

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