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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第三章:流浪剣士編】
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EX9話:ソレイユ地方から来た騎士

 それは、王都の近衛騎士団入団試験が過ぎて数ヶ月も過ぎ、秋も深まってもうじき冬が訪れようとしていたある日のこと。

 すぅと大きく深呼吸をし、リオンは居住まいを正した。

 扉の脇に立つ近衛兵。つまりは自分の先輩に一礼する。


「リオン=マグニスです。召喚に応じ、参りました」

「よろしい。入り給え」

 扉の脇に立つ近衛兵によって、扉が開かれた。

 リオンは更に一礼し、部屋の中へと入った。背後で、扉が閉じられる。


 部屋の中では、一人の少年が既に席に着いていた。

「近くに寄るがいい。固くなる必要は無い。席に着き給え」

「はい。失礼致します」


 少年の言葉に従って、リオンは彼の目の前に着席した。

 しかし、固くなるなと言われても、なかなかそう緊張は消せるものではない。


「本日はお招き頂き、誠に光栄にございます。アストル殿下」

「うん。リオンよ。そちの方こそ、よく来てくれた。私も、其方に会えて嬉しく思う」

 にっこりと、気品のある笑みをアストルは浮かべてくる。

 それに対し、リオンは恭しく頭を下げた。

 こほんと、アストルが咳払いをする。


「実を言うと、リオン。今日其方を招いたのは、少し聞きたいことがあったからなのだ。もし、間違いであれば許して欲しい」

「はい、私でよろしければなんなりとお聞き下さい」

 リオンは頷く。


「では、早速であるが。リオン。其方はこの王都の近衛騎士団に入団する前、ソレイユ地方を訪れた際にエトゥル=フランシア男爵の長女、ソル=フランシアを窮地から救ったとあるが、それは真か?」

「はい。真にございます。正確には、ソルお嬢様の側仕えの少年と共に、ですが」

「そうか。間違いなかったか」

 嬉しそうに、アストルが笑みを浮かべた。


「いや、実を言うとだな。私の親しき学友の一人が、ソレイユ地方出身の奨学生なのだ。そして、何でもソレイユ地方にいた頃は、領主の長女に世話になったと言っている。友にとっての恩人を救ったというのであれば、私からも礼を言いたかった。あと、その友人のためにも、その娘の近況など何かあれば聞かせて欲しいと思ってな。それで、其方を呼ばせて貰ったという訳だ」

「何と。それはまた奇遇な話ですね」

 まさか、そんな縁でこうして王子とお近付きになれる機会が巡ろうとは、思いもしなかった。


「それなら、そうですね。私の方こそ、またソルお嬢様には色々とお世話になりました。優しいお方です。助けて貰ったお礼だと言って、あの街の剣術大会が開かれるまで、お茶やお手製の疲労回復の薬、気持ちを落ち着かせるお香など、色々と差し入れを頂きました。商才と薬学の才をお持ちで、昨今はそれらによって益々活動的に動かれているようです」

「そうなのか。薬学の才を持っているという話は、私も友から聞いていたが」


「はい。ソルお嬢様の作られた薬や香は、実によく効きました。私は、カンセル=グランという同じ騎士学校の先輩に腕試しをするためにソレイユ地方を訪れたのですが。その、かつては彼もまたこの王都の近衛騎士団を目指していた立派な男で。そんな彼を破り、あの剣術大会で優勝出来たのも、ソルお嬢様のおかげと言っても過言ではありません。私にとっても、あの方は恩人です」

「それは、よい出会いだったのだな」

「はい。よい出会いでした」


 リオンはしみじみと頷く。

 だからこそ、別れが辛かったことは言わない。それでもなお、この道を選んだのだから。未練がましい真似はするべきではない。それに、そんな真似をすれば、それこそリュンヌに軽蔑されることだろう。

 結局、自分の青臭い理想を優先して、ソルのすべてを受け止めきれなかった男が、彼女に相応しいはずもない。


「それと、これはソルお嬢様からではなく。カンセル=グランからの手紙で知ったことですが。実はカンセルの妻は当時、身重でつわりが酷く体力が出産に耐えられるか危ういところだったのですが。ソルお嬢様の支援のおかげで、無事に彼女も体力を取り戻し、子供を出産出来たそうです。カンセルもまた、ソルお嬢様の口添えもあって、ソレイユ地方で騎士に任ぜられたそうです。夢が叶ったと喜んでいました。あと妻の体力が戻ったのは、ソルお嬢様の滋養強壮薬や精神を整える香の効果が大きかったと。そう、書いてありました」


「そうか、それは何よりであったな」

 まるで我が事のように嬉しいと言わんばかりの笑みを浮かべるアストルに、リオンは好感を抱く。改めて、彼に心の中で忠誠を誓った。

「他には、色々と手料理を練習されていたりもするようで――」

 当時、胸に抱いていた彼女に対する想いを隠しながらも。

 それでもリオンは、彼女を知るものとして、彼女のことを思い出し、語るのは楽しく感じた。

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