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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第二章:学友編】
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第29話:せめてもの願い

 その晩、ソルは自室にリュンヌを呼んだ。

 勉強机に座り、机の上にアプリルの百科事典を置く。


「お呼びでしょうか。ソル様」

「ええ」

 小さく、頷く。


「ひょっとしたら、あなたももう知っているかも知れないけれど。アプリルが明後日、王都に旅立つわ。優秀な成績を修めた奨学生として」

「はい。存じています。僕のクラスでも噂になっていましたから」

「そうなのね」


「今日は、そのアプリルとの話でしょうか?」

「ええ」

 乾いた笑みをソルは浮かべた。


 何だか心が空虚で、そんな風にしか表情を作れない。

 聞けば、もう既に父は彼が奨学生に値するか見極めるため、学校に出向いてアプリルとの面談も行っていたそうだ。成績に違わず、非常に理知的な印象を受けたと、満足げに語っていた。


「私はもう、二度と彼と結ばれる可能性は無い。そういうことなのかしら?」

 少し間を置いて、しかしリュンヌは頷いた。


「はい。残念ですが、その通りです」

「そう。やっぱり、そうなんですのね」

 リュンヌの言葉で、ようやく諦めが付いた。


「あなたは気付いていましたの? 私が、アプリルにフラれたことを」

「薄々は、気付いていました。アプリルとの話について、ずっと呼び出されることも無くなっていましたし。どこか、ソル様が落ち込んでいるようにも見えました」

 躊躇いがち吐息が彼の口から漏れた。


「本当は、何があったのか、僕もソル様に尋ねようと思いました。場合によっては、お慰めした方がいいのかもとも思いました。ですが、それが返ってソル様の傷口を広げてしまわないかと。それが恐くて、訊けませんでした。申し訳ありません」

「謝らなくて結構ですわ。どっちが良かったのか、私にも分かりませんもの」

 ソルは百科事典を手に取り、リュンヌに見せた。


「これは、アプリルがとても大切にしている。いつも肌身離さずに持ち歩いていた百科事典ですの」

 自嘲する。

「私は、失敗しましたわ。アプリルを評価し始める女子生徒の噂を聞いて。強引な手を使って、これを盗んで、脅迫して、そうして私のものにしようとしたんですの」

「それで、彼を怒らせてしまったんですか?」

「そうよ」


「馬鹿ですか、あなたは?」

「ええそうよっ! 私は大馬鹿よっ! 人は、大事な物を奪われたら怒るのよ。大事なものであればあるほど、それを守ろうと必死になるの。敵対する相手を好きになる訳無いわっ!」

 思わず叫ぶ。

 両目から熱いものが零れそうになった。


「でも、そんな真似をしてしまうくらいに、好きだったんですね。アプリルのこと」

 静かに、憂いと優しさを込めて、リュンヌが言ってくる。

 ソルは顔を上げた。リュンヌの眼差しには、こんな話をしても、軽蔑の色は無かった。それだけでも、救われた気がする。

 ソルは先ほどの問いに対して、無言で頷く。


「ねえ、リュンヌ? 相談に、乗ってくれませんこと?」

「僕でよければ、なんなりと」

「今更、もうアプリルと結ばれようとは望みませんわ。けれど、このまま嫌われて、謝ることも出来ないままというのは、嫌なんですの。そんなの、耐えられそうにありませんわ」

「分かりました。では、どうしたらいいか一緒に考えましょう」

 困ったように、けれども優しげに笑みを浮かべるリュンヌに、ソルは泣き笑いを浮かべた。

ソル「ねえリュンヌ? この場合の慰謝料って相場はいくらぐらいになるのかしら?」

リュンヌ「謝罪の仕方が生々しいですっ!」


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