第24話:気になる噂
アプリルに絡むようになったからといって、ソルは情報収集を疎かにはしなかった。
時間の隙間を縫っては、生徒や教師の動向を探っている。
とはいえ、一人では限界もあるので、これにはリュンヌにも手伝って貰っている。専ら、彼には男子生徒達の情報を探らせている。注意、警戒。何にしても注目に値するような人物も動きも無いが、これでなかなかに役に立っていると思う。
リュンヌのやり方としては、あまりこそこそとした動きはしていない。ときには、そういう真似もするが、大体の場合は真っ正面から増やした交友関係と雑談で情報を拾っている。この辺は、男女の違いによるものなのだろうか。
地元の有力者に縁がありそうな人物を中心に、接触させて、また接触方法も指示したりしていたのだが、おかげでリュンヌもこれで結構、顔が広くなったようである。
女子生徒達の間でも、評判は悪くないようだ。たまにだが、リュンヌに絡んだ浮いた噂話を耳にしたりもする。
しかし、それについて、リュンヌに訊いてみたが、彼はそれほど興味が無いようだった。悪い気分ではないようだが、浮かれる様子も全く無い。「今の僕にとっては、ソル様が幸せになれる相手と結ばれることの方が大事ですから」などと苦笑を返してきた。
これはこれで、可愛げが無いというか、からかい甲斐の無い反応で、面白くないと思っている。
西校舎の端に辿り着く。案の定、3番町の町長の娘とそのお友達が集まっていた。
ソルは耳を澄ませる。
「はぁ、前に比べたら大分気が楽になったわ」
「何が?」
「ソル様のこと。アプリルに絡むこと多くなって、私達に搦んでくる時間減ったじゃない」
「ああ、それね。アプリルと一緒に勉強している」
「そうそう」
「あいつ、昔から頭良かったけどさあ。ソル様の相手してくれてマジ助かるわ」
少女達の笑い声が、風に乗って聞こえてくる。
「というかさあ。あの二人、結構仲良くない? ソル様のご機嫌も悪くなさげな感じだし?」
「え~? まさかあ。身分の差とか考えたら……ねえ?」
「まあねえ。でも、あいつのおかげなのか、ソル様の人当たりも、少し柔らかくなった気はするかなあ」
「ああ、ほんのちょっとだけだけどねえ。ある気がするわ。それだけでも、助かるわ本当」
溜息の気配を感じた。
「でもさあ、アプリルの奴はどう思ってんのかしらね?」
「どうって?」
「ほら? 何か、あいつも最近、ちょっとソル様を意識してんじゃない?」
「ああそうそう。髪型とか変えたわよね。ひょっとして、色気づいたとか?」
「ソル様の気を引こうとして?」
「まさかねー?」
「でも、結構様になっていない? 私、前からあいつのことは知っているつもりだったけどさ、あんな風に化けるとか思わなかったわよ」
「意外よねえ」
「っていうかさ? 結構、狙い目だったりして?」
「あっ? ちょっと何? 本気? あなた、こないだまでリュンヌ君がいいとか言っていたじゃない」
「それはそれ、これはこれよ」
「だって、そんな事言ってもさあ。いい感じになったのは本当だし?」
「まあねえ」
「ねえねえ。もし、告白するとしたらどうする?」
「えー? 本気? アプリルに?」
「いや、別にそうと限ったわけじゃないけれど。仮に、気になる男の子がいたとして、告白が成功する方法とか、何か知らない? みたいな話」
「そんな話、あったらとっくにやっているっての」
「それもそうよねえ」
「あ、でもこんな噂なら聞いたことあるわよ」
「え? なになに? どんな噂?」
「ほら、南校舎の裏に、大きな樹があるじゃない」
「あるわねえ。なんか、やたらとでっかい樹が。あれ、どんだけ高いのよ」
「何百年も前からあるらしいわよ? 切り倒すのも一苦労だし、とても立派な樹だからって残しているらしいわよ」
「もう、話がズレちゃったじゃない。そんなことより、その樹がどうかしたの?」
「うん、何でも、その樹の下で相手を呼び出して告白して、それで結ばれると必ず上手くいくんだって」
「ええ? 本当?」
「噂だけどね? でもでも、上級生とか卒業生の間でも、それで結ばれた人達が結構いるのよ」
「何であんた、そんな話知っているのよ?」
「だから、噂だってば。私も、あくまでもお姉ちゃんとか、その友達とかに聞いただけなんだから。まあ、その中には、実際にそれで結ばれたっていう人達もいたわけど」
「ええ~? じゃあ、本当に?」
「でも、少なくともそんな噂があるくらいだから、呼び出される方だって、ちょっとでも意識していたら期待が大きく膨らんじゃうわよね?」
「ああ、ありそう」
風に乗って流れる、少女達の黄色い声を聞きながら、ソルは拳を握った。
リュンヌ「ソル様イヤーは地獄耳(囁き)」
ソル「聞こえてましてよ?」
伝説の樹の下なんて、本当に古いネタだよなあ(遠い目)。
なお、書いている人はそのネタは未プレイです。




