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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第二章:学友編】
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第22話:揺れる気持ち

 アプリルの家の近くにある町からの帰り道。

 来たときと同様に、ゆっくりと馬に乗りながら我が家へと向かう。

 町にいたのは、せいぜい小一時間といったところだ。このペースでも、日が暮れる前には余裕で家には辿り着けるだろう。


 ただ、どうにも居心地が悪い。

 その理由ははっきりしている。隣にいるリュンヌの視線が、どうにも生温かいのだ。

 ぷいっと顔を背け続けるが、こいつはしつこく自分を見詰め続けてくる。

 先に根負けしたのは、ソルの方だった。


「さっきから、何ですのその顔は? ずっとにやにやと。気色悪いからお止めなさい」

「いえ別に? 何だかんだあったものの、アプリルとは仲良くやれているようで、安心というか、結構なことだなあとか。そんなことを思っているだけです」

 ソルは小さく舌打ちした。


「言っておきますけれど、あなたが期待しているような感情は、私は彼にしては全然ありませんわよ?」

「本当ですか? 今日、わざわざあの町に視察に行ったのも、平日の彼の様子が気になったから、もしかしたら会えるかもみたいなこと、考えていたからじゃないんですか?」

「違いますっ!」

 ソルは語気を強く、はっきりと否定する。


 何故なら、そんなことは、ほんのちょっぴりしか可能性を考えていなかったから。

 まあ、アプリルが言っていたとおり、休日はああやって働いているというのが嘘じゃないと確認出来たのは、成果ではあるが。

 ちなみに、屋敷や学校がある街にまで売りに来ないのは、移動の手間と地代の都合で、割に合わないからという話だった。それに、あのような場所なら、本を読みながらでも商売が出来ると。


「そうですか。髪型を弄ったときとか、結構楽しそうに見えたんですけどね」

「まあ、磨けば光る素材ではあるとは、認めてもいいですけれどね」

 やったことといえば、いつでも軽く身だしなみを整えられるように持ち歩いている櫛と油を使って、彼のぼさぼさ頭を梳いたり、額が見えるように固めてみた程度だ。

 しかしそんなのでも、見栄えは大分良くなったと思う。


「でしょう? 結構人気あるんですよ? アプリルって」

「はあ? あれがですの? 女子達の間で、そんな噂、聞いたことありませんでしてよ?」

 これでも、情報収集は怠っていない。そんな話があれば、自分は間違いなく拾っているはずだ。

 人気があるどころか、一日中本の虫の変人。ボロ服を着た冴えない奴。ソルが当初抱いていた評価そのままに近い。服装そのものの話で言えば、彼と同じような境遇の少年少女も多いので、彼がとりわけ見窄らしいというわけでもないのだが。


「この世界の話ではありませんよ。前に説明したと思います。この世界は、とある乙女ゲーを模して創られた世界だと」

「ああ、そうでしたわね」

「それで、元となったゲームでは、あのアプリルが好きっていうプレイヤーも多い。そういう意味です」

「へえ」


 少し間を置いて、リュンヌは続けてくる。

「さっき、ソル様も仰いましたけど、攻略対象ですからね。見た目も、磨けば光るポテンシャルを秘めてます。その上で、一途なんですよ。人付き合いは不器用ですけれど、誠実ですし、なかなか素直にはならなくてもデレたら甘やかすし甘えてきます。そのギャップにときめきを覚えるファンが多いんです」

「そうね。そういう人も、いるのかも知れませんですわね」


 くすりと、ソルは笑みを浮かべた。

 アプリルの良さは、少しは分かっているつもりだ。

 自分が彼のことをどう思っているかというと、そこまで意識はしていないと思う。その、はずだ。

 けれど、好きになっても恥ずかしくはないのだと知ったような気がして。その分だけは、気が楽になったようには思う。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 夜もすっかり更け、アプリルは寝床に入った。

 今日は、何というかいい一日だったように思う。

 まさか、あんなところでソルと出会うとは思わなかった。

 しかも、彼女には髪型まで色々と弄られた。


 「大したことはしていませんわ」と彼女は言っていた。実際、本当なら髪はもっと短く刈ってしまった方が、彼女から見て見栄えがいいらしい。しかし、散髪までは出来ないので、それに近いイメージになるように、髪を梳いて油で固めたそうだ。

 家に帰ったら両親と兄弟には驚かれた。一体何事だと。でも、彼らから見ても似合っているようなので、悪い気はしなかった。


 ふと、彼女の細い指を思い出してしまう。あんな風に、同じ年頃の少女に髪を触れられたのは、初めてだった。それも何だか、気恥ずかしい。意識すると、顔が火照ってしまいそうだ。

 本人は、自分の美貌を自覚しているんだろうか。そういうのを自覚していない女はいないというのが、母親の言ではあったが。


 彼女と知り合って、長いわけでもないし、最初は興味があったわけでもない。むしろ、自己紹介の挨拶やクラスの女子からたまに漏れ聞こえる噂から、それほど関わり合いになりたいとも思っていなかった。

 彼女の父である領主様のことは尊敬している。彼女とは逆に、直に会ったことがないのだから、それで尊敬というのもおかしな話かも知れないけれど。村や町の大人達が、視察に来たときは親身に、真面目に接してくれる人だと言うので、立派な統治者なのだと思っている。

 その上で、ソルは家の威光を振りかざすだけの我が儘な娘なのだと、そんな風に思っていた。


 けれど、そうじゃなかった。

 一緒に勉強をしていて分かる。彼女は、本当に真面目に勉強をしている。しかも、休日は領主様のように視察もしている。人の上に立つべき人間として、やるべきことをやっている。

 そんなに、悪い娘じゃないのかも知れない。

 そう思うと、何故だか嬉しく思える。同時に、少し胸も苦しい気がするのだが。

リュンヌ「目隠れキャラが髪を切って、目を出すようになってイメチェン。王道ですけど、グッとくるものがありますよねえ」

ソル「…………ふんっ」

リュンヌ「ソル様? 今、心の中にわき上がっている感情を萌えと呼びます」

ソル「うるさいですわっ!」

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