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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第二章:学友編】
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第17話:接触開始

 1限目の授業が終わった休み時間。ソルはアプリルの席へと近付いた。

 いつものように、脇目も振らずに本を取り出して読む彼を見下ろす。


「アプリル。放課後、ちょっと時間を貰えまして?」

 声を潜め気味に、尚且つ早めに言う。

 彼は顔を上げるが。

 突然の話に、何が何だかさっぱり訳が分からない。と、雄弁に表情が物語っていた。


「それは、僕に何か用があるっていうこと?」

「そうですわ」

 彼は露骨に渋い顔を見せてきた。


「それ、時間長くなる? 僕は、早く家に帰らないとマズいから、そんなに時間取れないんだけれど」

「それは、あなた次第ですわね。まあ、用件が手短に済むように協力してくれるというのなら、数分で終わると思いますわ」

「ああうん。それならまあ」


 やっぱりこいつは、馬鹿じゃないかとソルは思った。

 約束はしていない。だから、本当に話が数分で終わるなんて確証、どこにも無い。だとというのに、こんな申し出にホイホイと乗っかってくるとは。

 面倒が無くて気が楽ではあるが。


「それで、待ち合わせとか。そういうのは?」

「校舎の出入り口で先に待っています。そこから、校舎の角まで移動して、話をします。よろしくて?」

 時間帯的に、人気の無い場所というのも把握しているが。そういう場所に男女二人で向かい、しかも下手に見付かると、ろくでもない邪推が出てきそうなので避ける。


「うん。分かったよ」

 これで話は終わりだよね? と、勝手に察して彼は再び本へと視線を落とした。

 実際、これで話は終わりなのだが。

 マイペース且つ、自分を全く何とも思っていないという態度に、ソルは苛立ちを感じた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 放課後、さっさと教室を出たソルに少し遅れる形で、アプリルは約束通り合流してきた。

 くいっと顎で指図する形で、彼を連れて校舎の角へと向かう。ここなら、人目もある上に、人通りからの距離は離れているから、身の危険は感じさせなずに、話も漏れにくい。


「それで、僕に何の用?」

「そうね。早速本題に入りましょう。あなた、どうやってあの成績を取っているんですの?」

「成績?」


「そうですわ。前も、そのまた前も。あなたがテストで一位でしたわよね? どうやって、そんな真似を可能にしたっていうんですの?」

 訊くと、困ったように彼は首を傾げた。


「いや。単に物凄く頑張って勉強したっていうだけなんだけど?」

「嘘おっしゃいっ!」

「嘘じゃないし。本当なんだけどなあ」

 大きく溜息を吐いて、アプリルは天を仰いだ。


「なら、どれだけ勉強しているっていうんですの?」

「休み時間を含めて、学校にいるときはずっと。あとは、家に帰ったら、働きに出ないといけないし、それが終わってから寝る前に少しだけ」

 到底信じられないと、ソルは彼を睨む。


「えっと、そもそもさ。何でそんなことを訊くの? 勉強、分からないところがあるなら教えてもいいけど?」

「はあっ!? あなた、私を誰だと思っていますの?」

 訊くと、彼は露骨に目を背けた。


「ごめん。同じクラスの女の子だっていうのは覚えているんだけれど――」

「こっ……のっ!」

 ソルは怒りで肩を震わせる。


 自分の成績以外、まったく興味なし。自分のことは眼中に無し。領主の娘だとか、そんなこともお構いなしかと。

 朝から聞いてみれば、彼の言葉遣いに遠慮だとか敬意の様なものがかけらも無いと。そこも軽く神経を逆撫でていたのだが。それも納得した。


「ソル。ソル=フランシアですわ。ここの領主の長女で。……成績も、あなたに次いで二位ですのよ」

「あ、うん。そうなんだ」

 それがどうしたの? と言わんばかりの平然とした口調が返ってくる。

 ソルのこめかみに青筋が浮かぶ。

 もはや、我慢の限界だ。


「ええと。あのさ?」

「何ですの?」

「さっきも言ったけれど、分からないところとか、苦手なところがあるのなら、教えるよ? 僕も、疑われっぱなしは嫌だし、人に教えるのも勉強になるって聞いたことがあるから」

 ソルは歯を食いしばり、激情を押さえ込んむ。


 落ち着け。激情に流されて行動するのは、特に人目につく場所でそんな真似をするのは、碌な事にならない。

 深呼吸して、冷静に考える。このアプリルという奴は、お人好しにも、こともあろうに自分の手口を教えてくれようというのだ。

 損得勘定で考えて、損な話ではない。やりようによっては、好都合とも言える。


「いいですわ。なら、あなたがどのように勉強しているのか、直に教えて貰いますわね」

「うん。それじゃあ。そういうことで。僕は、朝にも言ったけれど、すぐに家に帰らないといけないから、もう帰るね。また明日」

 軽く手を挙げて、話は終わりだと彼は校門へと駆け出していった。

 憮然とした表情で、ソルはその背中を見送った。

リュンヌ「流石に、放課後校舎裏に呼び出して『ジャンプしてみ?』とかはしなかったんですね」

ソル「あなた、私を何だと思ってますの?」

リュンヌ「えっ!?」

ソル「えっ!?」

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