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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第二章:学友編】
20/190

第15話:雪辱戦

2025/09/09

イラストを追加染ました。

 春は穏やかに、そして瞬く間に過ぎようとしていた。

 ソルの生活は変わらない。平日は弟や妹、リュンヌと共に学校へ行き。「お友達」に囲まれて過ごす。

 休日は、多少なりと家族の相手はしつつも、勉強に精を出した。


 「根を詰めすぎではないか?」。そんな言葉は、家族からも聞こえるようになった。彼らから見ても、無理をしているように見えるというのか。そう、見せられないくらいに余裕が無いというのか。

 リュンヌが、上手いこと取りなしてくれたおかげで、それほど干渉されなくて済んだけれど。

 だが、そんな毎日ももうすぐ終わる。


 期末試験。手応えはあった。

 今度という今度こそ、抜かりは無かった。

 学生達の賑やかな喧噪。

 雲一つ無い、晴れやかな空。

 久しぶりに、空気が美味しいと感じた。


 ソルは苦笑を浮かべた。なるほど、「久しぶり」と感じてしまうくらいには、確かに余裕を失っていたのかも知れない。

 軽やかな足取りで、結果発表が張り出された場所へと向かう。

 心配掛けてしまった分、今夜は少し、家族に甘えてみるというのも、悪くないかも知れない。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 結果を眺めるソルは、拍手に包まれていた。

「流石ですわソル様」

「凄いですわソル様」

「ソル様って、本当に頭が良いんですのね」


 わなわなと左手が震える。

 人差し指と親指を顎に添えて、優雅に微笑む。胸を張る。

 目の前の光景が、信じられない。


 結果は、またも僅差で二位だった。

 そして、その上にはアプリル=ナシア。

 どうして? どうしてこうなるの?

 笑顔の仮面を被ったまま、ソルは呆然と結果を見上げ続けた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 それからの一日は、どう過ごしたのかよく覚えていない。

 帰りの馬車に乗り込んでからは、あまり話をしていなかったと思う。そんな余裕は無かった。

 前のときと同じく、家族は成績を褒めてくれた。そして、それ以上に何があったのかと心配してくれた。本当に、優しい家族なのだと思う。


 けれど、どう返したら良いのか分からなくて。それらはすべて突っぱねた。しばらく独りにして欲しいと。でなければ、彼らに当たり散らしてしまいそうだったから。

 ベッドの上で、膝と枕を抱えながら座る。

 枕に顔を埋め、ソルは声を押し殺して泣いた。


 本気だった。前の中間試験以来、本気の本気で頑張った。だというのに、凡庸にしか見えない根暗な男に負けた。

 こんな事で負けるのも、こんな事で泣くのも、我ながらみっともないと思う。

 自分はこんなにも弱かったのか? 温かい家族とやらにあてられて、弱くなったというのか? それとも、転生して体が若返ったことで、精神までこの姿に引っ張られたとでもいうのか?


「うっ……うぅっ。うぁっ……ああっ……うぅ」

 嗚咽が、止められない。


挿絵(By みてみん)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ソルは目を開けた。

 頭がはっきりしない。

 ああそうか。と、数秒考え込んで思い至る。どうやら、泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。

 今が何時かは分からない。ただもう、外の様子を見るに深夜なのだろう。

 嘆息が漏れる。


 お腹が空いた。耐えがたい空腹感が襲ってくる。

 もう一度、このまま朝まで眠ってしまおうか? そんなことを考えるが、この空腹感は、少し辛い。眠りにつけそうにない。

 数秒迷って、ソルは彼の名を呼んだ。


「リュンヌ。来なさい」

「お呼びですか?」

 直ぐに、彼は現れる。ソルは頷いた。暗がりで、見えているとは思えないが。


「少し、お腹が空きましたの。軽いものでいいから、何か、食べ物と飲み物を持ってきて」

「畏まりました」

 恭しく、リュンヌの陰は頭を下げ、姿を消した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 命じてから数分と経たないうちに、リュンヌはパンと果物。そして温めた牛乳を持って戻って来た。

 机の上に並べられたそれらにソルは手を伸ばす。

 堪えがたい空腹の上で食べる夜食は、この上なく美味かった。


「泣いたら、少しはすっきりしましたか?」

「なっ!? あなた、見ていましたの?」

「いやまさか? そんなことしていません。そんな気がしていたっていうのもありますが――」

 リュンヌは、微苦笑を浮かべた。


「そんな、泣きはらした目を見て、気付かないわけありませんよ」

 ソルは呻いた。

 そうだ、今は食事を摂るために燭台に灯りが点いている。そうなれば、リュンヌから今の自分の顔が見えるのも、当たり前の話だ。

 羞恥心に、顔が熱くなる。


「ソル様。僕から一つ、提案があるんですが。お聞き下さいませんか?」

 提案?

 それは、アプリルに勝つための方法ということだろうか?


「言ってみなさい」

 どうせ、今の自分に良い案など思い付かないのだ。ならば、聞くだけ聞いてみるのも、悪くないだろう。

こういう、悪役令嬢みたいな子が、人に認められたくて猛烈に努力していたり、心が折れて涙を流すシチュって萌えだと思うんですが。自分だけですかね? こう、ゾクゾクッとしたものを感じるのですが。

なんか頭の中で、ソルちゃんがもの凄え冷たい目で見てくるんですけど?

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