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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第163話:裏切り者達の悩み

 学校の休み時間。スーリエは周囲を見渡し、人目が無いことを確認した。

 そして、立ち入り禁止の立て札の横を通り抜け、奥の階段を昇っていく。

 こういう真似は、本来なら風紀委員の人間としてやるべき事ではないと自覚はしているが。これも、風紀の仕事のためだと自分に言い訳する。


 階段を昇って、天井に突き当たる。突き当たったところには小さな扉があり、扉は南京錠で閉じられていた。

 スーリエはポケットの中から小さな鍵を取りだし、南京錠へと差し込んで開ける。

 鍵は不良時代に手に入れた。というか、南京錠ごと入れ替えた。当時に使われていた鍵を盗んで、南京錠を開け。鍵の複製がある南京錠へと交換。複製の鍵の方を保管場所へと置いておいた。雑な細工であるが、本来滅多に人が出入りするような場所でも無いので、バレていない。


 彼女は扉を抜けて屋上へとよじ登った。

 ふと、笑みが浮かぶ。

 不良時代の頃は、よくここに来ていた。ここから眺める街の風景は、好きだった。誰にもうざったく干渉されることが無くて、どこまでも遠くを見ることが出来て。ちっぽけな自分でも、そのときだけは何か大きな存在になれた気がしたから。


 不良も止めて、風紀委員に入って。ここに来たい気分のことも無くなって。だから久しぶりに、この光景を見たけれど。やはり、この光景は好きだなと、スーリエは思う。

 とはいえ、そんな感傷に浸るために来たわけじゃないと、スーリエは思い直す。


 足元に注意しながら、屋根の更に上へと上がっていく。

 ここ数日、またもや植えられている花や木が傷付けられているようだった。それも、猫によるようなものではない。明らかに、人為的なものだ。

 まだ被害として届け出は出ていないが、エドガーが気にしていたので、スーリエも見張ろうと思ったのだ。


 とはいえ、いつどこに現れるか分からない犯人を隠れて張り込むだとか、そういう真似も出来そうにない。だから、こうして高所から見下ろせば、何かあれば見付けやすいだろうと思った。

 白状すれば久しぶりに、ここからの景色を見たかったという考えも、確かにあったが。


「ちょっと、失敗だったかなあ」

 スーリエは頭を掻いた。校庭とか開けたところは見やすいが、建物の影になっていたりするようなところは、あまりよく見えなかった。これだと、案外と見張れる場所も限られているんじゃないかと思い始める。

 特に、東校舎の裏。人気が少なくて、荒らされるとしたら次はここではないだろうかと当たりをつけていたのだが――


「えっ!?」

 まさにその東校舎裏で、誰かが植え込みの木から枝を折り、あるいは木の実を毟り取っていた。

 急いでスーリエはポケットからオペラグラスを取り出す。

 まさかとは、思った。自慢ではないが、眼はいい方だと思っている。だから、直ぐにその人物に思い当たった。

 だからこそ、見間違えかと思った。


「嘘でしょ? 何で?」

 オペラグラス越しに見えた先で。間違いなく、エリアナがそれらの植物を荒らしていた。

 拡大率が低い上に彼女は顔を背けているので、詳細までははっきりとは分からないが。その歪んだ笑みに、スーリエは身震いした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 今日は、どうしても時間を取って話したいことがある。リコッテにそう言われて、ソルは放課後はいつものメンバーで集まることはせず、寮へと向かった。

「ごめんなさいね。なにぶん、狭い部屋だから。それに、飲み物とかも用意出来なくって」

「ううん。こっちの方こそ、無理矢理に押し掛けてしまって、ごめんなさい」

 緊張した面持ちで、寝台に座るリコッテとスーリエをソルは眺める。ソルは、勉強机に備え付けられている方の椅子に座った。


「それで? 寮に来たら先にそっちの子が待っていたわけだけれど。あなた達の顔から見て、かなり真面目な話のようですわね」

「ええ。そう」

「それで? どういう話なんですの?」

 苦しげに呻いて、恐る恐る。リコッテは口を開く。


「その。本題に入る前に、私はソルさんに謝らないといけないことがあります。それは――」

「あなたがエリアナに通じていた。何て事なら、とっくに気付いていましてよ?」

 ソルが告げると、リコッテは蒼白になった。口を開けたまま、声にならない声を出そうと、わななかせる。


「いつから?」

 声が出ないリコッテの代わりにスーリエが訊いてきて、ソルは答える。

「気付いたのは一ヶ月ほど前。アストルとのデートの帰りで、馬車が暴走したときですわね。リコッテ? あなた、前日に忠告してくれたでしょう?」

「だ、だって……。私」


「それから考えたら、他にも黒い悪魔騒動だとか、観劇の後に妙に甘い言葉を囁いて近付いてきた男優だとか。私の苦手なものや好みの情報を横流ししていたのでしょう?」

 リコッテは頷いた。隣に座るスーリエは彼女の肩を抱く。


「でも、どうしてそれがエリアナの仕業だって?」

「だってあの子、私が転校して早々に生徒会に呼び出して威圧してくるんですのよ? 疑われて当然でしょう? 何かもう、色々と根本的に向いていませんわよ? とはいえ、確証を掴んだのはもっと後ですけれどね?」

 呆れたと言わんばかりに、ソルは息を吐いた。


「そこまで気付いていて、どうして?」

「それに答える前に、リコッテ? あなたの口からどうしても聞いておかないと気が済まないことがありますわ。どうして、こんな真似をしたんですの?」

「頼む。あまりこの子を責めないでやって欲しい。この子だって、苦しい立場だったんだ」

「それは、その子の返答次第ですわ」

 スーリエの懇願に、ソルはきっぱりと言った。


「大丈夫。有り難うスーリエ。これは、私がちゃんと言わないといけないことだから」

 何度も深呼吸して、リコッテは唇を震わせながら、続ける。

「私は、エリアナとは子供の頃からの友達なの。あの子は、子供の頃は引っ込み思案で、大人しい子で。とても今のような、生徒会長とか表に立って積極敵に動くような。そんな子じゃなかったの。だから、私みたいな子とも仲良くしてくれて」


「それが、変わってしまった?」

「ええ。あの子は、変わった。あの子、正式に月婚の儀を交わした訳じゃないけれど。アストル殿下と付き合っていたの。それを知っているのは、私を含めて極数人しかいない。小さい頃から、お稽古事や厳しい躾の重圧に苦しんでいた彼女だったけれど。その頃は本当に、幸せそうだった。二人っきりの秘密の徴とかも持っているとか、そんな事を言っていた」

「でも、別れたのよね?」

 リコッテの顔が苦しげに歪む。


「そうよ。ある日突然、アストル殿下の方から別れを告げられたそうなの。どうしてそうなったのか、理由は分からない。あの子がどれだけ絶望したことか。私はそれを思うと、アストル殿下に対しては、複雑な思いを抱いている。でもそれからしばらくして、あの子は変わった。いいえ、変わろうと、努力を始めた」

「どういうことですの?」


「絶対にまた、アストル殿下を振り向かせてみせるって。彼に相応しい女性になってみせるんだって。積極的に表に出て、それまで以上に勉強に励んで。本当に、本当に努力してきたのよ。私はそれを応援したし尊敬もした。眩しく思っていた。だというのに――」

「私が、ここに来てしまった」

「ええ、その通りよ」

 抑揚の無い声で、リコッテは答えた。


「私はね。正直言って、ソルさんを恨んでいる。もっと、憎たらしくて、全然アストル殿下に相応しくない女の子だったなら、こんなにも苦しい思いをしなくて済んだのにって。純粋に、遠慮なくエリアナに協力するだけでよかったし、あの子もあんな真似しなくてよかったのにって」

 リコッテの泣き笑いに対して、ソルは何も言えなかった。


「リコッテ? それだけじゃ、ないでしょう?」

「どういう意味?」

「しらばっくれても無駄ですわ。アプリルに近付いたのも、エリアナの差し金でしょう?」

 乾いた笑いをリコッテは漏らす。


「凄いね。そんなところまで分かっちゃうんだ。別に、黙っているつもりは無かったんですけど。うん。でも、その通りなの。私がアプリル君と付き合うようになったのは、エリアナに言われての話。アプリル君とアストル殿下が友達になったから、少しでもアストル殿下の情報を手に入れるため」

「なら、本当はアプリルのことは何とも思っていない? 彼の心を弄んでいるだけですの?」


「違うっ!」

 リコッテは叫び、首を大きく横に振った。

「私は本当に、アプリル君のことが好きです。切っ掛けは確かにそうだったけれど、本当にアプリル君が私に合わない相手だったなら、エリアナも無理矢理そんな真似はさせなかった。それに、前にも言ったけれど、彼は精一杯に私を見てくれて。こんな、誰も好きになってくれないと思っていたような私を想ってくれているの。だから、本当の本当に、好きなの。信じて、下さい」


「ソル。本当に、これは私からもお願いするよ。この子があんたを裏切っていたのは、エリアナに対する友情だけじゃないんだ。この子の恋人の将来とか、色々あってのことなんだ。エリアナに今の話がバレたらこの子達がどうなると思う? それでも、こうしてあんたにこうして話をしているんだよ。どうか、許してやってくれないか?」

 涙を流し、嗚咽するリコッテを見ながら、ソルは深く息を吐いた。


「私が、どうして『そこまで気付いていながら』これまで何も言ってこなかったか、答えますわ」

 ソルは頬を緩める。

「私も、あなたと友達でいたかったからでしてよ。リコッテ? あなた、私のことも友達だって思ってくれたから、ああして忠告してくれたんでしょう?」

「だって、心配になって――」


「アプリルについても、あなたが本気で彼を想っているなら。今の話は私から彼には何も言いませんわ。友達を悲しませたくはありませんもの。彼を蔑ろにしていたというのなら、それは絶対に許しませんでしたけれどね」

 ソルの答えに、リコッテは両手で顔を覆った。


「それで? スーリエ? さっきのリコッテの告白もそうですけれど。あなたがこうしてここに来たっていうことは、つまりは例の約束の話ということ。と、考えていいんですのね?」

「そうなるわ。ひょっとしたら、私の単なる思い過ごしで、先走っているだけかも知れないけれど。嫌な予感がしてならないのよ」

「構いませんわ。むしろ、こうして交わした約束を守ってくれたことを嬉しく思いましてよ」

 と同時に、これは最も望ましくない事態へと進み始めているという意味でもあり。ソルは内心で舌打ちした。

不良時代スーリエ「あははははは。人がゴミのようね」


ソル「――とか、やっていたんですの?」

スーリエ「えぇっと」

ソル「分かりますわ。その気持ち(サムズアップ)」

スーリエ「(サムズアップ)」

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