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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第二章:学友編】
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第14話:傷付けられたプライド

 夜になり、ソルは机に向かう。

 目の前には返却された答案用紙。

 その答案用紙と、出題箇所を再確認する。

 そこには、覚えがある。決して、油断して抜けていた箇所では無い。いずれも、些細なミスによるものだ。


 家族は温かく褒めてくれた。彼らのその言葉には、嘘偽りは無いだろう。この世界に来て一緒に過ごして観察し、確認した人格もそうだが、敵対するような利害関係が存在しない。だから、この人達は自分を蔑んではいない。

 思えば、前世ではこのような家族を欲していたように思う。結局、母を切っ掛けに父も殺し、親類も手に掛けることになったが。

 しかし、そんな称賛の声が、どこか遠い。


 煮えたぎる怒りを心の奥に隠し、笑顔の仮面を被ることが、辛かった。

 ようやく独りになれる時間。

 ソルは笑顔の仮面を剥がし、ぎりぎりと親指の爪を噛んだ。


 アプリル=ナシア。ソルを下し、学園トップの成績を取った男。

 プライドを傷付け、障害として立ちはだかる者だ。

 邪魔者は消す。叩き潰す。ソルの中に、それ以外の選択肢は存在しない。

 ではどうするか?


「――ダメね」

 真っ先に思い付いた。「殺す」という手段は却下した。

 倫理的な問題ではない。リスクの問題による判断だ。殺害というのは、手段であって目的では無い。そこを履き違えてはいけない。


 目的は、自分こそが最も優秀であると知らしめること。その上でよりよい条件の未来に辿り着くこと。辿り着く可能性を高めることだ。

 前世では様々な人間を殺害はしたが、いずれも条件を整えた上での実行だ。「警告」で降りてくれるような相手ならば、それ以上の深追いはしなかった。

 それに対し、今生ではまだ、力、時間、情報その他諸々が足りない。「殺害」を実行することが、その先に辿り着くことのリスクにしかならない。


 脳裏に、今生での家族の存在がちらつく。失敗すれば、彼らを失う。そんな結果は、よりよい条件の未来の姿には、成り得ない。

 社会的、精神的に攻めていくのも、恐らくは無意味だ。例えば、交友関係からの切り離し。これも、あのアプリル=ナシアという少年は既に孤立している。ずっと、本を読んでいるような根暗な男だ。初めから無いものは、奪いようが無い。

 また、仮に成功したとしてもメリットは薄いかも知れない。「アプリルがいないから一位を取れるようになった女」という評価では、意味が無いのだ。


 色々な方法を考え、却下し、そして一つの結論に辿り着く。

「正攻法しか、無さそうですわね」

 そして、今度こそ叩き潰すのだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 リュンヌが溜息を吐いた。

「根、詰めすぎではないですか?」

 毎晩の様子に、彼も何か思うところが出てきたのだろう。

 無言で、軽く菓子を摘まみ。そしてまたノートへと集中する。


「そんなにも悔しかったんですか? アプリルに負けたことが」

 その名を聞いた途端、ソルは歯を食いしばった。

 殺気が伝わったのだろう。リュンヌは肩を竦めた。

 ちなみにこいつは、上の中くらいの成績を取っていた。屋敷に勤める者として、それなりに面目を果たした格好ではある。なので、そこで満足していられるのだろうが。


「ですが、ソル様のお体はまだ成長過程なんです。今はまだお若いから、それ程気にしなくていいでしょうけど、夜更かしはお肌の大敵って聞いたことありませんか?」

 その話は聞いたことがある。

 だから、許容できるであろうギリギリまで、こうして勉強に時間を費やし、集中するのだ。


「胸、育たなくても知りませんよ?」

 そこが、我慢の限界だった。

「お黙りなさいっ!」

 ソルは立ち上がり、リュンヌに向かって手を振り上げた。

 いつぞやのように、ひらひらとリュンヌには攻撃を躱され続けてしまったが。

ソル「やられたらやり返す。傷付けられたプライドは、倍返しですわっ!」

リュンヌ「何か、どっかの銀行員と赤いのが混ざってますね」

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