第13話:邪魔者
ソルちゃんの学校にも中間試験の時期がやって来ました。
学校が始まって、春も半ば。
中間試験が迫ってきた。
成績如何によっては、よりよい就職。あるいは進学といった立身出世の可能性も拓ける。とはいえ、それも狭き門のため、多くの学生にとっては関係の無い話だが。
だが逆に、良い家柄に生まれた者にとっては、それこそが家柄を支える要素の一つだ。人の上に立つ宿命を背負った身として、少しでも良い成績を残せるように励む者もまた、少なくない。
「今更なんですが少しだけ、意外ですね」
「何がですの?」
夜。机に向かいながら、ソルは明日のテストに備えて復習を行う。念入りに、漏れなく授業で学んだこと。あるいはそれ以上のことを確認する。
「いえ、日頃から前世の知識もあって、勉強なんて余裕綽々といった態度を取っている割には、いつもこう勉強熱心といいますか。努力家ですよね。ソル様って」
ふん。と、ソルは鼻を鳴らした。
リュンヌは、彼に頼んでおいたホットミルクと菓子を机に置く。
毎晩、というわけではないが、割と頻繁に彼にはこうした頼み事をしている。単純に疲れを癒やしたいというのもあるが、少しは気分転換にもなる。
「勉強、お好きなんですか?」
「別に? そういう訳ではありませんでしてよ?」
「にしては、根の詰めすぎではありませんか? ソル様なら、そこまで勉強に励まなくても、優秀な成績を取れると思いますが?」
「でしょうね。それだけの自信はありましてよ」
「では何故?」
冷ややかに、ソルはリュンヌに視線を返した。
「その油断に、足元を掬われるつもりはありません。ただ、それだけですわ。僅かな油断が身を滅ぼした例など、歴史に多くありましてよ?」
「いや、たかが中間試験に大袈裟すぎやしませんかね?」
リュンヌは半眼を返してくる。
ソルは嘆息した。まあ、所詮言っても分からないだろう。何事も、疎かにする者は、それ故に道を拓けない。凡夫にその志を分かれという方が無理か。
「ひょっとして、飛び級進学でも狙っているんですか? 確かに、王都とかにいる人達に近付くには、その方が早いとは思いますけど」
「そうね。それも少し考えているわ」
ソルは首肯する。
「けれど、それ以前に知らしめておくべきだと思うのよ」
「何をですか?」
「この学校の、誰が最も優秀な者なのかっていうことをね」
ソルはにたりと笑みを浮かべた。
リュンヌは呆れたように、額に手を当てたが。
「いやだから、なんでこう。あなたはそういう、正ヒロインが絶対やっちゃ駄目な顔をするんですかね?」
「五月蠅いですわね。そういうリュンヌの方こそどうなのよ? そんな顔して、実は隠れて滅茶苦茶勉強していたりするんじゃありませんの?」
「してませんよ。まあ、流石にあまりに酷い成績にはならない程度には、ちゃんと勉強してますけど。ソル様には負けますって」
そう言ってリュンヌは苦笑を浮かべる。
そんな彼に対し「本当に本当なんでしょうね?」と、ソルは疑いの目を向けた。
試験前の「自分は勉強してないから」という奴ほど、信用ならないものだとどこかで聞いた気がする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
中間試験の結果発表。
結果を眺めるソルは、拍手に包まれていた。
「流石ですわソル様」
「凄いですわソル様」
「ソル様って、本当に頭が良いんですのね」
取り巻き達に祝福されているが、その声はどこか遠くに聞こえた。
結果は、二位。
ほぼ、満点の成績だった。しかし、僅差でその上がいた。
名前は、アプリル=ナシア。
聞き覚えはある。ただ、興味が無かった名前だ。自分とろくに接点の無い、有象無象に埋もれた一人。
無表情に、ソルは彼の姿を探した。そして、見つける。
遠巻きに、彼は結果を眺めていた。
如何にも農村で生まれ育ったという見窄らしい姿を晒しながら。
「ソル様、どうしたんですか?」
町長の娘が訊いてくる。
ソルはにこりと微笑んだ。
「いいえ、何でもありませんでしてよ」
アプリル=ナシア? 次は無いと思いなさい。
ソルは決意を心の奥底に深く刻み込んだ。
リュンヌ「二位じゃダメなんですか?」
ソル「そんな弱気な根性で、勝ち残っていけるかあっ!!」
ソル「よしんば私が世界二位だとしたら?」
リュンヌ「世界……一位です」
ソル「……(むふ~っ!)」




