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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第147話:追い詰める者と追い詰められる者

 放課後の図書室にて。

 ソル達は書類の束と格闘していた。

「悪いですわね。あなた達にも手伝って貰ってしまって。でも、本当に助かりますわ。このお礼は、いずれきちんとお返ししましてよ」


 ソルが持ってきたのは、エトゥルの仕事に使う書類を一部伏せ字にして複製したものだ。正確には、その一部だ。

「それはいいわよ。昨日も言ったじゃない。友達が困っているんだから、助けたいって思うのは当然でしょう?」

 リコッテの言葉に、ソルは微笑む。その言葉は、本当に心に沁みた気がした。


「それにしても、随分とあるわね。これだけ用意するのは、大変だったんじゃないですか?」

「そうでもなくってよ? 単に、何も考えずに所定の場所に数字を書き写しただけですし。この伏せ字の書式も、弟の発明でいくらでも用意出来ましたもの」

「弟さんの発明? 先日に見せた、ビックリ箱鞄を作った?」

 ソルは頷く。


 アストルが口を開いた。

「ああ、主に使ったのは私だったが、あれは凄いものだと思ったよ。持ち運びが出来る小型の活版印刷機だったのだけれど、一度こういう元を用意しておいたら、あとはインクを塗って紙に押し付けていくだけで済むんだ。短時間で、次々と同じようなものが刷れた」


「これ、アストル様が? ソルさん、アストル様にそんな事をさせたんですか?」

 それを聞いたリコッテは、少し引いた表情を浮かべた。確かに、王族にそんな下働きのような真似をさせるとは、聞く人が聞けばそんな反応にもなるだろうと、ソルも思う。


「いいんだよ。それは、私が言いだしたことだから。私も、少しでもソルの力になりたくてね。それに、やってみるとなかなかに楽しかったよ。私にはそういう趣味は無いが、版画作品を創る芸術家達も、ひょっとしたらこういうのが面白いのかも知れないと思った。それに、ソルも書き写すのに忙しかったからね」

「なら、いいですけど」

「それに、アストルも。他の貴族が代わりにやろうか申し出たんですけれど、断っていたんですのよ?」

 少しだけ上擦った声で、ソルは言ってやる。


「いやまあ、ね? ほら? 折角だからさ」

 アストルが譲らなかった理由は、ソルには想像が付く。その意味が分かるからこそ、嬉しいし気恥ずかしい。

 そして、自慢したかった。

 照れくさそうに顔を背けるアストルとソルを見て、リコッテは「ああ、そういう」と呟いて半眼を浮かべた。

 要するに、二人の共同作業というイチャイチャ感を満喫していたのだ。


「ちなみに、お父さんの容態はどうでした? ソルさん達が部屋に飛び込んだら喉元に刃物を押し当てていたって、本当に驚きましたし、心配なのですけど」

「そちらは、一日休んだら落ち着いたように見えましたわ。今もまだ、ちょくちょく弱気に傾いているけれど、あそこまで馬鹿な真似はもうしないと思いましてよ」

「そう。それは、本当によかった」

 心から安堵したように、リコッテは胸を撫で下ろした。


「それにしても、あなたは相変わらずですわね」

 ソルはアプリルを見て、感嘆と呆れが混じった声を上げた。

「ん? 何が?」

 アプリルは書類から顔を上げ、キョトンとした表情を浮かべた。


「いえ、想像はしていましたけれど。片付けていくのが速すぎましてよ」

「でしょう? ソルさんも凄いですけれど」

 「自慢の恋人です」とでも言いたげに、リコッテは胸を反らす。

 黙々と作業を進めていたというのもあるが、アプリルのところは積み上げた書類の消化ペースが明らかに速かった。ソルも多少の自信はあるつもりだったのだが。


「いえ、助かりましてよ」

 ソルは苦笑を浮かべる。この男と張り合っても、もはや仕方のないことだが、やはり勝つのは難しいようだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 オルトランは、唇を噛みながら俯いた。

 握った拳が震える。心臓が握りしめられているような錯覚を覚えていた。

 目の前の席に座る少女は、自分の年齢の半分かそこらだというのに、それだけの威圧感を彼は感じていた。

 しかし、それでも。黙りこくっているわけにはいかない。このまま、主導権を奪われては更に事態を悪化させる事にもなりかねない。それだけは、避けたかった。


「どうして、教えて下さらなかったのですか」

 恐怖を飲み込み、オルトランは訊いた。

「何がですの?」


「あの男。エトゥル=フランシアが。アストル殿下の月婚相手の父親だという事です! どうして、前もって教えて下さらなかったのですか」

 オルトランは声を荒げる。

 一度吐いてしまえば、恐怖は和らぎ、代わりに押し込めていた感情が漏れ出た。

 そんなオルトランに対し、彼女は実に冷え切った眼を向けてきた。長々と、溜息を吐いてくる。心底、つまらなさそうに。


「で?」

 そんな彼女の態度に、オルトランは再び気圧されそうになるが、踏み止まる。

「『で?』ではありません。あんな真似。殿下に対して。私が、殿下からどんな風に思われたか。こんなの、あんまりではありませんか」

 伯爵の肩書きを持っているとはいえ。いや、ある意味では持っているからこそ、王族から不興を買うのは避けたい。貴族として、当たり前の感情だった。


「あらあら?」

 少女は、口元に手を当てて嗤った。

「つまり、あなたはこう言いたいのかしら? 知っていたら、私の頼みを断っていたつもりだと。そういうことですの?」

 オルトランは少女を睨みながら、唇を震わせる。その答えだけは、どうしても口に出来なかった。


「そんな事が、出来るつもりでいるんですの? そんな事をして、どうなるか想像が付かないんですの?」

 先ほどより圧を込めたその声に、オルトランは呻くことしか出来ない。

 たっぷりと、数十秒ほどを待って、少女は口を開く。

「よおく覚えておきなさい。自分の立場っていうものをね」

 何も言い返すことは出来ないまま、オルトランは歯を食いしばった。


「さて。私がここにあなたを呼んだ要件は、ただ一つ。ソル=フランシア。あの女、どうやら人手を使って溜まった仕事を片付けるつもりだと聞きましたわ。そこのところ、どうですの?」

「『どう』? とは?」

「成功する見込みですわ」

 オルトランはハンカチを取り出し、額から汗を拭った。


「正直に申し上げますと。成功する可能性は、かなり高いと思われます。あの、ソル=フランシアという少女。ただ者ではありません。何と申しますか。未経験のはずなのに、まるで何年もあのような仕事をやり慣れたかのように、一目見て、少し説明を聞いただけで内容や要点を把握していました。信じられない。それも、殿下も同席し確認した上でやり方を決めて。あれは、もう難癖の付けようがありません」


 自分も親馬鹿な方だと思っていたが。エトゥルも散々に娘を自慢していた。そして、あんな娘なら確かにあれほどに自慢もしたくなるものだと思う。

「それで?」

 少女の冷え切った口調に、オルトランは身震いする。


「ですから、如何とも――」

「何とかしなさい。いいですわね?」

 有無を言わさない少女の反応に、オルトランは目を閉じ、頷いた。


「いいですこと? くれぐれも、馬鹿な真似は考えないことですわ。この言葉の意味をよく理解なさい」

「分かっています」

 それはもう、嫌と言うほどに。


「ですが最後に、一つだけ申し上げさせて下さい」

「何ですの?」

 オルトランは息を整える。これから言う一言は、それこそ自分の首を絞めかねない真似だ。しかし、言わずにはいられない。


「もう、こんな真似は止めて下さい。こんな真似、続けてはいけません。続けたら、あなたは地獄に落ちてしまいます。ですから、お止め下さい。お願いです」

 エトゥルが死を選ぶ寸前だったと聞いて、本当に肝を冷やした。彼を追い込んだ張本人が言うのもおかしいが、踏み止まってくれたことが、せめてもの救いだった。そう、オルトランは思う。


「そう。覚えておきますわ」

 それでも、何ら感情が揺れ動かない少女の返答。

 彼は頭を下げ、少女に踵を返し、退室した。

ソル「ここにベタを。そして、ここはベタフラをお願い」

リコッテ「ソルさん、アミカケとホワイト終わりました」

ソル「ありがとう。仕上げは私がやっておくわ」

リュンヌ「あなた達、別の事していませんか?」



ソル「――というわけで、今度はこの小型活版印刷機を売り込もうと思いますの」

リュンヌ「いいと思います。こんなものを作るとは、流石はユテル様」

ソル「商品名も考えていますわ」

リュンヌ「ほう? 名前は?」

ソル「プ〇ントゴッコ」

リュンヌ「怒られるから、その名前は止めましょう」

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