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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第138話:変化の兆し

明けましておめでとうございます。

年末は色々と立て込んで、投稿間隔が空いて申し訳ありませんでした。

今年は、完結を目指して頑張ります。今年もソルの恋をよろしくお願い致します。

 その晩、ソルはリュンヌを部屋に召還した。

 いつもの通り、彼は恭しく頭を垂れて部屋に現われる。ただ、今日の彼はどことなく上機嫌に見えた。理由は、何となく想像がつくけれど。


「こんばんは、ソル様。ご用件を察するに、今日のデートでのアストル殿下に対する惚気話だと思いますが。如何でしたか?」

 笑みを浮かべながら訊いてくるリュンヌに対して、ソルは複雑な表情を浮かべた。

 そんなソルに対して、リュンヌも小首を傾げる。


「何か、問題でも?」

「うぅん。問題っていうほどでもないのですけれど。デートそのものは楽しかったのですのよ? ええ、本当に」

「なら、なんでそんな憂いをにじませた表情しているんですか?」


「そうですわねえ。こういうのをなんて言えばいいのか私にもよく分からないんですの。不満というのとは少し違う気がしますし。強いて言うなら、我が儘かしら?」

「はあ、我が儘ですか?」

 ソルは頷く。


「何とかして、アストルと二人っきりになれる時間が欲しいですわ」

 そんな、ソルは胸に疼く思いを打ち明けた。が――


「何ですのその目は?」

 リュンヌは半眼を浮かべてきた。

「いえ? 何でも? 今まで散々にソル様の我が儘に振り回されてきた身としては、ほんのちょっと思うところがあっただけです。まあ、自分とは違い相手は殿下ですし? 意中の相手を想い慕うヒロインの反応としては、至極真っ当だとも思うのですが」


「何か文句がありまして?」

「いえ? 全然? 文句は無いんですけど、何でしょうね? 調子が狂うといった感じなんでしょうか?」

 顎に手を当てて唸るリュンヌに、ソルは目を細めた。


「吐き薬が欲しいなら、素直にそう言いなさい?」

「うわぁ。いつものソル様だ。安心しました。吐き薬は心底勘弁して欲しいですけど」

 そう言っておどけるリュンヌを見て、ソルは嘆息する。


「真面目に聞く気が無いなら、もういいですわ」

「待った。待ってください。僕が悪かったですから。拗ねないでください。真面目に聞きますから」

 慌てた様子をリュンヌは見せてくる。ソルは尖らせた唇を元に戻した。


「でも、僕も詳しいことは分かっていないのですが。ソル様、アストル殿下とは二人っきりの時間はこれまで無かったのですか? ほら、先日はお二人で劇場に行ったりもしたじゃないですか?」

「しましたけど。何だかんだで人目につきますわ。それに、学校ではアプリルやリコッテも同じことが多いですし」


「今日のデートは?」

「護衛にリオン。そして、リオンと恋仲の女も一緒に来ましたわ。そういう二組で、城にある庭や森を見て回って、草や花を採集しましたわ」

「なんでまた、リオンの恋人まで?」


「私達が作っている化粧品が縁でリオンと近付くことが出来て? それ以来、愛用しているから興味があるし手伝いもしたいっていう話でしたわ」

「なるほど」

 特に、今日の彼女はひっきりなしにソルに絡んできていたように思う。友情を育みたい。化粧品などの話をもっとよく聞きたいという気持ちはよく分かるし自然な態度だとも思うのだが。


「レナっていう人なんだけど。実際、いい人だとは思うわ。リオンの方は相変わらず奥手なところがあるようだけれど、そんな彼を包み込んで支える包容力みたいなものを感じたわ。明るくて勉強熱心で。あの調子だと、リオンが折れるのも時間の問題ね」

「いやもう、そうやってリオンと一緒に来るあたり、リオンはもうまるで拒めていないというか。とっくに折れているでしょそれ?」

「そうかも知れませんわね」

 リュンヌに同意し、ソルは苦笑を浮かべた。


「でも、レナが悪いわけではないですし。私も、彼女やリオン達と一緒にいることで、デートが盛り上がったというのも分かっているんですのよ?」

「それはそれとして、アストル殿下と二人っきりでいる時間はほとんど取れなかったのは少し残念だった。と、こういうことですね?」

「そういうことですわ」

 なるほど。と、リュンヌは虚空を見上げる。


「ちなみに、どういうシチュエーションで二人っきりになりたいとか。二人っきりでどう過ごしたいとか。そういう希望はあるのでしょうか? いや、あまり生々しい話されても困りますけど」

 ソルは微苦笑を浮かべた。

「そこまでは、深く考えていませんわ。ただ、私はあの人の傍にいられるなら、きっとそれだけでいいのですわ」


「じゃあ、例えば二人で夜に星を眺めながら語り合うとか?」

「いいですわね」

「ゆっくりとお茶をしながら語り合うとか?」

「そうそう」


「草原を馬に乗って駆け回るとか?」

「上々ね」

「お疲れの殿下を膝枕したりとか?」

「気分が高揚しますわ」


「そして、そのまま流れ次第ではそのままキスにでも持ち込みたい?」

 リュンヌの言葉に、思わずソルは顔が熱くなる。

「でゅふ❤」

「そのだらしない顔だけは絶対に、止めてくださいよ?」

 ソルは緩んだ頬を両手で挟む。それでも、緩みを止めるのは無理だった。


「だって、仕方ないじゃありませんの? どういうのがいいかって言われましたら? まあ、私の方からせがむのははしたないと思いますけれど? それなりのムードあるシチュになったら、キスして欲しいって思うのは当然でしょう?」

「まあ、確かにその通りだと思います。男としても、そういう望みはあるものですから。殿下にもあるでしょうね」


「で、ですわよね? 殿下もきっと、心の奥ではそう思ってくれていますわよね?」

「ええ。きっと」

 リュンヌの柔らかい笑顔に、ソルは勇気づけられた。胸の前で拳を固く握り、何度も頷く。


「と、いうわけで話は戻りますけれど。どうすればアストルと二人っきりになれますかしら?」

「素直に、言ってみたらどうですか? 何か考えてくれると思いますよ?」

「それは、そうかも知れませんけれど」

 ソルは言葉を濁す。


「何かご懸念でも?」

「どう考えても、誰かが護衛か何かに付くような気がするのよ」

「そう言われると、難しいかも知れませんね。すみません。僕にもいい案は思いつきません。いずれ、機会は訪れると思いますので、殿下には言っておくべきとは思いますけど」

「やっぱり、今はそれが限界かしらね」

 ソルは切なく嘆息した。


「それはそれとして、リュンヌ?」

「はい、何でしょうか?」

「あなたとお父様。私と別れた後に、いったいどこに行ったんですの?」

「どこって。別におかしなところには行っていないですよ? ソル様に言っていたとおり、お屋敷に送るお土産とかを探したり。通りの軽食屋で色々と思い出話や近況を話し合ったり。そんな感じです」


「へ~え?」

 ソルはじっとりと湿った視線をリュンヌに送った。

「な、何ですかその目は?」

「あなた達って、本当に分かりやすいわよね?」

「あの? 何か疑っています?」


 ソルは大きく頷く。ここまで分かりやすい態度だと、一周回って愛らしさすら覚える。ここで一瞬、視線を逸らしてくるなど本当に素直だ。

 ソルはにっこりと笑顔を浮かべた。


「今度は,、何冊仕入れたんですの?」

 その問いに、リュンヌはびくりと体を震わせた。

 それから数分ほど、にこにことした笑顔を浮かべ続けると。リュンヌはようやく観念した。


「――お願いですから。ティリア様には黙ってて下さい。あと、没収は勘弁して下さい」

 そう、彼は絞り出すような声で言ってきた。

 ソルは嘆息した。


「まあ、あまりにも目に余るような常軌を逸した内容だったり、大量購入でなければいいですわ。お母様も、そこは覚悟していましたし」

「その言い方からすると、ティリア様からも言われていたのでしょうか?」

「ええ、ちゃんと釘を刺してって頼まれましたわ」

 やれやれとソルは肩を竦める。リュンヌは乾いた笑いを浮かべた。


「他には、あるかしら? 言っておきますけれど、この私に隠し事をしようなんて、無駄でしてよ?」

「それはもう、よく分かってます」

 そう言っているくせに、ああいう真似をするのだから、男というのは馬鹿だとソルは思う。


「まあ、隠し事と言うほどのことでもないのですが」

「まだ、何かありますの?」

「ああいえ。本当に大した話じゃないんですよ。ソル様を心配させたくなかったからとエトゥル様は仰っていましたが。エトゥル様、どうやら異動になったようです」

「異動?」

 ソルは眉をひそめた。


「詳しくは知りませんが。お仕事の内容が、これまでのソレイユ地方やその周囲のものではなくなるそうです。急な人手不足だとかなんだとかで。これを成功させれば、上の覚えもよくなって、ソル様の役に立てるようになると意気込んでいましたけど」

「あら、そうなの? 上手くいくと、いいですわね」

 心の中で、ソルは父を応援した。

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