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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第136話:アリバイ

 軽く唸って、エドガーは質問を続けてきた。。

「それじゃあ、ソル。君のアリバイについて聞かせて欲しい。君は、今から遡って一時間程度の間、常に人目につく場所にいた?」

 ソルは首を横に振る。


「いいえ、10分かそこらですけれど。家政科の授業中に生徒会から呼び出しを受けて、一人で教室を出て生徒会室へと向かいましたわ」

「生徒会に? あなた、何を言っているんですの?」

 静かに、そして鋭くエリアナが言ってくる。

 続いて、「ほら、やっぱり」といった囁き声が、風紀委員の女子達の間から湧いた。


「その口ぶりだと。やはり、生徒会は何も知らなかったようですわね?」

「当たり前ですわ。そんな出鱈目――」

「ですが、これは家政科のクロエ先生から確かに言われたことなんですのよ。証言は彼女に聞けば分かります」

 捲し立てようとするエリアナを遮って、ソルは答えた。


「そして、これがまたおかしな話なんですのよ? クロエ先生に聞いても、伝言を伝えた生徒が誰か、はっきりしませんの。どうやら、私達とは別の学年らしいけれど。兎に角、生徒会に来て欲しいの一点張りだったとか」


「それで? 生徒会に向かって、君は誰かと会ったのか?」

「いいえ? 生徒会室は閉まっていましたし。部屋の前にも誰もいませんでしたわ。結局、そのまましばらくそこで待っていたけれど、誰も来ませんでしたし。そのまま、授業に戻りましたわ。用件がさっぱり分からない上に、私の方にも呼び出されるような、そんな思い当たる節も無いから、誰かの悪戯かと思っていましたわ」


「分かった。有り難う。クロエ先生には、後でその話を確認に行くよ」

「ええ。よろしくお願いしますわ」

 ソルはエドガーに向かって頷く。


「ちょっと待って。でも、それだと本当に生徒会に向かったかどうか分からないじゃない。その証拠はあるの?」

 エドガーの後ろにいる、風紀委員の一人が訊いてくる。そんなもの、どんな証拠を揃えろというのか。ソルは軽く嘆息した。

「そんな証拠はありませんわ」

「なら――」


「ですが、私が犯人ではない証拠なら、ありますわ」

 冷静な口調で、ソルは宣言した。その宣言に、どよめきが湧く。

「証拠? 証拠があるのか。どんなものか、教えて欲しい」

「勿論ですわ。証拠は、この鞄ですわ」

 エドガーに対し、ソルは鞄に指を指して見せた。


「鞄? これが、どうかしたのか?」

「まず、あなた達も知っている通り、この鞄は私達がここに戻ってきたときには開けられた状態でしたわ」


「その通りだ。しかしそれは、犯人が君じゃないという証拠にはならないよ。もし仮に、君が犯人だとした場合、袋を隠した後に鞄を施錠していないのは確かに不自然だけれど。施錠しない状態にしておくことも又可能だから」

 「そうだそうだ」と、エドガーを取り巻く風紀委員の女子達が続く。

 ここまで来ると、ソルには彼女らが露骨すぎて逆に心配になった。周囲から見ると、そうでもないのかも知れないが。


「勿論、分かっていますわよ。ですが、この鞄を閉じることが出来るか、試して貰ってもよろしくて?」

「どういうことだ?」

 首を傾げるエドガーに、いいからとソルは促す。

 それに応じて、エドガーは鞄を閉じようとした。

 その次の瞬間、エドガーの顔に困惑の色が浮かぶ。


「あれ?」

「閉じることが出来ないでしょう?」

「あ、ああ。これは一体、どういうことなんだ?」

 訊いてくるエドガーに、ソルは少しだけ得意げに笑った。

「この鞄はね? 特別製なんですの。盗難防止の仕掛けがしてあるんですわ」

「何だって?」


「故郷にいる弟が、こういうものを作るのが得意なんですの。自慢の弟ですわ。仕組みとしては簡単。実はこの鞄、びっくり箱みたいになっていて、正規の鍵と手順で開けないとこうして床が強力なバネで跳ね上がって、中身をぶちまけますの。そして、ちょっとやそっとでは元に戻せないし、この状態では鞄を閉じることが出来ませんわ。だから、中身を確認したら、もう鞄を持って逃げるのは難しいですわ。それに、これをご覧なさい?」

 今度は、ソルは鞄の中を指さす。エドガーは鞄の中を覗き込んだ。


「見ての通り、この鞄の中はぐちゃぐちゃですわ。まるで、ぶちまけられた小物を拾って、慌てて押し込んだみたいですわね」

「だから。この鞄は犯人によって、一度開けられているということか。しかし、それだけだと。それも、君が犯人だったとしても可能な話だ」


「確かに、その通りですわね。でも、この鞄にはもう一つ仕掛けがあるんですの」

「というと?」

「いくらこんな仕掛けがあっても、鞄ごと盗まれてしまえば意味がありませんわ。中身が散らばっても、持ち帰った部屋の中とかならそれも落ち着いて回収出来ますもの。ただ、その場合でも、ちょっとしたお仕置きは受けて貰いますわ」

「お仕置き?」

 にやりとした笑みをソルは浮かべる。


「私が、薬や化粧品を作って売っているという話は聞いていまして? そして、その中には、強力な催涙スプレーもありますの」

「まさか?」

「そう。そのまさかですわ。不届き者がこの鞄を開けたら、催涙スプレーの中身も噴出されますの。気付いていまして? この、ツンとする刺激臭。間違いなく、発動していますわね。あれを浴びた犯人は、今頃はどうなっていることやら」

 ソルの言葉に、エリアナが息を飲むのが聞こえた。


「あ、あなた。そんなものをこの鞄に仕込んでいたんですの?」

 明らかに動揺した声を上げるエリアナに、ソルは違和感を覚える。

「あら? 生徒会長はご存じですの?」

 エリアナは顔をしかめた。


「噂程度に。ですわ。ですが、あれは本当に。何というものをと思いましたわ。あなたという人は、本当にとんでもないものを――」

 わなわなと、エリアナは震えて言ってきた。そんな彼女の瞳は、雄弁に「この悪魔が」と訴えていた。


「えーと。ごめん、僕は良く知らないんだけれど。生徒会長の様子を見るに、どうやら、本当にとんでもない威力みたいだね。それ。別件で、そういうものを持ち込んでいいのか後日の課題になりそうに思ったけど」

 このエドガーの様子だと、下手したら禁止かなあとソルは残念に思った。


「じゃあ、その催涙スプレーを浴びて、ただで済むはずが無いから。今もこうして平気な顔をしている君は、犯人のはずが無いという。そういう話でいいのかな?」

「ええ。そういうことですわ。勿論、言われるまでもなく、これも完全に私の潔白を証明してくれる証拠ではありませんけれどね。事前に、仕込む催涙スプレーを甘いものにしておいて。その上で計画的に犯行に及んだ可能性とか言われたら、苦しいですわね。同じくらい、素直に鞄に隠さないのも不自然ですけれど」

「確かに、それもそうか」

 エドガーは顎に手を当てて天井を見上げる。


「ところで? 私からもよろしくて?」

「何かな?」

 ソルは、エドガーを取り巻く風紀委員達に視線を向ける。


「この盗難には、いつ誰がどのように気付いて。この教室にあなた達が来たとき、どんな状態でしたの?」

 ソルの問いに対して、気色ばむもの。狼狽えるもの。平静を装うもの。反応は様々だったが、誰もが素直な反応を見せてくれた。

 彼女らからの返答は、無かった。


 その事を不審に思い、エドガーが血相を変える。

「なあ? 何故、答えないんだ? まさか――」

 詰問口調のエドガーに、彼女らから悲鳴が漏れる。


「およしなさい。いきなり言われても、どう説明すればいいのか難しいのでしょう。説明は、この子達が落ち着いてからでもいいですわ。エドガー? あなたは、どうしてここに来たんですの?」

「同じ風紀委員のマリエルさんが、授業が終わって慌てて僕を呼びに来たんだ。貴重品を定期的に確認する当番をしていて。彼女のチェックで、金庫が開けられていて。中身が足りないって」


「そこから、風紀委員室へと向かったんですの?」

「そうだ。そしたら、確かに金庫が開けられていて。それを確認していたら、部屋にやって来たポーラに案内されて、ここに来たんだ」

「そして、あなたが、この教室に来たらもう騒ぎになっていた。そういうこと?」

「そういうことだよ」

 エドガーは肯定した。


「なら、最初にこの教室で異変に気付いたのは誰ですの? どうして、気付けたんですの?」

「それは――」

「ああ、あともう一つ。副委員長はどこにいるんですの? こんな時に、彼女がこの現場にいないというのは、何故ですの? てっきり、エドガーと一緒にいるものだと思っていましたけれど」


 ソルの言葉に、エドガーの顔が歪む。彼としても考えたくない想像が頭に浮かんだのだろう。そしてそれは、まず間違いなく、正しい。

 ソルは、返答に悩む彼女らを見詰める。

 やがて、恐る恐る彼女らは口を開いた。


「一番最初に見付けたのは、スーリエ副委員長です。遠目で誰かよく分からないけれど、怪しい女がこの教室から出ていくのを見掛けたって」

「そう。それで、嫌な予感がして、風紀委員室に行ったら、金庫がって」

「それで、私達が呼び出されて」

「スーリエは、犯人を捜しに行っているんだと思う」


 口々に、そんなことを彼女らは言ってくる。良く出来ましたとソルは彼女らに心の中で称賛を送る。急なアドリブを要求した格好だが、見事に彼女らはソルの期待に応えてくれた。

 もっとも、ここまで状況を整理し、誘導した。あるいは、追い詰めてあげたのだから、それくらい言ってくれないとソルとしても困る訳だが。

 苦々しく、エドガーは溜息を吐いた。


「エドガー。心配しないで。あなたは、最後までスーリエを信じて上げて頂戴」

「勿論だ。君に言われるまでも無い。でも、そう言う君には何か根拠でもあるのか? スーリエが潔白だという根拠が」

 真剣な表情を浮かべて訊いてくるエドガーに対して――。


「女の勘。っていうものですわ」

 ソルは、ウィンクをして答えて見せた。彼に安心して欲しいというのは、間違いなく本心だ。これで、納得して欲しいと思う。

ソル「それにしても、折角用意したのに。これ、出番がありませんでしたわね」

リュンヌ「なんですか? それ」

ソル「ユテルに作って貰ったんですの。ネックレス型変声機械と超強力麻酔針発射装置付腕輪」

リュンヌ「何に使うつもりだったって言うんですか? というか、凄いなユテル様っ!?」

ソル「こんな事もあろうかと? エドガーを麻酔針で眠らせて。私がその裏でこの変声機械で彼の声を真似て推理を語る、そして、彼を名探偵に仕立て上げようかと」

リュンヌ「何でそんな真似を?」

ソル「私が矢面に立つと、面倒くさそうだったから?」

リュンヌ「そんな理由で。というか、そこは仮にも主人公なんだから、表に出て下さい」

ソル「名探偵。眠りのエドガー=コランタン(多分二度と出ない本名)」

リュンヌ「もう、どこから突っ込めと」

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