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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第131話:連続盗難事件と肩が凝る日々

 近頃の学校は、どことなく空気が強張ってきている。

 そんなことをソルは感じている。


 どうにも、ここ数日前から学校のあちこちで生徒の私物を狙った盗難が起きているという話だった。

 ソルも噂について裏取りを行うが、根も葉もない話という訳ではないようだった。いずれの事件についても、被害者や大凡の被害時刻、盗まれた物についての情報が出てくる。


 それもあって、風紀委員会が活動を強化してきた。登下校時の荷物検査は毎日行われ、風紀委員達が鋭く目を光らせて、学校のあちこちを見回るようになった。がさ入れなるものの頻度も上がった。

 お陰様で、私物の没収率も上がっている。然るべき手続きを踏んで、放課後に返して貰えるというのがほとんどだが。


 こういった彼らの活動は、学校の治安維持という意味ではいいのかも知れない。生徒達の自立心という意味でも、教師達への印象は悪くない。

 ただ、やっぱり。こうも緊張感溢れる空気というのは、肩が凝るというのがソルの正直な感想だった。


「早く、犯人が捕まらないものかしらね?」

「そうですね。被害に遭った人達もそう願っていると思うけれど」

 リコッテと昼食を共にしながら、ソルはぼやく。


「それもそうですけれど、こんな風に見張られたんじゃ、食事も喉を通りませんわ」

「確かに。そうかも知れませんね。あの人達も、一生懸命なのでしょうけれど」

 リコッテはそんなソルに、苦笑を浮かべた。

 張り詰めた空気を滲ませて、食堂の中を睨みながら歩く風紀委員の姿をソルはしばし眺める。


「今度は、ペンダントが盗まれたんですってね。一つ下の学年の子の」

「そうみたいですね。高いものではないらしいけれど、それでも、思い出の品だからいつも持っていたそうです」

「今となっては、盗難の危険を抜きにしても、そういうものを気軽に持っては来られなくなってしまいましたわね。以前の風紀委員なら、それくらいの私物であればお目こぼしされていたようですけれど」


「はい。確かに、学校とは関係無い物です。でも、盗難のリスクがあるからっていう意味もあるし、それで没収されてしまうとか」

「その言い分も、分かるんですけれどねえ」

 ソルは大きく溜息を吐いた。


「ソルさんは、こういう雰囲気は苦手なんですか?」

「好きな人間は、あまりいないと思いましてよ?」

「まあ、確かに」


 前世では、そんな冷たく重い空気が大嫌いで、強く反発を覚えていたとも思っている。その一方で、配下の者達には、こういう空気を強いてもいたのだが。

 このあたりは、人にされて嫌だったことだからこそ。他人に同じ真似をしてやりたい。そんな、思いもあったように思う。他の立ち振る舞い方を学びようが無かったとも思うが。


「それに、少し心配でしてよ」

「心配?」

 ソルは声を潜めた。


「リコッテ? あなたも、アプリルから贈られた品をこっそり隠し持ってきているでしょう? 口紅が入っていた箱とか」

「ま、まあそうですけれど」

 彼女にとっては、それがある種のお守りのような存在らしい。

 内心、これを知られたらアプリルには重い女だと思われないかと心配もしているらしいが。ちなみにソルは、アプリルに限ってそれは無いと彼女に答えている。彼なら、素直にリコッテの想いの深さを喜ぶだけだろう。


「ちゃんと、奴らに見付からないようなところに。それでいて、盗まれないようなところに隠しておきなさいよ?」

「そこは、大丈夫ですよ。それにあれは、私以外の人には価値が無いものですから。盗む人もいないと思います」


「何を言っているんですの? 今、噂になっている盗まれたペンダントもそうだっていう話でしたわよ。安物で、そんな価値なんて無いものだって」

「とは言っても、そこはそれ。本人がそう言っているだけで。学校の外から入り込んできた人にしてみれば、高価な物だったかも知れませんし。この学校にいる人達の事を考えると」

「確かにそれもそうかも知れませんけれど」


 とすると、犯人はやはり外部の人間なのだろうか? 犯人その正体についても、噂で色々と言われているところだ。

 しかし、だとしてもこう毎日のように誰かしら何かを盗まれるとか。それほど侵入が容易だとも思えない。


 他に、奇妙なところがあるとすれば、警備隊に被害届が出ていないようなのだ。彼らが捜査のために学校に来たという話は聞かない。リコッテが言う通り、外部の人間にとっては高価な品だったりする可能性はあり。また、そうでなくても盗みが連続しているという事態には変わりが無いのだから。

 学校の名誉のため、内々に片を付けようとしているという可能性も、ありそうではあるのだが。

 ソルは首を傾げる。


「ところで、ソルさんにはそういうものは無いんですか? 殿下からの贈り物とか」

 リコッテの問いに、ソルは少しだけ寂しげに笑う。

「残念ですけれど、まだそういうものはありませんわ。強いて挙げれば、王城の庭にある研究小屋がそうですけれど。あれは、隠し持つには大きすぎますわ」


「確かに」

「私の誕生日は冬で、もう過ぎていますし。逆に、機会がありましたら、私からアストルに何かを贈ってみたいですわね。何がいいかは、何も思い付きませんけれど」

 とはいえ、アストルの誕生日も当分は先なので。そこはゆっくりと考えていけばいいと思っている。


「なら? 殿下から贈って欲しいものとかは、無いんですか?」

 リコッテの問いに、ソルはしばし虚空を見上げた。

「何も思い付きませんわね。きっと、何だろうと贈って頂けたら、私は嬉しく思いますわ」

 ソルは苦笑を浮かべつつ、答えた。

リコッテ「でも、正直に言うと女の子の『何でもいい』が一番男の子を困らせてしまうそうですよ」

ソル「え!?」

リコッテ「その分、一生懸命に贈り物を考えてくれる姿を見せてくれるのも、嬉しいですけれど」

ソル「……その気持ち、分かりますわ(愉悦)」


男性キャラ's「(胃痛がする)」

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