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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第129話:観劇デート

 昔々、あるところにそれはそれは綺麗で可愛らしく、聡明なお姫様がいました。

 お姫様は、いつの日か立派な王妃様になることを夢見て、毎日お勉強やお稽古を頑張っていました。綺麗になるため、大好きなおやつも我慢していました。

 すべては世のため人のため。愛する国民のために。


 そんなお姫様をお城の人達もまた愛していました。

 ところが、そんなお姫様をよく思わない、邪悪な魔女がいました。


 高貴な身分に生まれ、敬われるその姿が憎い。

 高貴な身分に課せられた義務に生き甲斐を感じられる心が憎い。

 難解な勉学を理解出来る才覚が憎い。

 老若男女を惹き付ける魅力的な容姿が憎い。

 未来の幸せを信じて疑わないその笑顔が憎い。


 魔女もまた、若く美しい姿をしていました。難解な魔法をいくつも扱う才覚にも恵まれていました。その住処には、沢山の金銀財宝が蓄えられていました。

 しかし、そんな魔女は人々から疎んじられ、黒い森で生きていました。魔女の楽しみの一つは、遠見の水晶玉で人々の修羅場をのぞき見ることでした。ときには、人里に繰り出して人々の中に混ざり、疑心を煽ったり、浮気を唆したりすることもあります。

 善人面をした人間達が堕落し、卑しい本性をさらけ出して互いを罵り遭う姿は、堪らない愉悦を彼女に感じさせるものでした。


 そんな魔女にとって、偶然見掛けたお姫様の存在は、本当に癪に障りました。ある意味では、とても魅力的だったとも言えるのかも知れません。何故なら魔女は、そんなお姫様から幸せを奪ったら、その時に見せる彼女の姿が、どれほどの愉悦を与えてくれるか期待したからです。

 ここまで、魔女の心を揺さぶる存在は、久しくありませんでした。


 魔女はお姫様が住むお城へと忍び込みました。魔法を使える魔女にとって、そんな事はとても簡単なことでした。

 突然、自分の部屋に現れた魔女の姿に、お姫様はとても驚きます。

「私は貴女に真なる知恵を授けましょう」

 そう言って、魔女はお姫様を騙し、呪いを掛けました。


 その日から、お姫様は変わってしまいました。

 教育係は全員辞めさせ、勉強もお稽古もすべて自分一人でやるようになりました。それでも、頭の良かったお姫様は、ひょっとすると教育係がいた頃よりも目覚ましい早さで知識を習得し、上達していきました。

 美しさにはより拘るようになり、磨きが掛かりました。


 しかし、それまで見せていた柔らかな笑顔は消えて無くなり、他人を蔑んだ冷たい笑みを浮かべるようになりました。容赦が無くなり、気に入らない真似には厳しい罰を与えるようになりました。人々は、お姫様の美貌にも恐怖を覚えるようになりました。

 お姫様のあまりの変わりように、人々は困惑し、困り果てました。

 その様子を眺め、魔女は愉快に笑いました。


 やがてその話を聞きつけ、城に賢者が訪れました。賢者は言います。これは、すべて悪い魔女が掛けた呪いのせいなのだと。

 その呪いとは、愛を奪う呪い。今のお姫様は、世の中のすべてに愛を感じることが出来なくなっていました。人々の営み全てが打算や欲望といったもので解釈されているのです。

 例えば、愛しい人に贈り物を贈ることが、淫らに肉欲を解消するに至るための準備としか感じられず。称賛を送ることが、相手を理想的に動かすための手段としか感じられない。


 そんな風に世界が見えているなら、その世界はとてもつまらない世界に見えることでしょう。これは、そういう孤独で寂しい呪いでした。

 呪いを解く方法はただ一つだけ。お姫様に、愛を届けること。

 お姫様の胸に届くほどの強い愛情が伝わったとき、お姫様は呪いによって封じられた感情を取り戻し、呪いは晴れることだろうということでした。


 それからというもの、国中から沢山の素敵な青年達がお城に集められました。その中には、近隣の国の王子様達もいました。かつてのお姫様の評判は広く知れ渡っており、彼女を妻に迎えたい男達は大勢いました。

 男達は、こぞってお姫様に愛を伝えました。心の底から、真剣に伝えました。

 しかし、お姫様はそんな男達には見向きもしませんでした。


 やがて、男達もお姫様を諦め、一人、また一人と去って行きました。以前のようなお姫様ならともかく、今のような性格の悪いお姫様には、愛も冷めてしまいました。

 それどころか、王様も王妃様も、みんなお城から出て行ってしまいました。

 広いお城には、もう本当に少しの人間しか残っていませんでした。お姫様の他には、近くの国の王子様が一人。近衛騎士が一人。そして、数名の執事とメイドしかいませんでした。


 ある日、お姫様は一人のメイドを折檻しました。それはそれは、とてもむごい折檻でした。そのメイドは、王子様のことを心密かに慕っていて、それがお姫様には気に入らなかったのです。王子様のことを愛してはいなくても、所有物だとは思っていました。

 話があると、王子様はお姫様に近付きました。


「もう、すべてを終わりにしましょう」

 王子様は突然、隠し持っていた短剣でお姫様を刺しました。王子様にとっても、お姫様が内心苦しんでいることは辛く感じていました。そして、自分を慕ってくれているメイドに対する仕打ちを許せなかったのです。これは、王子の苦悩の末の行動でした。


 その光景を見た近衛騎士は、激しく怒り、王子様に斬りかかりました。

 そのとき、お姫様の体に異変が起きました。

 なんと、お姫様の体が二つに分かれたかと思うと。お姫様とは違った美女が血を流して床にうずくまっているではありませんか。


「お前は。あの時の魔女。こんな所に」

 お姫様は驚いて言いました。

 そう、魔女はあの日。呪いへと姿を変えてお姫様に取り憑いていたのです。お姫様の見ている世界は、魔女の見ている世界そのものでした。


「何故? こんな……馬鹿な――」

 血を吐きながら、忌々しげに魔女は呻きます。

 確かに刺されたはずなのに、お姫様の体には傷一つありませんでした。傷はすべて、魔女が受けていました。


「私は、死を目前にして思いました。そこの近衛騎士が、どうして王子に斬りかかったのかと。どうしてまだ、城に残ってくれていたのかと。その理由には、打算が思い付かなかった。故に、私の胸に届いたからです。だから、呪いが解けたのです」


「畜生めえええええええええぇぇぇぇっ!」

 魔女は叫び、煙と共に恐ろしい女悪魔へと姿を変えました。

「お前達。許さない! 絶対に許さないんだからあああぁぁぁっ!」

 近衛騎士と王子が雄叫びを上げて、女悪魔へと立ち向かっていきました。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 激しい死闘の果てに、近衛騎士と王子は女悪魔を打ち倒す。

 女悪魔が捨て台詞を言って最期を迎えた後。お姫様は近衛騎士と結ばれ、王子様はメイドを連れて自国に帰っていく。

 ――そんな劇をソルはアストルと見終えた。


 役者達の演技も演奏者達の演奏も素晴らしく、二人はすっかり見入っていた。評判の劇だというのも頷ける。

 劇団に拍手を送りながら、ソルはアストルへと視線を向ける。


「面白かったですわね。アストルは、どこが一番面白かったですの?」

「そうだね。どこも面白かったと思う。一つ一つ言っていたらキリが無いよ。ああでも、ちょっと気に入らなかったところはあるかも知れない」


「あら? どんなところですの?」

「どうして、お姫様を刺す役が王子の方なんだっていうところ」

 同じ王子としては、役に自分を重ねてしまうのだろう。そんな彼の言葉に、ソルは思わず吹き出す。


「それと、魔女はどうして、ああなってしまったのか? 最初からああだったのか? 勧善懲悪の物語にするという意味では、魔女をああいう絶対悪と描くのは分かるけどね。でも、それを想像すると彼女には救いが無くて、それが少し残念に思ったかな。甘すぎる考えなのかも知れないけれど」


「ううん。そんな事ありませんわ」

 そんなあなただから、好きになっているんですのよ。

 胸中で伝えて、ソルはアストルの手を握った。

ところで、この女悪魔ってむちむちダイナマイトボディでしてね?

ソル「はあ」

「畜生めえええええええええぇぇぇぇっ!」って叫ぶシーン、おっぱいぷるんぷるんするんですよ?

ソル「今どき、誰が分かるのよそんなネタ?」

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