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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第126話:黒幕と宣戦布告

 黒い悪魔達が、ソルの部屋を襲撃した翌日。

 彼女は教室。いや、学校の雰囲気がこれまでとは違うことを鋭く感じ取っていた。


 昨日まで自分に向けられていた視線。そして、交わされている会話。そういうものが違う。自意識過剰や被害妄想の可能性も疑ってはいるが、経験上この感覚が外れたことは無い。

 授業中に、ちらちらとこちらを見ては、笑みを漏らすクラスメイト達の姿に気付く度、ソルは現状を把握出来た気がした。


 随分と、噂が広まるのが早いことですわね?

 確かに、昨日はあのおぞましき虫の姿に取り乱し、大声で泣き叫んでしまった。


 ソル=フランシア。片田舎から転校してきた、見目麗しく頭脳明晰で、王太子の恋人とも噂される令嬢。そんな令嬢が見せた醜態は、さぞかし好奇心を煽ることだろう。

 しかしそれでも、この広まり方には、違和感を覚える。火の粉か風に舞って広がっていくかのような。

 これは、噂が煽られている。ソルはそう、判断した。


 そもそもからして、おかしいのだ。今でこそ、殺虫団子と罠を揃え、部屋に敷き詰めてはいるが。そこまでせずとも、部屋にはそれらを設置していたし、整理整頓もしていた。そして、それで備えとしては十分だったはずだ。

 これが、一匹ならばまだ、偶発的な事故として処理出来る話だったかも知れない。どこからか迷い込んでくる可能性までは、完全には消すことは出来ない。


 しかし、昨日見掛けたのは、三匹。明らかにこれは多い。幼虫からあの部屋に潜んでいたとは、考えにくい。

 となると、奴らは人為的に外部から持ち込まれた。そういうことになる。

 証拠を掴めるかどうかはともかく。事件の真相には推測が立った。ソルはうんざりと、嘆息した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 面倒事は、さっさと片付けることにしよう。

 そう考えて、放課後になるとソルは生徒会室へと向かった。生徒会は学生達に寄り添う存在であるべしという理念から、その扉は常に開かれている。たとえ会議中だったとしても、直ぐには応じられなくても、来客を無下にはしない。

 だから、ソルは遠慮なく、アポ無しで生徒会室に訪れた。


「エリアナ。私を助けて下さいませんこと?」

 生徒会に入り、開口一番でそう言うと、会長の席に座るエリアナが目を丸くする姿が見えた。彼女の裏をかいたことに、ソルは胸中でささやかな満足感を覚える。


「ソルさん? あ、あなたもこの学舎に通う淑女を名乗るなら、ノックくらいなさい。まったく、そんな体たらくで、あの人の隣に相応しいなどと――」

「あら、ごめんなさいね。驚かせてしまったかしら? 私、こういう悪戯が好きなんですのよ」

 全く悪びれる素振りも見せず、ソルは言い切った。

 気色ばむエリアナとその取り巻き達を眺めながら、ソルは手の甲を口に寄せて笑う。この程度の意趣返しはさせて貰わないと、気が済まない。


「それで? ソルさん? 先ほど、私に助けて欲しいと仰いましたわね? どういうことですの?」

「あら? ご存じありませんの? 意外ですわね。先日のご様子から考えて、今この学校で広まっている、私についての噂も、てっきりご存じかと思いましたけれど?」


「全く知らないといえば嘘になりますわね。でも、直接言って貰わないと分かりませんわ。そして、そう言ってくるっていうことは、つまりはその噂の件ということですのね?」

「ええ。そうですわ」

 それを聞いて、エリアナはにたりとした笑みを浮かべた。


「そう。噂は本当でしたのね? あなた、本当にあの虫が心底苦手だったんですのね。でも、残念だけれど部屋の交換は出来ませんわよ。それは、公平性に欠きますもの。寮に空き部屋はありませんし。それに、あの虫が湧くのを嫌がる娘は、あなただけではありませんわ。 その気持ちを無視して、無理矢理に代われという真似も出来ませんわ。どうしても嫌なら、寮を出て行って貰うしかありませんわね。遠路はるばる転校してきて貰って、心苦しいけれど」

「あらあら、それは大変ですわね。私、本当にあの虫が恐くて仕方ありませんのに」

 ソルは自身の両肩を手で抱いて、身震いした。


「その様ですわね。噂では、女子寮中にあなたの悲鳴が響き渡っていたとか? あなたのご自慢の殺虫団子や罠も、実は何の効果も無い欠陥商品なんじゃないかっていう話もありますわね? 同情しますわ。昨晩はよく眠れまして?」

「本当にね。困った話ですわ。まさか私達が心を込めて作った商品にまで影響が出てしまうだなんて。私一人ならともかく、協力してくれたソレイユ地方の領民達や、業者に顔向け出来ませんわ。昨晩も、恐くてほとんど眠れませんでしたし」

 真相は、リュンヌを喚んで、ぐっすりと寝ていたのだが。


「まあ、本当に可哀相なソルさん」

 口を手で覆い、目を閉じてエリアナは頭を振る。

 実に白々しい口調で、わざとらしい素振りだった。もう少し、演技というものを覚えろとソルは心の中でツッコミを入れる。


「でも、大丈夫ですわ。生徒会に頼みたいことは、別にありますもの」

「何ですって?」

 エリアナは目を細める。


「私、近日中に女子寮と。あと、協力者も喚んで、男子寮の方にも徹底的な害虫駆除を行いたいんですの。その許可と周知をお願い致しますわ。これは、学校にとっても有意義なことですわ。如何かしら?」

「何ですって? そんなこと――」


「認めて頂けないなら、私はあの部屋を出るしかないんですのよ?」

「それは。仕方ないでしょう。そんなにもあの部屋が嫌なら、どこか宿を探すなり、学校を辞めて故郷に帰るのが筋ではありませんこと?」

「そうですわねえ。そういう方法しか残っていませんわね。でも、そういう真似は、あまりしたくないんですのよ?」

「どういう意味ですの?」

 怪訝そうにエリアナは釘を傾げた。


「アストルを頼って、当分の間は王城の部屋を使わせて貰うしかありませんわね。あの人はいいって言ってくれましたけれど。でも、いくら、月婚の間柄とはいえ、そういう一つ屋根の下で過ごすというのは、他の人達に知られたら。アストルにも迷惑を掛けてしまうかも知れませんもの。あーあ、でも、本当に仕方ありませんわねえ。頼んでみたけれど残念な事に、無理だったんですもの」


 逆に言えば、これで堂々と。それこそ、一つ屋根の下でアストルと一緒にいられる口実が出来ることになる。

 それこそ、わざとらしくソルは残念がった。ある意味では、本当にこのまま先の要求を断って欲しいくらいでもある。


「巫山戯ないでっ!」

 机を両手で叩き、エリアナは立ち上がる。

「そんな。そんなこと。絶対に――」

 エリアナはソルを睨み、わなわなと全身を震わせた。

 さて、どう出てくるか? ソルは悠然とエリアナを眺める。


 やがて、憤怒の形相を浮かべたまま、エリアナは呻いた。

「分かりましたわ。寮母には害虫駆除の件、許可を貰ってきます。そして、周知にも協力しましょう」

「流石は生徒会長。学校の為になることが何か、よく分かっていますのね」


 両手を合わせ、にこやかな笑顔を浮かべてソルはエリアナを褒め称えた。期待通りの冷静さを持っていたことに対して、心から彼女を称賛する。エリアナにしてみれば、挑発と皮肉にしか聞こえないだろうが。

 一方で、結局アストルと一つ屋根の下生活の口実を作ってくれなかったことについては、胸中で舌打ちする。


 吐き捨てるように息を吐いて、エリアナは再び席に着いた。

「さあ。これで用件は済んだのでしょう? 話が終わったなら、出て行ってくれませんこと? 困っている生徒の来訪は歓迎しますし、出来る限りの助けはしますが。これでも、私達も暇じゃないんですのよ」


「そうね。私の話はこれだけですわ。本当に有り難うエリアナ。なるべく早く許可をお願いしますわ。でないと私、恐くてアストルを頼るしか無くなりますもの」

「分かってますわよ!」

 ソルは踵を返し、生徒会室のドアノブに手を掛けた。

 ふと、立ち止まり、首を回して肩越しにエリアナに視線を向ける。


「ああそうそう? これでもまた、私の部屋だけにあれが出てくるというのなら。それはとても不自然な話になりますわねえ。まあ、あくまでも可能性に過ぎませんけれど? その対策として、防犯対策もしようと思っていますの。忍び込んだが最後、心から後悔するような?」

「一体、何を仕掛けるつもりですの?」


「命に別状は無いけれど。一生、知らない方がいいですわよ?」

 にこやかな笑顔を貼り付けたまま。冷えた口調でソルは忠告した。間違っても、彼女らが再び同じ過ちを繰り返さないことを祈って。

ソル「邪魔するわよ!」

エリアナ「邪魔するなら帰ってや~」

ソル「はーい」

エリアナ「何でですの!?」

リュンヌ「君ら、本当は大の仲良しでしょ?」

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