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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第118話:お熱い二人

 馬車が学校に着いて、ソルはアプリルとリコッテに案内される。

 学舎の規模は、それまでソルが通っていた学校に比べて2倍程度だった。とは言っても、生徒数がそのまま2倍という訳ではない。生徒数は、1.2倍かそこらという話だった。


 ここは、門戸が広く開かれているわけではない。主に王都とその近郊の有力者の子息や子女。それも、優秀な者達が集まる学校である以上は、学生数もそれだけに限られることになる。

 無論、アプリルのように、王都から遠く離れた地からやってくる者もいるにはいるが、そういう存在はどうしても限られていた。


 それでも学舎の規模が違うのは、図書館など施設の充実度が違うというのが大きい。それから、生徒を狭い教室に詰め込んで、小さな机に座らせるということもない。授業は広い講義室で行われるというのも大きな理由だ。

 こういった、学生に対する待遇の違いに、ソルはこれこそ自分に相応しいと感心し、また満足した。


 彼らと散策しながら、ソルは語らう。

「ねえ? それで結局、ソルさんはあれから、アストル王子とどんな話をしたのかしら?」

 リコッテからの問い掛けに、自然とソルの頬が緩んだ。


「そんな。ほとんど普通の話ですわ。お互い、どんなものが好きなのかとか。苦手なものはあるのかとか。私が、ソレイユ地方でどんな生活をしていたのかとか。その当時の友達とか。他には、アプリルやリオン達との思い出についても話したりしましたわね。でも、それが本当に楽しくて、私には素敵な時間でしたわ」

 顔を赤くしながら、ソルは頬を両手で覆う。


「ソル達の方こそ、随分とお熱い時間を過ごしたみたいだね。君がそんな反応をするなんで、僕には想像出来なかったよ。というか、今でも信じられないくらいだ」

「アプリル? あなた、私を何だって思っていますの?」

「いや? だってさあ? 僕に対する態度と違うのは、分かるけど」

 唇を尖らせるソルに、アプリルは苦笑を浮かべる。


「そういえば、ソルもアストルに対しては呼び捨てなんだね。僕もそうだけれど、アストルに対しては、彼に言われてもそう呼ぶのには抵抗を覚える人が多いけど」

「リコッテも、そうなんですの?」

 ソルが訊くと、彼女は頷いた。


「そうですね。私も、呼び捨てでいいよとは言って貰えているけれど。どうしても、それは畏れ多いって思ってしまうから」

 そう言って、リコッテは微苦笑を浮かべる。


「そうね。特に、女子生徒だとアストルのことを王子や殿下を付けずに呼ぶ人っていないって言っていたわね。それを聞いて、つまり、あの人を呼び捨てで呼べる女は私だけとか思っちゃったりもしたけれど。それで、お互いに名前だけで何度か呼び合ったりしてみちゃったりもして」


 お互いの目を見つめ合って、名前を呼び合ったときの光景をソルは思い出す。それだけで、天にまで飛んでいきそうな気になれた。

 こんな自分を見たら、リュンヌは即座に「うわぁ」とかドン引いた表情を浮かべてくるだろうが、知ったことではない。


「呼び捨てについては、アストル王子から申し出たのかしら?」

「いいえ、私の方からですわ。私のことをソルさんだなんて、これからお付き合いするのに余所余所しいって思って。ソルって呼んで貰った方があの人を身近に感じられるからって、そう言いましたの。そうしたら、あの人もそれなら自分をアストルって呼んで欲しいって言ってくれたんですわ」

「流石はアストル王子ですね」

 うんうんと、リコッテは頷く。


「ソル。話してみて分かったと思うけれど。アストルは本当に、心の底からいい人だよ。あんなにも優しくて、思いやりがあって、本当の意味で賢いと思う男は僕はいないと思う。学校の成績こそ、普通だけれど。それでもこの学校は国中の天才や秀才、上流階級の教育を受けてきた人達が集まる学校だ。その中で、中レベルを維持出来ているだけでも、相当に優秀だと思う」


「しかも、それでも努力を怠らず、アプリル君に勉強を教えて貰っているんですよ。その甲斐あって、少しずつ成績も上がっているんです」

「アストルと友達だっていうのは、身分とかそういう話を抜きにして、僕にとって何よりも誇りだよ」

 アプリルとリコッテによるアストルの評価に、ソルも当然だと納得する。

 と、ふと彼女は思い出した。


「そういえばアプリル? あなた、聞いた話によると、こっちに転校して早々にアストルと知り合って友達になったって聞きましたわよ? 当然、リコッテへのプレゼントの相談とかの前ですわよね? どうして、黙っていたんですの? 手紙には『とある人』とか書いていましたけど、私の肖像画をアストルから見せられたこともそうですわよね? もし教えてくれていたら、私は直ぐにでもあの人の所に行って、出会えましたのに」


「あー。あれは、さあ」

 苦笑を浮かべて、アプリルは頬を掻く。


「いや? だって、仕方ないだろう? 手紙にも書いたと思うけれど、本気で黙っていてくれって言われたんだもの。友達として、勝手に言いふらす訳にはいかないよ」

「それは、分かっていますけど」

 そう言って、ソルは頬を膨らませる。


「それだけ。アストルも振られたらどうしようかって恐くて、自分の気持ちを確認するのに時間が掛かるくらいに、君のことを想っていたっていうことだよ。いや、本当に。端から見ていてさっさとしろと思ったけど。僕がリコッテに対してどうしたらもっと仲良くなれるのかって悩んでいる姿を見て、アストルは呆れた顔を浮かべるけどさ。僕からしたら君が言うなって何度も思ったよ」


「もう。アプリル君ったら、私のことなら、そんなに気を遣わなくてもいいって言っているのに」

 そう言いながら、リコッテも満更でもなさそうな表情を浮かべる。

 くすくすと、ソルは唇に手を当てて笑う。


「あなた達、いつもそんな感じですの? アプリルと勉強しているとき、ときどきリコッテも質問しに来るけど、あてられて困るって言っていましたわよ?」

「そんな? 普通だよ?」

「そうですよ。それは、普通にしているつもりです」

 口々に抗弁する二人に、ソルは首を横に振った。


「それが、アストルから見るとそうでもないようですわよ? 二人とも、そこは配慮しているのは見て取れるけど、どうしても声の質が違って聞こえるって言っていましたわ」

 真っ赤になって二人に対して、ソルはにやにやと笑う。


「何でしたら。今後はアプリルの代わりに、私がアストルと二人っきりで勉強して、教えようかしら? その方が、あなた達も一緒にいられる時間が長くなるのではありませんこと?」

「ああ、うん。確かにソルなら、あれからも成績を維持しているって聞くから、それも可能だと思う」

「でしょう?」

 アプリルの反応を見て、やはり悪くない提案だと、ソルは自賛する。


「リコッテは、どう思う?」

 しかし、アプリルから訊かれるリコッテはというと、ちょっと困ったような表情を浮かべていた。


「それは、ちょっと。ええと。私って、アプリル君と二人っきりのままだと、勉強に集中出来るか自信が無いところがあるのを自覚しているの。勿論、アプリル君と一緒にいるのが嫌とかそういうのじゃなくて、その逆の意味で。そうなると、私は、あまり成績がいい方じゃないから、困ってしまうから。アプリル君に教えて貰って、本当に助かっているけれど」


「あら? そうなんですの?」

「はい。だから、私はほどほどにする為にも、私は勉強するためにも、そのときはアストル王子に一緒にいて貰った方がいいんです。それでも、遠慮して分からないときだけ、アプリル君に質問しにいっているの」


「確かに、それもそうか」

 思い当たる節があるのか、虚空を見上げて、アプリルはリコッテに同意する。

「それに、話を聞いていると。ソルさんもアストル王子と一緒にいると、勉強に集中出来なくなる可能性。あるんじゃない?」


「そんなことは――」

 アプリルと一緒に勉強していた頃を思い出しても、無いと言いたいが。

 アストルは彼とはやはり違うわけで、ソルとしても、ちょっと自信が無かった。先ほどの自分の態度を思い返して。


「なら、勉強するときは僕達四人一緒にというのはどうかな?」

「それよ!」

 アプリルの提案に、リコッテが手を合わせて表情を輝かせる。


「そうね。それでも、いいかも知れませんわね」

 それはそれで、楽しい時間を過ごせそうだと、ソルは頷いた。

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