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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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第116話:見合いの席

遂に、愛しの王子と初めて会うことになったソル。

ソル「でゅふ❤」

リュンヌ「本編では、絶対にその顔は止めて下さいね?」

 ソル達が王都へと到着した翌日。

 彼女らは宿に迎えに来た従者の案内に従って、王城へと向かう。

 ソルが送迎の馬車に乗り込む際、アプリルやリオンはどうしているのかと御者に聞いたところ、彼らは王城でアストルと共にソルの到着を待っているという話だった。


 ソルは手持ちの許す限りの、それでも田舎貴族の精一杯の見栄かも知れないけれど、お洒落をした。

 眠れなかったらどうしようかと、少し不安にも思ったけれど、持参した香を使うと熟睡することが出来た。疲れが残っている感じもしていない。


 万全の状態であることに安堵感を覚えつつ、それでも不安と興奮を抑えきれないままに、ソルは馬車の中から王城を無言で眺め続けた。

 エトゥルもリュンヌも、そんな心境を分かってくれているかのように、何も声を掛けようとはしなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 白く輝く王城の中は、静謐で高貴な。ともすると教会か何かを感じさせるような、そんな場所だった。

 高い窓からふんだんに光が差し込んでいるせいだろうか。とても落ち着いた暖かさを感じさせてくる。

 ふと、ソルは頬が緩むのを自覚した。成り立ちが違うというのもあるのかも知れないが。かつて、前世で彼女が生まれ育った城とはまるで異なる空間であった。そのことに、ソルは安堵する。


 と、王城を案内していた執事が、扉の前で歩みを止めた。

「こちらでございます。中で、殿下とご友人達がお待ちです」

「分かりました。ここまでのご案内。有り難うございます」

 ソル達が頭を下げると、執事も同じように頭を下げた。続いて、扉を叩く。


「殿下。ソル=フランシア様とそのご家族様をお連れ致しました」

「ご苦労であった。開けてくれ」

 明るく快活な声が、部屋の中から返ってくる。

 その一言だけで、ソルは言いようも無い何かが前身を駆け上るのを感じた。


 扉が、開く。

 それと同時に、ソルの目も大きく見開かれた。

 彼女は立ち竦んだまま、部屋の中を眺める。


 ここまでの廊下と同じか、それ以上に明るく陽光が差し込む部屋の中に、数人の若い男女が一つの卓を囲んでいた。

 そのうちの二人の顔は直ぐに分かった。忘れようにも、忘れられるはずが無い。アプリルとリオンだ。アプリルの隣には、灰色味が強い髪を持つ少女が座っている。彼女は知らないが、おそらくはリコッテとかいう、アプリルの恋人だろう。


 だが、彼らよりもその奥に座っている少年に、ソルの視線は釘付けとなる。

 少年もまた、ソルを真っ直ぐに見詰め返していた。

 ああ、ずっとこの人を見ていたい。


「――どうか、なされましたか?」

 不意に聞こえてきた声に、ソルはびくりと体を震わせ、我に返った。声の主に気付く。先ほどまで案内してくれた執事のものだ。


「はい。大丈夫ですわ。何でもありません」

 慌てて取り繕った笑顔を浮かべ、ソルは彼にそう答える。

「ええ、大丈夫ですよ。愛しの殿下を拝顔して、思わず見とれてしまっただけですから」

 ソルの背後から、ご丁寧なリュンヌのフォローが入る。


 今度こそ、ソルは真っ赤になって俯いた。内心、こいつお仕置きとか叫びながら。

 だが、逆にそれが良かったのかも知れない。部屋の中の空気が一気に和やかなものになったのをソルは感じ取った。


「よかったね。アストル。君だけじゃなかったようで」

 茶化すようなアプリルの声に、ソルは顔を上げて再び少年へと視線を戻す。

「あ、うん。そうだな。いや、だってこれは。仕方がないだろう? 私だってずっと、この日を待っていたのだから」

 ソルの視線の先では、彼女が想っていた王子が、顔を赤らめながらアプリルに対して口を尖らせていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 当初の予定では、ソルとアストルをよく知る知人達を仲介にしつつ、場を和ませて。そういう話だったのだが。

 ソルが席に着くなり、早々に彼らは退散して彼女らは部屋に二人っきりとなった。この様子なら、そういう真似の方が野暮というものだろうという、リオンの提案だった。


 一様に、全くだという反応で、ソルもアストルも何を言う暇も無かった。

 でも、いきなりこんな風に放り出されて、一体どうしろというのか? ソルの思考はまとまらなかった。心臓の音が五月蝿い。

 切り出す言葉が思い浮かばなくて、ソルはテーブルに目を落とす。しかし、何かを言い出さないと何も始まらない。


「あの」

「あの」

 ぴったり、声が重なった。

 何という偶然なのかと、ソルは心の中で頭を抱える。


「ど、どうぞ。ソルさん」

「いえ、殿下から」

 本当にもう、調子が狂いっぱなしだとソルは自己嫌悪した。

 待つこと数秒して、アストルが口を開く。


「正直なところを言うと、私はまず、今からソルさんに何と言えば良いのか分からない。言いたいことは、沢山あるんだ」

「私も、そうです」

 少し上擦った声で、ソルは答える。


「私は今、とても嬉しい。私の気持ちに対して、ソルさんがわざわざこうして、ソレイユから王都まで来てくれたということだけでも感謝の気持ちが溢れているというのに。アプリルがさっき言ったのは、本当のことなんだ。恥ずかしながら、私は初めて本物の君を見て、思わず見とれてしまった。だから、ソルさんが本当に、さっきは私と同じようになっていたとしたらとか。すまない。とても、舞い上がっているようだ」


「殿下。あれは、本当です」

「本当というと?」

「さっき、リュンヌが言ったこと。私が、殿下に見とれてしまっていたって事ですわ」


「そうか。本当だったんだな」

「はい、本当ですわ」

 自然と、ソルに笑顔が浮かんだ。胸はずっと痛いままだけれど、こんな痛みなら、幾らでも味わっていたいと思ってしまう。

 同じように、アストルの顔にもはにかんだ笑顔が浮かんでいた。


「ソルさん。改めて、王都に来てくれて、ありがとう。それで、私は色々と君のことを知りたい。教えてくれないだろうか?」

「ええ。勿論ですわ。私も、殿下のことを知りたいです」

 勿論だと、アストルは頷く。


「あ、でも。一つだけ、お願いを聞いてくれませんか?」

「お願い?」

 ええ。と、ソルは頷く。


「私のことはどうか、ソル。と、呼んで下さい。呼び捨てで結構ですわ。これから、本当にお付き合いする気だというのでしたら。その方が、私には殿下を身近に感じられます」

「ああ、そういうことか。分かった」

 アストルは、悪戯っぽく笑う。


「なら、ソルも私のことを殿下ではなく。アストルと呼んでくれ。アプリル達にもそう呼んで貰っているように。その方が、私にとってもソルを身近に感じられると思うから」

「はい。喜んで」

 満面の笑顔で、ソルは返した。

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