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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【最終章:王太子編】
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EX26話:もしもこの恋がBAD ENDだとしたら

 長かった冬も終わり、春が訪れようとしていた。

 雪はまだ残ってはいるが、人通りの多い道からはすっかり消えて無くなり、馬車での移動が再開出来るようになった。

 そして、ソル達の出立の日がやって来た。

 馬車に乗るソル、リュンヌ、そしてエトゥルを見送るため、彼女の家族とセリオが屋敷の前に集まっている。


「あなた。王都でのお勤め、頑張って下さいね」

「ああ、分かっている。ティリアの方こそ。俺が留守の間、ソレイユの統治を頼む」

 ティリアはエトゥルから、今度はソルへと向き直った。


「ソルも、くれぐれも殿下に失礼の無いようにね。まあ、あなたのことだから大丈夫と思っているけれど。あと、私から言えることは一つだけよ。殿下と仲睦まじく、幸せになって頂戴」

「ええ。勿論ですわ。少し気が早いかも知れませんけど、これまで私を愛情深く育てて頂いて、本当に有り難うございました。お母様」

 こんな事を正直な気持ちで伝えることが出来るというのは、本当に今の自分は幸せなのだと、ソルは思った。


「お姉様、お元気で。殿下とお幸せに」

「ソル様。お幸せに」

 ヴィエルとセリオも、ソルに別れを告げる。それに対して、ソルは笑顔で応じた。これは、悲しい別れではないのだから、笑顔でいるべきだとソルは思う。


「あなた達も、本当にこれまでありがとう。あなた達の姉として、友達としてこの地で過ごした時間は、私にとって掛け替えのない時間です。決して、忘れませんわ」

 笑顔でいるべきだ。これからだって、手紙を送って絆は保ち続けるつもりだ。でも、そう思ってはいても、目から涙が零れそうになる。ソルは、自分の表情制御に、少しだけ自信を失った。


 彼女らの隣では、ルトゥが御者台に座るリュンヌを見上げている。

「リュンヌさん。僕はとうとう、君に勝てないままでした」

「そうですね。でも、ルトゥ様はきっと、強くなります。ルトゥ様はこれから成長期ですし、今はまだ、体格の差もありますから」


「はい。僕は必ず、君よりも強くなってみせます。君に負けない騎士になってみせます。その時はまた、僕の挑戦を受けて下さい」

「分かりました。楽しみにしています。その言葉、ルトゥ様の方こそ忘れないで下さい。騎士たる者、誓いを破ることは許されませんから」


「分かっています。あと、僕が言うのは僭越かも知れませんが、ソルお姉様とエトゥル様のこと、よろしくお願いします」

「はい。お二人は必ず、僕が守ります」

 二人は深く頷き合った。


 と、セリオもまたリュンヌへと視線を向ける。

 その視線に気付いて、リュンヌは彼女に笑みを浮かべ、頷いた。セリオもまた、微笑みながら無言で頷いた。それだけで、お互いの伝えたいことは伝わっていて、何ももう言う必要は無いようだった。


「父さん。馬車の最終チェックも終わったよ」

 馬車の後ろに回っていたユテルが言ってくる。

「そうか、ご苦労だったな、ユテル」

 ユテルはソルの傍へと寄ってくる。


「それじゃあ姉さん。僕からも挨拶を言わせて貰うよ。今まで色々と扱き使われたことも有ったと思うけど、お世話になったし、本当に感謝している。お元気で、殿下とお幸せに」

「ええ。あなたの方こそ、しっかりやりなさいよ」

 『しっかりと』と強調して言ってやる。その意味を理解して、ユテルは唇を歪めつつ、顔を赤らめた。


「それでは、出発します」

 リュンヌの声と共に、馬車が前へと進む。

 ソルとエトゥルは、馬車から身を乗り出して、見送る人達の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その晩、ソル達は宿に泊まった。曲がりなりにも領主の一行である。宿場町の中でも、上等の宿に部屋を取った。それでも、まだ辺境にある町なので、部屋はソルの自室よりも質素なくらいだが。


「リュンヌ。ちょっといいかしら」

 ベッドに腰掛けながらソルが喚ぶと、今までと同じようにリュンヌが姿を現す。


「何か御用でしょうか?」

「ええ。少し聞きたいことがあるんですの」

「何でしょうか?」

 ソルは小さく頷いて、口を開く。


「王都では、殿下以外に私が結ばれる可能性がある殿方は、いるのかしら?」

「何で急にそんな事を? まさか、殿下の事がお嫌になったのですか?」

 リュンヌの問いに、ソルは首を横に振った。


「そんなはずありませんわ。私は、殿下と会うのを本当に楽しみにしていますもの」

「では何故?」

 ソルは軽く目を伏せた。


「前々から、ひょっとしたらあなたも気付いていたかも知れませんけれど。回想記録で表示される残りが、少ないんですの。ですから、殿下とのお付き合いが、私にとってはもう本当に、正真正銘の最後の機会なのかしらって。勿論、私もそのつもりではあるのよ? でも、気になったんですの」


「僕はどうやら、機能が制限されているようなので、ソル様には視える回想記録は確認出来ませんが。でも、その質問には答えることが出来ます。ソル様の認識にお間違え有りません。殿下とのお付き合いが、最後の機会となります」

「そう。やっぱり、そうなんですのね」

 ソルは嘆息した。


「じゃあ、本当にこれは万一の話ですけれど。私が何らかの理由で、殿下と結ばれる事が出来なかったとしたら。あなたはどうなるんですの?」

「どうなる? と、言われましても」

 リュンヌは困惑した表情を浮かべる。


「あなたは、初めて出会ったときに言いましたわよね。前世で大きな悔いがある。それを雪ぐために、私のサポートをする役目を与えられたって。私が殿下と結ばれることが出来なかったら、あなたも役目を果たせなかったということになりますわ。もし、そうなったとき、私はあなたにどう詫びればいいのかしら」

 少し間を置いて、リュンヌが笑う。


「いつになく、弱気ですね。珍しい」

「私だって、たまにはこんな時くらいありますわ。住み慣れた故郷を離れるんですもの」

「それも、そうですね」

 リュンヌは相づちを打つ。


「でも、そんな心配は無用です」

「私が、必ず殿下と結ばれるから? かしら」

 ソルは笑う。それに応えて、リュンヌも小さく笑った。


「それもあります。けれど、僕はもしもそんな事になったとしても、ソル様を怒るつもりはありません」

「どうして?」

「この二年間、ソル様にお仕えして。ソル様が変わられたことを身近に見てきました。それだけで、僕はもう大分救われているんです。だから、ソル様が精一杯に生きて、悩んで、その上でダメだったら。その結果を責めるつもりはありません」


「許してくれるんですの? 本当に?」

「本当ですよ。約束します」

 リュンヌの言葉に、ソルは安堵した。


「ソル様の方こそ、僕のことより、ご自分の罰の方が気にはならないのですか?」

「大丈夫ですわ」

 覚悟は、それこそこの世界に生まれ変わる前から決めていたのだから。

「私の方こそ、この二年は幸せでしたの。この記憶がある限り、私はどうなろうと大丈夫ですわ」

 そう言うと、リュンヌは大きく溜息を吐いた。


「それは、僕が大丈夫じゃないです。ソル様は、僕から見てもう既に、"裁定を下す者"が望んだ姿になっていると思います。それでも、罰を下そうというのなら、僕がソル様の味方になります」

「ありがとう、リュンヌ。安心したわ。これで、今夜はよく眠れそうですわ」


「なら、結構です。では、僕はこれで失礼します。お休みなさい。ソル様」

「ええ。お休み。リュンヌ」

 恭しく一礼して、リュンヌはソルの目の前から姿を消した。

闇の声①

深夜の宿。

ソル「はあ。今日の移動も疲れましたわね(ベッドに入る)」

???「ふっ」

ソル「(ビクッ!?)」

???「ふっ ふっ ふっ ふっ」

ソル「な、何ですのこの声? どこから? まさかこの部屋、呪われて? 悪霊でもいるんですの?(ドキドキ)」


だが、それは隣の部屋で腹筋に勤しむリュンヌの声だった。


--------

闇の声②

深夜の宿。

リュンヌ「ああ。今日も疲れたなあ。よく寝よう(ベッドに入る」

???「ふっ」

リュンヌ「(ビクッ!?)」

???「ふっ ふっ ふっ ふっ」

リュンヌ「な、何だこの声は? いったい、どこから? 呪われている? 悪霊でもいるのか?(ドキドキ)」


だが、それは隣の部屋にいるソルが王子を妄想して笑っていたのだった。



元ネタ分かる人。年齢なんて気にしないことです。

ソル&リュンヌ「というか、それ壁が薄すぎでは?」

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