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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第一章:転生編】
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EX4話:ユテル=フランシア

今回は弟の紹介

 今生での弟の名は、ユテル=フランシアといった。

 リュンヌにも説明されたが、13歳だそうだ。見た目は、父であるエトゥルをより幼くしたような感じだ。目の周辺の作りは、ティリアに似ているとも思うが。


 前世では兄弟姉妹の存在はいなかった。いや、正確に言えば妾腹にはいたが、これといった付き合いは無い。面識すら無い方が多い。

 それらは、障害となりそうなら排除した。担ぎ上げられそうなら、担ぎ上げる者どもごと失脚させる形で。

 己の意志で立ち向かおうとしてきた輩については、「ゴミ箱」経由で死の底へと叩き落として。面識がある方は、これが最初で最後の出会いと別れだった。


 そんなわけだから、実の弟というものは、初めての存在になる。

 そして今、その弟はというと。ソルの目の前で、自室の中でがらくたと紙束の山に埋もれていた。でもって、一心不乱に金槌を振って、何事かよく分からない物を作っている。

 ちなみに、自室ではない。


 両親曰く、幼少の頃からこんな子だったらしいが。自室でこういう真似をされると五月蝿くて仕方ないと、屋敷の端の部屋にこのような専用の部屋を宛がわれている。元々は、物置部屋だったらしいが。

 彼の寝室は、こことは別にちゃんとあるのだが。防寒具を着込んではいるにしろ、こんな、暖炉も用意していないクソ寒いところによくもまあ一日中いられるものだと思う。


 父やリュンヌには、男の子とはこういうものなのかと訊いてみたこともあるが。「そういう面もあるけれど、ここまでやる奴は滅多にいない」という話だった。

 つまりは、変な奴だということのようだ。

 正直言って、どう付き合っていけばいいのかさっぱり分からない。


「僕に何か用? 姉さん?」

 どう声を掛けたものかと入り口に突っ立っていたら、ユテルの方から声を掛けてきた。なお、彼はまったく視線をこちらに向けていないし、作業も中断していない。

 ソルは軽く嘆息した。


「お母様からの言伝よ。『もう、お昼ご飯も用意が出来たから。さっさと来なさい』ですってよ」

 何で自分が呼びに行かなければと思ったが、生憎とティリアの側にいたのが運の尽きだった。父と妹は彼女が呼びに行っている。

 こんな真似、使用人に任せればいいじゃないかとも思うが。彼らも雪かきや雪下ろしの仕事に出払っていて、そっちはティリアと一緒に料理をしていた、料理人が呼びに行っている。

 リュンヌを呼んで頼むというのも手だったかも知れないが、ティリアに直に頼まれている以上、そこで話の齟齬が起きても面倒くさい。確認される可能性は、低いと思うが。


「ああうん、分かった。もう少ししたら行くよ。というか、先に食べてていいよ。みんなにもそう言っておいて」

 生返事が返ってくる。

 視線も手元から動かない。

 薄い期待。半眼を浮かべて、彼を眺める。


 黙々と、作業を続ける彼を眺めること、大体三分くらいか。

 ソルはそこで見切りを付けた。

 つかつかと、小屋の中へと入り、ユテルの側に立つ。


「いだだだだだだだだだだだだっ!?」

 おもむろに、彼の耳を容赦無く引っ張った。途端、弟は悲鳴を上げる。

「さっさと来なさいっ! みんな、待っているんですのよっ!」

「分かったっ! 分かったからあっ!」

 どうしてもダメならこうしなさい。と、母にも言われている。これもあって、母は使用人ではなく、肉親である自分に頼んだというのもあるかも知れない。


 涙目になりながらユテルは立ち上がり、ソルに耳を引っ張られるままに付いてくる。

「ちょっ!? ちゃんと行くから、離して?」

「本当でしょうね?」

「本当だってばあっ!」

 いつでも掴み直せるように油断せず、弟の様子を伺いながら手を離す。

 反撃は無かった。痛い目を見せれば、しばらくは懲りるらしい。

 唇を尖らせ、睨んではくるが。


「あのさ? 姉さんはもうちょっと、こう手心ってもの無いの? もういい歳なんだし、そんなんだとモテないし行き遅れても知らないよ?」

 無言で、素早くソルはユテルの耳を掴んだ。

 これ以上、余計なことを言えばどうなるか? それくらいは、この弟も理解出来る頭はあるだろう。

 数秒、ユテルは何事かを考えるように、唸った。


「じゃあ、せめて交換条件に応じてよ?」

「交換条件?」

「そう」

 小さく、頷いてくる。

「姉さん、最近は何か薬作りに凝っているんだってね?」

 ソルは目を細めた。


「どこからその話を?」

「リュンヌから聞いたよ。何だか疲れた様子を見掛けたら、そんな話を教えてくれた」

「なるほど」

 特に秘密にしろと言った覚えは無いが。あまりにも口が軽く余計な事を言うようなら、彼には付き合い方と教育を考えるべきかも知れない。


「それで、薬作りの道具で困っている事って無い?」

「あら、そういうこと?」

 にやりと、ソルは笑みを浮かべた。この弟は、なかなかに抜け目なく、頭が回るようだ。

「もし、僕に作って欲しいものがあったら言ってよ。その代わり、姉さんにも手心をお願いしたいなあ」


 自分の役に立つ物を作るから、代償として手心を寄越せ。その上で、何か作れればそれが楽しいユテルにとっては、作る物の指定はさして損でもなく、「姉のため」という家族への口実すら出来る。

 悪くない取引だ。

「考えておきますわ」

 再び、ユテルの耳から手を離す。

 「でも、今はさっさとご飯に行きますわよ」と続けたが。

明日は妹の紹介の予定です。

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