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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第六章:青年実業家編】
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EX20話:アストルの決意

 アストルは自室で、小さく嘆息した。

「本当に、参ったな。これは」

 彼の視線の先には、金髪緑眼の少女が描かれた肖像画がある。少女の名前はソル=フランシア。ソレイユ地方という片田舎の男爵の娘だという話だ。


 最初は本当に、そんなつもりは無かったのだが、各地から集められた肖像画の中から、彼女を見て思わず目を奪われてしまった。友人達から聞いた恩人の容姿だから気になったとか、彼らにも見せてやりたいと思ったとか、色々と言い訳をして手元に置いていたのだが。


「流石にもう、限界だろうな」

 友人達からは、既にこの絵を手元に起き続けていることについて、何度もせっつかれている。

 それどころか先日、とうとう彼女の家から肖像画の様子がどうなっているのかという問い合わせが来た。この肖像画も、彼らが娘の良縁を望んで画家に描かせたものなのだから、何の音沙汰も無いとなっては、不安を覚えるのも当然だろう。


 友人の他に、この肖像画を描いた画家にも話を聞いた。とても賢く気品があり、才能を持った娘だと一様に評していた。実際に、彼女が興したビジネスで作られた化粧品などが王都でも少しずつ出回り、高い評価を得るようになってきたあたり、彼らの評価に嘘偽りは無かったということになる。

 つい最近は、彼女の基に商談に赴いたという商人からも話を聞いてみたが、彼の評価も同じだった。更に言えば、彼の婚約者もこの肖像画を描いた画家と同じ画家に絵を描いて貰っていたそうなのだが。肖像画が不自然に盛り上げたということも無いようだった。


 ソル=フランシア。彼女が如何に美しかろうと、その中身がただの地方貴族の浅学な小娘だったなら。アストルも無理を言って彼女を娶ろうなどという真似は出来ない。曲がりなりにも、行く行くは王妃になる可能性があるというのなら、この国を背負えるだけの相応の器というものが要求されるからだ。

 しかし、幸か不幸か、肖像画の少女はそれだけの器量を見せている。故に、アストルは心を奪われたまま、絵を手放すことが出来なかった。


「そうか。やはり、私はこの少女に恋しているのだな」

 胸の痛みを覚えながら、アストルは認める。認めるしか無かった。もしも、このまま一目も直に見ること無く彼女を他の男に奪われたなら、それはどれほどの胸の痛みになることか。それを想像するだけでも、アストルにとっては恐ろしいと思えた。


 それに、長くこの絵を独占し続けてしまったことにも、責任は取らなければいけないと。そう、アストルは思う。

 だから、先ほど呟いたとおり、限界なのだと。アストルは折れた。


 アストルは、長く世話になっている老執事を呼ぶことにした。彼からも色々と言われるだろうが、もはや構わない。王と王妃である両親に対しても、何をどう言って了承を取り付けるかは算段は整えている。確かに、身分の壁というのはあるかも知れない。けれど、これしきの壁も越えられずに、気になった女性の一人も手に入るものか。守れるものかと思う。

 一度決意したら、後はもう動くだけだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 説得は、思っていたよりは抵抗が無かった。

 全くの抵抗が無かったと言えば嘘になるが、それでも友人達と相談し。というか、彼らから何度も聞かされた「もしも、ソルとお付き合いしたいならどう言っていけばいいか」を実践すれば、何とかなった。ソルのビジネスの手腕は、特に強い説得力を持っていた。

 アストルが動き始めた数日後、彼は自室にベリエを招いていた。


「一度は、話を聞くだけという無礼な真似をしてしまったが。此度は依頼を引き受けてくれて助かる」

「いいえ、滅相もございません。何事にも、機というものがあることは、私も承知しております。むしろ、私のようなものに王子自らが依頼をして頂けるとは。身に余る光栄でございます」

 キャンバスを隔てて、ベリエが恭しく頭を下げる。


「しかし、何故また私がご指名頂けたのでしょうか?」

「ソルに私の肖像画を見て貰おうというのなら、其方に頼んだ方が、彼女も信頼出来ると思ったのでな」

「なるほど。左様でございましたか。殿下は、細やかなお気遣いをされるお方なのですね」


「そうかな? ただ、少しでも良く思われたいと臆病なだけだ」

 そう言って、アストルは小さく自嘲した。ベリエの口元を見るに、彼はまた別の解釈をして、それで笑っているように見えたが。

「それと、僭越ながら、お聞かせ願えないでしょうか?」


「何だ?」

「ソル様の絵を見て、心が惹かれたと聞きました。だから、こうしてあの方に殿下の肖像画を送ろうとされているとも伺っております。では、殿下はソル様のどこに惹かれたのでしょうか?」

 ベリエからの問いに、アストルは軽く呻いた。


「それは、言わないとダメなものなのか?」

 正直、口に出すには物凄く恥ずかしいので、勘弁して欲しいとアストルは思った。

「勿論でございます。ソル様のどこを魅力的だと感じたのかをこの絵に込めなければ、あの方にも殿下の想いを十二分に伝えるのは難しいでしょう」

 しかし、ベリエの回答は容赦が無かった。アストルは観念する。


「分かった。答えよう。とは言え、身も蓋もなく言ってしまえば。すべてだ。すまない。言葉を上手く紡げなくて。あの絵からは、彼女が持つ気高さや聡明さを視た気がしてな。それに、白い夏着を見て思わず思ってしまったのだ。これが婚礼衣装ならば、より映えるのだろう。私は、彼女の婚礼の姿を見てみたいと。そう、思った。これで良いか?」


「お答え頂き、ありがとうございます」

 満足げにベリエは頷いてくる。また、彼のその笑みが、どこかアストルには気になった。

「思い過ごしならいい。だが、君のその笑み、何か含みがあるように思えるが?」


「いいえ。そんな事は決して。ただ、そこまで読み取って頂いて、あの絵を描いた人間としては嬉しいのですよ。まさに、そのように受け止めて頂きたく、あの絵を描いたのですから」

「そうか」

 だとすると自分は、どこまでが計算なのか分からないが、この男の手の平の上で転がされたとも言える。そう、アストルは思った。だが、それはベリエの腕を褒めるべきであって、不快だとはアストルは感じなかった。


「長く。私はこういう話には積極的にはなってこなかったし。なれないと思っていた。けれど、恋というものはいつの間にか、落ちているものなのかも知れないな」

「そうかも知れませんね」

 独白のように言ったアストルの言葉に、ベリエも同意して頷いてくる。


「ですが、そう仰るということは、何か心に引っ掛かるものでもおありなのでしょうか?」

「そう見えるか?」

「はい」

 首肯してくるベリエに、アストルは少しだけ視線を落とした。


「かも知れないな。私はもう、歩き始めている。もう、止まってばかりはいられないんだ。それが分かっていても、まだどこか、迷いでもあるのかも知れぬな。そんな心も、君には視えてしまって、描くのに邪魔になるか?」


「申し訳ございません」

「いや、詫びるのはこちらの方だ」

 頭を下げるベリエに、アストルは笑って許す。


「ふむ? では、一体どうしようか?」

 虚空を見上げ、アストルは顎に手を当てて考える。

「よし。それなら、私はソルの肖像画を見るから、その姿を君に描いて貰う。それなら、私の意識も彼女への想いで埋まるだろう。それでどうだろうか?」


「妙案だと思います」

 ベリエの賛同を得て、アストルはソルの肖像画を取りに向かう。

 そう。もう立ち止まり続けてはいられない。アストルは、心のすべてをソルへと向けた。

リュンヌ「この話を書いている人が、何だか黄昏れてますが」

ソル「どうせまた、つまんないことで悩んでいるんでしょ?」

リュンヌ「そうですね。今回のエピソードを書いたことで、とうとうネタの一つが潰れること確定になったとか」

ソル「どんなネタですの?」

リュンヌ「ソル様に失恋して、傷心を癒やすために国中を放浪しているベリエが、各地でマドンナにまた惚れたり失恋したり。何やかんやでマドンナに肖像ラフスケッチを描く人情劇です。そして、彼が去った後に、王子によるベリエ捜索隊が肖像ラフスケッチを見付けて彼の正体を説明し『あの人が!?』と、マドンナとその周囲の人達が驚くという」

ソル「よく分かりませんけど。元ネタがもの凄く古い気がしますわ」

リュンヌ「だいたい、『コ、コッペパンが食べたいんだな』とか言ってヒロインに助けられるそうです」

ソル「もう、意味が分かりませんわね」

ベリエ「私、それだと裸にされていたんですかね?」

リュンヌ「それに、実家に帰ると妹に『いつかお前の喜ぶような偉い兄貴になる』とか言います。まあ、書いている人もよく分かってないんですけどね」

ソル「本当に、どこからツッコミを入れたらいいんだか」

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